第18話

「さて、お前は指を鳴らしたら術が出る。なんて言ったな」


 正義漢のバカ、樫野 光平かしの こうへい。軍部に長く居て俺の監視もしくは管理にありつけた、言うなればエリート。

 絡新婦ジョロウグモの力を持った鬼女。人の血がごく薄い鬼人の男。どちらも一人で陳腐な争いなら必ず止められる一級品の兵だったはずだ。この二人を扱える。それだけでこいつの立場がよくわかるものだ。そのくせに騙された。


「別にそんなことしなくても使える」


 国に喧嘩を売りに行った時、俺は術を使う前に必ず指を鳴らしてやっていた。

 魔法・魔術に精通していなければ騙される陳腐な罠。魔術の道理を理解している奴なら、指を鳴らしたことよりもその後の魔力の流れに注視するものだが、魔法を知らぬまま一番警戒するこいつ等は指を鳴らした後に術が出たという事実に目を向けた。だからこうして簡単な印象操作にかかって犠牲者が出た。

 本当にバカな奴らだ。鬼女は俺の攻撃に気づいて避けようとしていた。きっと上官が指を鳴らしたら気をつけろ。なんて言ったせいで魔力の流れに注意を向けてなかったのだろう。もっとそこに気を付けていたら、重症で済んだろうに。


「残念だったな。この情報は土産にくれてやる。犠牲者がに増えたくないなら帰りな」


「く……。作戦変更だ‼ この男を仕留めろ‼」


「静かにしてくださッ――」


 喉にナイフを当てられても声を張り上げた樫野。それを止めようとしたユキの声は、途中で途切れた。ぶしゃりと小さい頭は細切れになり、ぐらっ。とそ伽藍洞になった身体は倒れていき、その変わりに見えてくる人影。

 

「いらっしゃい。要件は?」


「――貴方の命です」


 閉めた扉を突き破って出てきたのは頭の上に光る輪を浮かべた一人の少女。


 頭の上の光輪。それを持つ種族はこの世で一種だけ。神に最も近く、神と共に現世に存在しないと言われる――天使のみだ。

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