第11話
眠れなかった。
どうしてか、静かなこの部屋の外から足音や物音が聞こえるような、そんな感覚に陥って眠ることができないのだ。
どんなに耳を澄ませても聞こえるのは木の葉が揺れる音と、鳥の声だというのにいつか木の葉の音が荒れて、鳥たちが慌てふためき、飛び去ってしまうのではないか。そんな不安が、心を落ち着かせてくれない。
いや、わかりきっている。これは不安なんかじゃない。被害妄想の類だ。
自分に不幸が襲い掛かってくるんじゃないか? なんて考えてしまっているのだ。
幸せの後には不幸が来る。人生山あり谷ありっていうように、この幸せの絶頂からいつ転落するかわからない。それが今なんかじゃないか? なんて情けなくびくびく怯えているのだ。
体勢を変えても変わらない。深呼吸をしても落ち着けない。
ぐるぐる物事を考えていると空腹のサインが僕のお腹から鳴った。
宮瀬さんたちと別れた後、色々口にして満腹になっていつもの癖で考え事をしていた。そしたら嫌な考えが頭の中に湧いてきて、僕はお腹がいっぱいということを理由に部屋に戻ってきた。
備え付けの冷蔵庫を確認しても買い物なんかしていないし、もちろん何も入っていない。
「……誰かいるかな」
空腹に勝てるものはないと僕はよく知っていた。勉強に集中するにも、運動をするにも、空腹じゃうまくいかない。
僕はできるだけ物音を立てないように、扉を開いて廊下を出る。
「ん? ああ、初めまして。涼くんだよね」
静かに階段に向かおうとしていたら、後ろから声をかけられる。聞いたことのない声音なのに僕の名前を知っていた。声の主が気になって僕は思わず振り返える。その視線の先には箒で掃除をする女性が。
「ああ、君は私の名前を知らないか。私は斎藤。好きに呼んで」
「わかりました、斎藤さん」
「うん、それでいい。困ったことがあったらいつでも言いなよ」
箒の柄で肩を叩く斎藤さんは片目を閉じながら僕にそう言った。
「あ、ありがとうございます!!」
「夜だし静かにしなよ」
思わず大きな声で返事してしまった僕に斎藤さんはくすりと笑っていった。僕に背を向け掃除を再開する斎藤さんに会釈をして僕は階段を降りて行った。
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