第7話


この男の言葉に何度息を詰まらせられただろう。これではまるで私が本当の意味でキリアン王子を愛していなかったみたいじゃないか。

いいや、いいや、愛していたはずだ。彼はとても魅力的な男性だったのだから。

彼は王子という肩書もさることながら、王になるための教育を受けていたのだからとても聡明で、王になれる威厳もあった。

あと顔もとても整っていたし、声も力強くて魅力的だった。

高級な衣服でいつも清潔な姿を保っていたし、香りも高級な店の香水で包み込んでいて素晴らしかった。

うんうんと彼の魅力を再確認して頷いたが、刹那首を横に捻った。


あれ?今考えたこと全て王子の外見の話じゃないか?と。


王子が王になるための教育を受けるなんて至極当たり前だし、彼には弟、つまりは第二皇子もいる。彼も条件は同じだ。

王になれる威厳だって威厳という言葉で綺麗にまとめたが、ただ王子だからとチヤホヤされて育ってきたが故に身に付いたものであり、傲慢だと言われれば正しくその通りだ。

顔が整っているのも声が魅力的なのも探せばいくらでも存在する要素だ。

衣服も香水も高級なだけで王子に合っていたかと問われるとかなり背伸びをしているようにも感じるし、他人の血で汚れたことも無いどころか王子だからと当たり前のように守られてきた彼は、私のような騎士と違って綺麗で当たり前だ。

違う、違う、違う、私が王子を好いた理由はこれだけじゃない。そう、優しさがある。

確かに優しさなんて曖昧なものではあるが、それだけでも愛する価値はあるのだ。

だって彼はただの一般人で力だけしか取り柄の無かった私にも目線を向けてくれ、手を取ってくれて、妃にしてやると約束してくれたのだ。

そう、そう、そうだ!彼は身分が違う女性が相手でも優しいのだ!


そう__たまたま男に襲われていただけの、出会ったばかりの平民の少女が相手でも。


国に貢献し、国のために戦い、王子に少しでもふさわしくなろうと国の事も作法の事も勉強をし続け、ずっと王子の事を慕い続けてきた婚約者候補であった私を捨ててでも、か弱い少女を守ろうとするくらい……彼は“優しい”のだ。

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