第7話

 などと言っても。

 実際はそう簡単に神が死ぬわけない。そう檜木ノエは思っている。


 先ほどは、神だとか、道徳とか、そんなことを言ったが実際、本当の戦う理由。それはただ格好いいから。ヒーローに憧れているから。それだけであった。


 檜木ノエが能力者だと知ったのは高校生の頃。親から代々市子の血を引くものだと教えられた。嬉しかった。それまで凡人として生きていた彼女からすれば、そこに他人との差別化ができたから。


 そしてその力は正義の為に使う。それが彼女の信念であった。


(それにしても)


 周囲は煙に囲まれている。更に、元々分厚い雲に囲まれているのでより一層、周囲が見ずらい状況であった。

 その中で相手。イツの姿が消えてしまった。一体、どこへ消えてしまったのか。

 逃げられたのなら、まぁそれはそれでいい。


 実のところ。別にイツを殺すために接触したわけではない。本当の理由は。


 そう思ったら声が聞こえる。


「あなたの思想なんてどうでもいいの」


 と四方向から声が聞こえる。

 そして煙が晴れると、四方八方イツがいた。


(これは、式王子が4体)


 やはり。噂通り。式王子という式神を1体でも召喚させればすごい方であった。それをイツは4体同時に召喚している。


(やはりただものではないね)


 この4体の式神。一式王子、二式王子とそれぞれ同じように神の力を持っている。

 つまり一体でも討伐厄介な神を当時に相手しないといけない。


 ただ、それの対処法はある。それは式神というのは召喚者がいて成り立つものである。つまり召喚者が負傷をすれば、それぞれの式神の能力は失う。


 と言っても、4体のイツは全て一緒に見える。どれが本体なのか。分からない。


「さて、どれが本当の私でしょうか」


 などと煽ってくる。そんなもの、分かるはずがなかった。だから方法は簡単。


 もう一回手で輪っかを作る。


「そんなものわかんないよ」


 だから。

 その4体の後ろに黒い球が出てくる。そこから。


(火炎後背)


 まとめて燃やせばいい。

 その4体全て、火に包まれた。


 炎というのは便利だ。

 時にはカグツチのように人の命を奪うことだってあるけれども。煩悩やその全てを纏めて燃やしてくれる時だってある。


 彼女は息を吐く。

 もっと、もっと強く燃やしておくれ。そして。


 いや、と。檜木ノエは笑った。その炎の中。悶え苦しむ姿などない。ただ金剛力像のように突っ立っているだけであった。


 その炎はどんどん大きくなっていく。

 しかしこれはノエの力ではない。

 その炎は四方向からノエの方へ迫って来る。


「どう? 大好きな炎に囲まれる気分は?」


「本当、最悪だよ」


 そしてその炎は彼女を襲った。


「……このバケモノめ」


 やはり。この神。叶うはずなどなかった。

 世の中の万物全てを調伏する力を持つ神。神宮イツには。

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