第12話


「お前さん、かなり几帳面なんだな。あんなに穴が空きそうなほど見られてるのに誰一人として文句を言いに来ないのが良い証拠だ。」

「几帳面……いや、私は一度極めようと決めたら人並み以上にならないと気が済まないだけだ。」

「へぇ、いい性格だな。根っからの凝り性で努力家なんだな。お前さんを見てると難癖つけたいだけのオッサン連中がこぞって集まって来ては何も出来ず帰ってを繰り返してて飽きないぜ。」


そう言ってケラケラ笑いこちらが研いだ剣を丁寧に磨く彼を、私はただ変な奴としか思っていなかった。人間観察が趣味なのだろう、くらいの認識だったとも思う。

だから彼がその後言ったあの言葉も、私は深く考えたりはしなかったのだ。


「僕はお前さんをここに居る騎士の誰よりも好意的に見てるんだ。応援してるんだぜ?」


もしかして彼のあの発言は小さく植え付けられた好意の種だったのか?

これから少しずつ時間をかけて水をやりながら育てようと思っていた種を、私はキリアン王子にプロポーズされたからという理由で蹴ってしまったのか?

だからフられたと知ってすぐ私のところに来たのか?私に慰めの言葉をかけたのか?こちらが彼を意識をしてしまうように仄めかしたのか?

もしそうだとしたら私はとてつもなく鈍感で失礼な女なんじゃないか?

ぐるぐるぐちゃぐちゃと頭が混乱する。

解答を求めるようにジャック卿を見れば、彼はニヤニヤ顔のままこちらを眺め続けていた。本気とも冗談とも取れるので正直勘弁してほしい。

こちらの反応をひと通り眺めて満足したのか彼はフッと鼻で笑うと、こちらの手を取った。

女とは思えない程切り傷と豆だらけのガサガサの手……今思えばこんな手で王子の妃になろうとしていたのも恥ずかしいが、そんな手をこうして優しく割れ物を扱うように掬い上げられるのもまたそれはそれで落ち着かない。


「あの、ジャック卿……?」

「やっぱりお前さんに曖昧な言葉は通用しないようだな。でもあの王子様と同じように気持ちをストレートに伝えるのは柄じゃないんだ。なるべく伝わるようには善処するが、お前さんはただただ素直に受け取ってくれ。



__一番なんて高尚なことは望まない。せめて二番目の男として、今度は僕がお前さんの側に居させてくれないか。」

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