第24話
「え~本日はぁ~久しぶりのぉ、皆での外食というわけですがぁ~」
霞之月荘に入って最初の外食。その移動はバスで行われていた。
僕がここに来た時と同じように、山道を降りて海に進んでいったら港に戻ってこれた。そしたらバスが待っていた。僕はびっくりしたけど、皆はそうじゃなさそうで当たり前のようにバスに乗り込んでいた。
バスの中は見たことのない座席の作りをしていた。後ろの座席がコの字型になっていて、テーブルが置かれていた。
全員は後ろの席に座ることは出来ず、何人かは普通のバスと変わらない座席に座っていた。
バス前方に立った佐藤さんはこほん。と咳をしてから話し出していた。
「いや~、夏の暑さは落ち着かず、俺らの島から出れば灼熱なもので~」
「なぁ、涼。お前はどうやってウチのこと知ったんだ?」
「えっと、島の名前をよく見てて、気になって調べたんだけど」
佐藤さんの話を完全に無視して話しかけてくるキョウカさん。少し周りを見渡しても佐藤さんの話している方向を見ているのはユキさんだけだった。
「でも、変な話だな。外でここの話は聞いたことないぞ?」
「どうせ、翔太郎がそう仕向けていただけなんだゾ」
キョウカさんの隣に座っていたがそう呟いた。
「えっと、篠原さんが、ですか」
灯向さんはそれ以上は答えてはくれなかったけど、キョウカさんも納得しているような表情を見せているし、きっとそうなんだろう。
僕は篠原さんが座っている前方座席に視線を向けた。
窓側に座っているからその姿を見ることはできないけど。
確かにそうだ。最初は自分がネットに疎いからそういう噂を聞かないだけかと思っていたが、周りの話でそういう話題が上がってるような様子は無かった。
「余計なことは言わなくていい」
そんな風に言ったのは篠原さん。前方座席から顔を出していた。不機嫌そうな顔でもないし、いつも見たいに冷えた声じゃない。どこか緩んでるような声だ。
でも、その視線は僕らの方を長くは見ず、隣の席に下ろされていた。すぐに篠原さんは席の影に戻っていき、キョウカさんの方に視線を向ければ肩をすくめているのが見えた。
「お前らぁ‼ 聞いてねぇだろ‼」
無視されていることに怒ったのか、佐藤さんの声がスピーカーから響いてバスの中を埋め尽くした。だけど、その声に怒りは見当たらず皆が笑っていた。これがいつもの光景なんだと表情からも伝わってくる。
◆
「涼」
目的地に到着してバスから足を下ろした時、先に下りていた篠原さんが僕に声をかけた。
静かな瞳が僕を見て、こっちにこい。と手招きをする。
「えっと、どうかしましたか?」
「飯前に少し付き合え。今朝の件もある」
僕らが食べに来たのはそこそこ都会の店だった。他の皆はお店に入って行っているけど僕は篠原さんの後に続いて、表通りを歩いていた。
人気はまばらと言えど少なくはない。日が暮れてきている時間とはいえ、駅が近いし通行人がいなくなることはないだろう。
篠原さんはいいかもしれないけれど、僕は家出した身。なんだか外を歩くのは憚れる気分だった。
「あの、篠原さん」
「ん。ああ。終わったら戻ってきな」
スマホに視線を向けながら僕の前を歩いていた篠原さんは僕が声をかけると同時に振り返り僕の頭を軽く撫でた。
僕が困惑している間に篠原さんは消えた。霧散した。という方が正しいのだろうか。とにかく篠原さんは目の前から消えて僕の方に強く風が吹いた。
「涼‼ 涼なのか⁉」
突然の風に目をつぶっていると、正面から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「蓮、くん?」
僕の友人がそこにはいた。
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