第13話
少し捻くれた言葉。どんなに鈍くても流石に伝わるだろう。
この男……ジャック卿は私を好いてくれていたのだ。しかも、私が騎士としてまだまだ未熟だった時から。
自覚すればするほど顔が熱くなる。しかし今まで恋愛対象として見たことが無かった相手だ。当然嬉しいという感情よりも困惑や羞恥が勝る。
それにキリアン王子にフられたからとすぐに別の男に乗り換えられるほど図太くはないし、気持ちも向かない。
諦めようだなんて決心したつもりだったが、結局のところ私はまだキリアン王子が好きなのだ。今ここで王子が私を追いかけてくれて『やっぱり婚約し直せ』なんて偉そうに言われても、私の答えは当然『はい』だろう。
まぁ、王子の外出時間外になる程時間が経ってしまった今も尚、彼は追いかけて来てはくれなかったが。
とにかくジャック卿からの告白は断らなくては__口を開きかけたが、出かけた声にストップがかけられた。
当然ストップをかけたのは目の前のジャック卿で、手の平をこちらに向ける彼の顔はどことなく寂しそうに思えて喉元まで出かけた声を無理矢理飲み込んでしまった。彼の表情を見つめ続けないと噎せてしまいそうだ。
「悪い悪い、別にお前さんを困らせたかったワケじゃないんだ。あくまで第二の選択肢として僕が居るってことだけ覚えててほしいんだ。」
「第二の選択肢?」
「一番に王子を好いていても構わない。これからもずっと奴を思い続けても構わない。だがお前さんがもし今と同じくらい辛いことがあって、その時一番に頼りたい相手に頼れなかった時、僕を頼ってほしいんだ。」
恋愛感情とかそういうのは今は置いておいてさ、今は。と彼は余裕そうに笑う。今を強調されたのには私も少し笑いそうになった。
キープとか、保険とか、嫌な言い方をしてしまうなら彼はそんな立ち位置でもいいから私を支えたいと言ってくれているのだろう。誰しも好きな相手の一番になりたいと思うだろうに、それでも今の私の気持ちを尊重して待ってくれると言ってくれている。
卑怯な男だと思う。狡猾な男だとも思う。そんな言い方で思いを伝えられたら、駄目の一言で断るに断れないじゃないか。
だって今の私の感情を言葉にしてしまうなら『もう妃になれなくても構わない。ナタリーという女性を妃にし、彼女を愛し続けても構わない。でももし彼が脅威に苛まれることがあれば、騎士として王子を守る権利くらいは欲しい。』だからだ。
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