第16話


昨日は濃い一日だった。

そんな事を考えながら目を覚ます。

5年も慕ってきた王子に振られ、あんなにも落ち込んでしまっていたにも関わらず普通に爆睡を決め込んでしまった辺り、私は自分が思ってる以上に図太い性格をしているのだろうか。

いや、違う。普段から睡眠時間を固定していて身体が慣れているからとか、昨夜は泣き疲れてしまったからとか色々と理由はあるだろうが、一番の理由はジャック卿__彼が頼っても良いと言ってくれたからだろう。

それはそれは彼からの思わぬ告白にはかなり驚いたし、面食らった。甘い言葉をかけられた事を思い出してはその度に身悶えてベッドの上を転げ回ったりもしたが……それ以上に安心したのだ。

王子の妃候補やら女騎士の誇りやらゴテゴテに飾り付けられた異名を抜きに《セシル・ニール》自身を認めてくれる人物が一人でも居るという事に安堵した。

例え他の騎士に『王子の妃にならないなら媚を売る必要はない』と、国の民に『結局騎士は妃様になれない』と言われても__ジャック卿が代わりに私を認めてくれる。その確信が小さな希望として心にあるのだ。

今もこうして胸を張って朝日の下で立っていられる。これのなんて清々しいことか。

いつもよりも心なしか早足で騎士団の集まる演練場へと向かう。

周りから酷く言われて傷付かないなんて言ったらそれは嘘になる。しかし、はいはいと受け流せる程度の余裕はある。好きなように言わせてやろう。


「おはようございます。」


いつも通りの普通の挨拶だ。

そのはずなのに先に演練場に着いていた他の騎士達の会話はぴたりと止み、一斉に視線がこちらに向く。

もう既に私が妃になれなかった事は周知しているのだろう。それもそうだ、朝からその報道が新聞に掲載されていたのだから。

【ドゥメルク王国の王子キリアン・ドゥメルクの婚約相手が正式に決定。お相手は一般女性であったナタリー・サランジェ嬢】なんて一面に掲載されていれば余程の新聞嫌いでもない限り嫌でも目に入る。

何を言われるのだろうか。嫌味だろうか?皮肉だろうか?罵倒だろうか?悪態だろうか?

背筋を伸ばしながらもかなり身構えたが、周りの反応は私が思っていたものとは違う……いや、違うなんて比じゃない。全くの真逆の反応だった。

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