第20話


「あの、その、セシルさん……さっきの、お、お、お出かけの話なのですが!」

「あぁ。確かにそんな話は出ていたな。流してしまってすまない。必要ならば今度の休みにでも__」


忘れていた。後輩の面倒を見るのも先輩の役目だろうに、今までは自分のことばかりで何もできないままでいたのだからこれからはしっかりしなくては。

騎士同士のお出かけというのはきっと訓練の誘いに違いない。先程も考えていたがこの演練場は休日は立ち入り禁止。ならば街の運動場を借りなくてはならない。

ここは先輩として料金を払って貸し切りにするべきだろう。人に見られるのも気が気じゃ無いだろうし、まだ若いとはいえ騎士が使用するのだ。民にとっても危険かもしれない。

そんな事を考えながら休日の予定を頭で組もうと思っていたが__『皆と一緒に鍛錬をしよう』と言いかけた言葉はまたしてもジャック卿に止められてしまった。


「悪いな、今度の休日はセシルは僕と買い物の予定があるんだ。誘うのはまた今度、みんなが集まれる時にしてくれ。」


みんな、という言葉を強めた言い方だ。聞いた瞬間『まただ』と思った。

昨日も感じた事だが、彼が強調した単語は妙だがその通りかもしれないと思わされる。聞いた側が不思議と丸め込まれてしまう力でもあるようだ。

現に今もそんな約束しただろうかという疑問よりも、確かに今月は休みを取っている騎士は少なかったし別の日の方が良いのかもしれないと首を縦に振った。

それを同意を受け取ったらしい。後輩は少し寂しそうにしながらもみんなと一緒に出掛けられる日を待つと言ってくれた。すぐにでも強くなりたい気持ちがあっただろうに、きっと皆と揃って騎士としての力を高め合いたいのだろう。なんて健気で素晴らしい後輩のだろうか!

先に演練場へと行ってしまった騎士達を見送る。あんなに騒がしかったのにいつの間にかジャック卿と二人きりになってしまった。こちらも着替えたらすぐに向かおう。


「……まさかお前さん、お出かけに関して何か物凄い勘違いをしてないか?」

「何だ?私はちゃんと彼等に合わせたメニューをちゃんと考えた上で指導をする予定だったぞ。でもそうか、皆と一緒に訓練をするならば先輩の意見も聞くべきだったか……!」


それは盲点だったと自身の頭の悪さを悔いていると、ジャック卿はポカンとした表情をしていた後何かを理解したかのように突然吹き出して大声で笑い出した。

追加で『そうだよな、お前さんはそんな女だったな』だとか『あれ位の態度で察してもらえるなら今頃僕は苦労知らずだ』とかよく分からないことを色々言っていたが、ここまで笑われるとついに気が狂ったかと思ってしまう。

奇異の目で彼を見ながら本当に何なのかと訴えたが、彼はそれからも笑うばかりでまともな返しはされなかった。


「別にお前さんを悪く言ってるんじゃないんだ、ただ無駄に嫉妬して損したってだけさ。」


散々に笑って落ち着いて言われたのはこれだけ。結局何に笑ったのかは分からず終いだ。

嫉妬だ何だと言ってはいるが、後輩と一緒に鍛錬したかったのなら素直に言えば良いだろうに、つくづく変な男だと思う。

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