第11話
「こんなの聞いていないわ」
と声をあげたのは美鶴であった。
「全くだ。普通の高校へ通えると思ったら。まさかこんな仕打ち」
ノエは3人に対して「君たちはまず普通の校舎で授業はしない。北高校の裏山に登ってきて」と。そう言われていた。
そして大社北高校の校舎裏側。山があった。丁寧に階段までついている。しかし。
首を見上げても、頂上が見えなかった。
これを。7月。初夏が過ぎた今登れというのか。
「こんなもの拷問だよ」
美鶴は言う。彼女は神の力を持っておきながら、運動神経というものは一般人よりも遥かに鈍かった。こんな真夏に山の頂上に行けるなんて思えない。
「まぁ、ノエ先生が登れと言っていたのなら素直に登るしかないね」
イツは右足を一歩。前に踏み出した。そして登り始める。
「まぁ、しゃーねぇーか。登るしかないな」
とヨルもまた。イツの後に続く。そして
「あっ、ちょっと待ってよ。私を置いて行かないでよ」
と。美鶴も登り始めた。
それから10分ほど。真っ直ぐ登ったところであろうか。
「見えてきた」
と、イツは言う。目の前には鳥居があった。しかしその鳥居はただの鳥居ではない。
「敦賀の気比神宮よりも大きいぞ。あれ」
その鳥居は、高さ10メートルは優位に超えるだろう高さであった。
「こんな鳥居。学校の敷地内にどうして」
「これほど立派な鳥居だと、観光地化されてもおかしくないはずだけれどもな」
神の力を持っている3人ですら、この場所にこんなものがあるなんて。知らない。
「ここに神が祀られている。そんな気配は何もないけれども」
とイツは階段を登り切りその鳥居を触れた。
参道のい左横には日露戦争記念碑が高くそびえ立っている。
右横には手水舎がある。その水は透明よりも少しエメラルドの色がついている。そして参道の先には隋神門。その横に神楽殿があり、その先にようやく拝殿がある。神社としては随分と立派な作りである。
「本当、なんなんだよ。ここは」
とヨルは唖然としていた。
「不敬です!」
そして目の前から声が聞こえる。
そこにはイツたちと同じ制服を着た少女がいた。そしてイツたちの方へ向かってくる。
「ここは神聖な場所です。鳥居は神様の通り道です。それを、礼もなしに真ん中通るなんて不敬です」
「いや、僕たちは」
その神の一部である。だから決して不敬ではない。そう言おうとした。
「不敬です。不敬です。なんですか。その目は」
「だから」
「第一にここは先生の許可なしでは入れない場所です。入れるのは生徒会の選ばれた人のみ。ここに入りたくて私はどれほど努力をしたか。あなたたちは選ばれた人なのですか?」
「いや、だから」
「選ばれた人ではないでしょう。それだったらここからすぐに去るべきです」
「私たちは」
とヨルは一生懸命弁明しようとするが目の前の少女はその余地を与えてくれない。
そして右中指と左中指を立てそれを合わせる。
「オンシュチリ キャラノハ ウンケンソワカ」
そう唱えた。
(密教の大威徳明王調伏法)
まさか、調伏師。とイツは思った。
確かにノエはこの学校には何人もの特殊能力を持った人がいると言っていた。それなら1人ぐらい。イツと同じような調伏師がいてもおかしくはない。
「大威徳明王。これは厄介」
イツはゲドーを調伏しようとした。
しかし……
何も起こらない。目の前に小さな木枯が発生するだけ。
(よく見るとあの大独股印。偽物だ!!)
つまり目の前の少女。能力者ぶった無能力者。普通の人間ということになる。
「どうだ。呪いをかけてやりますよ。参りましたか」
イツははぁ、とため息を吐く。
そして彼女はポケットから一枚の紙を取り出して、それを息吐く。するとその紙は一匹の蛙になった。
「な、何ですか。そんな手品を使って」
「いや、いい。あそこの蛙をよく見て」
そしてその少女と同じように中指を立て合わせ、大独股印を作る。
「オン キリクシュチリビキリ タダノウウン サラバシャトロダシャヤ サタンバヤサタンバヤ ソハタソハタソワカ」
そう唱えた瞬間。その蛙は仰向けで倒れた。
「な、何を」
「何をって。大威徳明王を調伏したのです。大威徳明王といえば、死神を倒す神です。こんな神。調伏するのはそんな簡単じゃないよ」
「いや、イツは調伏できているじゃないか」
「うん。流石にこの神を調伏出来るようになるのにかなりの時間かかったよ」
「な、何よ。あなたたち悪魔ですか」
「いや、だから神だって」
「不敬です。不敬です。あなたたちがそんな、神様なわけないです」
その少女は涙目になっていた。
「不敬なのはあんただ」
と、後ろからやってきたノエが教科書で少女の頭を叩いた。
「何が騒いでいるから来てみたら。何、転校生に絡んでいる」
「だって先生。だって」
「だってじゃない」
そしてノエは少女の頭をグイッと下げた。
「すまないな。うちの生徒が不敬なことをしてしまって」
ノエは白い歯を見せて。
「ともかく、大社北高校へようこそ」
と言った。
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