第2話 ボレロ その1
幾らかやり越したなと、安堵に満ち足りた時間の過ぎようの中でふと思う、あの瞬間の
微笑みに、自分は幾らかの取りこぼした気持ちの中身を、取り返せたんだろうか?とふと
回想していた。彼女の笑顔を想像しては、自分のあからさまな自覚のなかに、芽生えた好きという感情は、きっと、自分の中のはじけ飛んだ快感に似た、自由への疾走感に感じつつあった。嫌いな人への感じ方のいきさつを汲み取るより、きっと、簡単ではないだろう
。あの一瞬で彼女のどこが気に入り、どこが
嫌いじゃ無かったんだろうと、うまく区分したところで、自分の心情のなかでは、どこか
しらいい雰囲気の女性としか、思えていないことへの、複雑な気持ちが、変に、自分に過度な心配性で神経質で稚拙な自分の一面に触れるようで、若干、心がぶれるのである。それでも、彼女への思いは止まらないのだ。幾多のあまねいた恋の誤算を感がみても、つまりのまた、一方的な片思いの様相に感じていても、またどこかで会えるのではと、胸のドキドキがおさまらなかった。そして、彼女は再び僕の前に姿を現したのだった。同じスーパーマーケットで。その時の彼女は、ちょっと印象が違っていた、髪型も以前と変わっていたのだが、どことなく落ち込んで暗い印象がしたのだった。何かあったんだろうか?
ふと、おせっかいな思考回路が働いたのだった。考えるすべての要因で、圧倒的多数の意見が出たのは、失恋・・したのでは、という
その場限りの、印象だけで察するには、あまりにおこがましく、簡単な考えだった。
「今となれば
嘘のつけない大きな声や
家事に向かない荒れた手のひらも
君を形成(つく)る全ての要素を
愛してたのに
心変わりを責めても君は戻らない
いつか街で偶然出会っても
今以上に綺麗になってないで
たぶん僕は忘れてしまうだろう
その温もりを
愛しき人よ さよなら」
しかし、その場の癇癪じみた、自分の短気なシナリオで、彼女の恋を終わらせることは、できないと判断した僕は、2回目の出会いを
こちらから終わらせる事にしたのだった。
一体、どうしたんだろう・・?こんなに、色鮮やかに思えた僕の恋勘定は一気に冷めかかったように思えた。あの、冴えない感じはなんだろうか?と自問自答しても、全然すっきりしない、後味の悪い印象になった。
こんなことなら、一度キリの出会いでよかったのにと思うほど、自分の性懲りもなさに自尊心が破裂しそうで嫌になった。だから何だろうか、聞き分けのいいはずの自分が妙に逆らった態度を見せたがるのだ。もし、彼女に良からぬことが起こったとして、自分がいかにも些細なことに囚われていることの現れとして、自分の感情の一部分のアレルギーの様
な、感謝したくてもできない気持ちの表れとして、自分の中でこの恋は無かった事にしたいという感情の具体性が、あの一瞬の陰りのような曇り顔だった。
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