第10話

 ゲドーは外で待っていた。かれこれ30分は待っている。


(制服に着替えるだけでこんなに時間がかかるものかね)


 と。

 そもそも、あのイツに制服姿を見られたくないという羞恥心があったことに驚きだ。

 彼女は部屋の中でもシャツ一枚の半裸で寝ているのに。


「ゲドー、制服に着替えるから外出て行って」


 と追い出されてしまった。

 欠伸をする。空は晴天。ハレの日。


(お嬢もついに高校生になったのか)


 人間界の時の流れは早すぎてゲドーは驚く。ほんの少し前まで、ハイハイをしていた言葉も喋れないような女が高校に進学。

 そもそもイツが高校生になるとも思っていなかった。ずっとあの狭い部屋で引きこもって息耐える物だと思っていた。


(それにしても、あの布一枚履くのにどんだけ時間掛かっているんだ)


 かれこれ20分は外で待っている。ゲドーの姿は一般人には見えないのだが、それでも。やはりチラチラとアパートの住人と目が合っているようで嫌だ。


 しばらくして、ドアが開いた。


「遅いぞ、おじょ……」


 ゲドーは言葉がつまった。

 セーラ服に身を包まれたイツがそこにはいた。


――ナツ


 神宮ナツ。イツの母。彼女も実は同じように大社北高校に通っていた。


――ねぇ、ゲドー、私高校で目標があるんだ


――まずは友達100人作ること


――そして困っている人を救うこと


――ふん、俺は止めやしねーぞ。好きにしな。


 聞こえる過去の声。

 イツは顔を赤らめている。そして。


「ねぇ、ゲドーやっぱり変かな?」


 やはり。こいつは。ナツの子供だ。


「ねえ、なんか言ってよ。ゲドー」


「ふ、ふん。別に。それなりに似あっているんじゃねーか」


「それなりって何?」


「さぁーな」


 そして2人は大社北高校へ向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る