第17話
「セシル!お前、大丈夫か!?」
「何で王子の妃になるはずのお前の名前が別の女の名前になってるんだー!?改名したのかー!?」
「馬鹿お前、なんで改名とかの話になんだよ!普通に考えて王子がセシルを裏切ったって事だろ!」
「何でこんなにも直向きで努力家な娘が……今の若い子の好みは分からんな。」
「俺もあと20歳若ければ土下座してでも妻になってくれなんて泣き付くレベルの良い女なのになぁ。勿体無い。」
ギャーギャーと騒ぎ出す周囲の反応にポカンと開いた口が塞がらない。
まさかこんなにも同期から心配されたり、先輩から同情されるとはカケラも思っていなかった。
てっきり私が王子の妃になると決まって、それが国王に認められ始めたから仲間の騎士達が出世したさに私を持ち上げているのかと思っていた。でも違った。
彼等もまた、ジャック卿と同じように私の努力を本当の意味で認めてくれていたのだ。
今も尚、ここに居ないとはいえ王子に対して不敬罪ギリギリの発言をしている者までいる程だ。そうしてまで私を慰めてくれている。
こんな状況になるまでそれに気付けなかったなんて……視野が狭いにも程がある。そして自分が思っている以上に自分に自信が無かったのだと思い知らされた。
「セシルさん、あのあの、その、つまり今のセシルさんはフ、フリーって事で良いんですかね!?」
「おま、今そんな事聞くなよ!気になるけども!じゃなくて、セシル先輩!こいつの事は気にしないで欲しいっす!」
フリー……自由、という事だろうか。
確かに今まではキリアン王子の妃になる者として恥ずかしくないようにと、王国に関係しない事はほぼ我慢を強いていた。
趣味だった読書も、小説よりも参考書や国の歴史や政治に関するものばかりだった。
花を育てる事も好きだったが、地味な花は嫌いだと言われてからキリアン王子が好きな薔薇の切り花を部屋に飾る程度で終わっていた。
オシャレには興味はあったが、騎士として認めてもらう事が先決だと思っていたし、王子の御付きの召使の人にも『妃になった暁には支度は全てこちらに任せて欲しい』と言われていてドレス以外の服を自分で選んで着るのは無駄なのかもしれないとも感じていた。
でも自由になったのなら……少なくとも妃の教養については勉強はしなくてもいいし、小さな植木鉢で質素な花を育てても嫌な顔はされないし、街のブティックに並んだ愛らしい服を町娘の様に見て回ってもいい。
何故かそんな普通の事にワクワクしている自分が居る。昨日までは前までの窮屈な生活が楽しくて仕方がなかったはずなのに。
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