【幕間】内政問題にて謁見せし_Ⅱ
「飲み物を用意しよう。長話になるからね」
国王様がそう告げると、ドアをノックする音が聞こえて二名の獣人が入ってきた。猫と、兎だろうか。
国王様の周りにはまず危険はない。したがって鬼人種や、熊みたいな大型の獣人種は王宮にはまずいない。俊敏な獣人種が殆どだ。
「ふふ、私が一番気に入っているものでね。口に合うと嬉しいよ」
淹れられたのは紅茶だった。ティーポットから注がれたが、沸かしたてのように湯気がもうもうと立っていた。
「さて、話を始めようか――」
「――なぁなぁ、翔太郎。俺さ、国家機密的なの教えられそうな感じない? だってさ、お偉いさんも知らない事を国王様の口から知るんだろ? 命狙われたりしないか? なんか裏社会で懸賞金かけられるみたいな」
「安心しろ。狙われるのは国内のいい子ちゃん達じゃなくて、海外のイカレた野郎達だ」
「ひ~、こわぁ」
こそこそと雑談する和明さんと篠原。国王様はあまり気になさっていないようだけど、やはり不敬が過ぎる。
「和明君。心配は要らないよ。私が知る限りそんな未来は存在しえないからね。――まずは翔太郎君について話さなければいけないと思うのだが……ふむ。なら、私からいくつか話させてもらうよ」
「うっす、よろしくお願いします!」
和明くんは完全に肩の力が抜けているようだった。背筋よくソファーに座り国王様の顔をしっかり見ていた。それをできる人がこの国にどれだけいるのか。国王様は怖い顔をしているわけではない。柔和で慈しみに満ちたお方だ。とはいえ、圧倒的な権力者であり世界を代表する三人の一人だ。恐れ多くて、全てを見通すような瞳と視線を組みかわすのは中々勇気がいるものだ。
「さて、光平君。まずは君に問題でも出してあげようかな。国を守ること以外で君の職務はなんだい?」
「……篠原翔太郎の、監視及び、管理です」
長官は何か意図を理解したのか蚊の鳴くような小さな声で言った。監視と管理。言葉は強く感じるのだけど、実際それらしいことをしたことはないと思う。実際、ボクが篠原と相対したのは先日が初めて、それまで姿を見たことどころか篠原に関する何かをしたこともない。
「あのぅ……」
「和明君、君の言いたいことはわかるよ。なぜ翔太郎君が国に管理なんてされているか。だね」
「……そうです。翔太郎はそんなヤツじゃないと思うんですが」
不安そうに篠原の方を見る和明くん。ボクからしてみればどうして彼らにそこまでの友情があるのか、そっちの方が気になっている。
彼らの生きてきた道はきっと真逆で、篠原という化け物と和明くんというただの一般人が交わることはないはずだ。
それなのに、彼らはお互いを仲間として見ている。和明くんが篠原の協力者という可能性は捨てきれないが、どうにも明るすぎる。人に敵意があるように全く見えない。利用されているだけというのが、一番納得できるのだが。
「ああ。その通り。翔太郎君がそういう人物ではないことは百も承知だ。とはいえ、こう言った言い方でもないと今回のような出来事は数回は増えていただろうね。私が注意をしても、だよ」
「そう、ですか」
「こ、国王様、宜しいでしょうか」
悔しそうに唇を噛みしめた和明くん。ボクらがしんと静まるころ、長官が口を開いた。
「安心していいよ。君の信用がないわけじゃない。君は候補者の中で翔太郎君に手を出すのが一番遅いだけでなく、君の力が多く必要になる場面があるから君を選んだのだから」
「そ、そうでございますか」
「さて、アスター君。君に質問だ。断罪人はどうして必要だったと思う?」
長官の質問を聞くこと無く返答をした国王様、それに安心したのか口を閉ざした長官。『権能』の力での会話に見入っていると突然、国王様から名前を呼ばれ驚いてしまう。
「は、はい! 民を危険分子から護るためです」
「そうだね。我が国は魔物の出現率は0.1%以下。故に、
聖祈隊。極北の国、フェルエヴァンより世界中に広がる宗教、セクタ・ウェルの聖職者の中で魔物を討ち取る騎士たちが持つ名称だ。
各国にひとつは拠点を持っているのだが、この神桜国には居ない。代わりに武力を持たない宣教師たちは居るけど。
その理由が彼らが魔力を必要としていることと、平和な世に似つかわしくないと言うものだったはずだ。
「さて。出現率が0.1%と言えど魔物は出現する。加えて、三種族がここまで融和していると人類では抵抗できない反乱分子が現れることもある。二百年前にあったようにね。当時の事件を抑えたのは誰だと思う?」
「ボクら、断罪人。ですよね」
桜人史でも習うことだろう。二百年前に獣人による人類大虐殺事件があった。ライオンの獣人である『ラ・グウェラ』が中心となった組織による反逆。それを止めたとされるのは断罪人『カドマ』率いる鬼人族含む精鋭部隊と伝えられている。
「ふふ。それは違うよ。彼らは桜都への進行を防いでいたんだ」
「なら、ラ・グウェラを討伐したのは――」
「――ああ。そこに居る翔太郎君だよ」
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