第6話
後ろから聞こえるちょっとしていて、どこか微笑ましい内容の喧嘩声を耳にしながらキッチンへと向かっていく。
すると見えてくる白いふたつの山。猫の耳に似ているが猫にしては大きいその耳のようなもの。顔を伏しているからか顔は見えない。
気になってキッチンを覗き込めば1人の少女がそこにいた。
白い猫耳を頭の上で揺らし、スラリと長い白尾が左右にゆらゆらと動かす背丈からして10代前半の少女が、メイド服を身に纏ってお皿を洗っていった。
「どうしたんですか?」
先に口を開いたのは少女の方だった。
洗い終わった皿を置いてこてん。と首を傾げれば耳の上にキラキラと氷のように光を乱散させる疑問符が見えてくる。
そんなカートゥーン的な状況に僕こそ首を傾げたくなるが僕はそんなことが出来るような人ではなく、だた困惑を心の中にしまうことしかできない。
「喉が乾いたから飲み物無いかなって思って」
思わず小さな子に接するような対応をしてしまうと目の前の少女は僅かに顔を顰めてしまう。
頭の上にあった疑問符は消え、耳は不機嫌そうにピコピコ震えている。
「何か飲みたいものはありますか?」
むすっとしているような無表情のようなよくわからない表情を向けられる。
「えっと、コーヒーとかあるかな?」
「うん、あるよ。待ってて」
間髪入れずに答える少女。
一度キッチンから出ればその前にあるカウンター。そこに腰を下ろす。カウンターに座れば忙しなく少女の猫耳が右に左にと動くのが見える。
「そういえば、貴方のこと見たことない」
ぼーっと動く耳を眺めていると不意に声をかけられ、キッチン越しに少女と目が合う。
「僕、今日来たばっかりなんだ」
そう説明するとキッチン越しの猫耳がぴこんと動く。
「さっき来たのが貴方なんだ」
じぃ。と僕の方を見る瞳から目を逸らしうん。と頷く。
「じゃあ、自己紹介しなきゃ。私は
「僕は、秋月 涼。よろしく」
目を合わせ直し自己紹介をする。すると嬉しそうに揺れる尻尾がわずかに見える。
「はい、コーヒー」
差し出されたコーヒーを手に取って一口飲む。
まろやかな味わいが喉を通り、身体があったまる。いや、身体だけじゃない。心までもあったまるようだ。
「美味しいですね」
カップを置き感想を伝える。そんな簡素な感想しか出なかったが氷華さんはどこか嬉しそうな表情を見せてくれる。
「そういえば苦手なものってある? ご飯の時、入れないようにするから」
「苦手なものはないですよ」
「そっか、わかった」
洗い物を再開したのか水音が聞こえてくる。
「手、止めさせてごめんなさい。それとありがとうございます。コーヒー、美味しかったです」
キッチンに入り、シンクにカップを置いて軽く頭を下げる。
「ううん。これが私の役目だから」
軽く首を振ってそう言ってくれる氷華さんにもう一度礼を言って僕はその場を離れた。
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