第3話


顔が青ざめるという表現はこの時に使うものなのだろう。


長く美しいブロンドの髪。豊満な胸に柔らかそうな腰回り。白く美しく伸びる細く長い手足。

私とはまるで真逆の、女性らしさが全面に映し出された容姿。そして齢16程であろうか、かなり若い。

あまりの展開に一度は王子の親族かよその国の令嬢が挨拶のために来ていたのかと考えたが、彼が彼女の肩を抱き寄せた瞬間、その考えはただの現実逃避だと思い知らされた。


「キリアン、その女性は何だ!お前は彼女__セシル君を妃に迎えたいと5年前私に頭を下げただろう!」

「父上。確かに私はあの時セシルを妃に迎えると言いました。しかし人の気持ちは変わるんですよ。今の私が好きなのはセシルではなく、彼女__ナタリー・サランジェなんです。平民の女で、ついこの前男に襲われそうになっているところを私が助けてやったんですよ。セシルは強いから1人で生きていけるでしょうが、ナタリーは違う。私が居ないとダメなんです。私は彼女を守り続ける為にセシル・ニールではなく、ナタリー・サランジェを妃にすると決めました。」


意気揚々とそう言い切った彼の姿を見て、ガラガラと何かが崩れていくのを感じた。

騎士としての誇り?女性としてのプライド?弄ばれた恋心?いや、選択肢など無意味だ。その全てなのだから。


5年だ。5年近くずっと彼の言葉を信じ、沢山勉強し、国の為に戦い、努力を積み重ねてきた私よりも__たった数日前に出会ったばかりの女性を妃に選ぶのか。

しかも理由が私よりもか弱い彼女を守る為?こんなの、笑わずにはいられないだろう。

いっその事わんわんと大泣きが出来る程愛らしい性格をしていたらどれだけ楽だっただろうとすら思う。

だが私はドゥメルク王国の騎士だ。王の目の前でそんなものを見せるわけにはいかない。

愚息の行いに申し訳なさそうにしている国王様に頭を下げてから踵を返す。今出来る私の精一杯はこれだけだった。

振り返るわけにも、走り去るわけにもいかない。しゃんと背筋を伸ばし、胸を張って真っ直ぐ歩かなくてはならない。そう、王族の視線がこちらに向かない場所に辿り着くまで。

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