第10話


「恋愛ロマンス小説において、悲恋というカテゴリーが存在するんだ。ヒロインの恋が実らず悲しい結果で終わる。」

「何だそれは。そんなの読む側も幸せになれないじゃないか。最後に幸せになるからこそ良いんじゃないのか?」

「なるほど。お前さんは最初から最後までハッピーなストーリーが好みなんだな。話の途中で少し不穏にはなれど、愛の力で軌道修正されて最後にはみんなが幸せってやつ。」

「それが恋愛ロマンス小説ってやつだろう?」

「いいや、違うね。最初から最後までヒロインが不幸なストーリーだってあるのさ。それと__最初の恋が実らなかったヒロインに新しい別のヒーローが出てきて、そいつとの新しい恋を描いたストーリーだってな。」


なんとなくそんな話は身に覚えがある。

失恋から始まるものもそうだが、酷い境遇で育ったヒロインにヒーローが手を差し伸べる……それと似た感じだろう。

ヒロインを失意のドン底に落とすだけ落とし、ヒーローと出会い、きっとこの瞬間のためにずっと我慢してきたんだと少しずつ笑顔を取り戻す。

幼い頃そんな本を一度だけ読んだ記憶がある。当時は本当に子供で、最初のヒロインのあまりの不幸っぷりに何度本を閉じようか悩んだが、友人に勧められた手前読まないわけにもいかず無理矢理ページを読み進めた。

最後まで読み、ヒロインがちゃんと救われたのを確認できたあの時、良かった本当に良かったとかなり安堵したのを覚えている。

あれから小説の中でくらい、辛くて悲しいものは勘弁したいと終始ハッピーエンドで進むストーリーしか目に入れないようにしていた気がする。

だから自分が5年前のあの日、王子からプロポーズの言葉を貰い物語のヒロインみたいだと思った時、ずっと幸せでいられると信じて疑わなかったのだろう。

もしジャック卿の言っているようなロマンス小説にも目を通していたら、もう少し大人みたいな恋が出来たのかもしれない。


「今度はそんな本も読んでみることにするよ。勉強をする理由も無くなったから本を読む時間はこれから沢山取れるだろうし。」

「あぁ。それがいい。因みに僕のオススメは『王子にフられてしまい泣いてるヒロインの事を実はずっと好いていた騎士の男が、これ幸いとばかりにヒロインを堕とそうと必死になる』そんな話なんだが……読み進める気はあるか?」

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