第23話 先輩暗殺者

 深夜12時。人気のないバーに1人の女が3人の男女と合流した。


「やっと来た〜。おつかれ〜」

「だ、だいぶ酔ってるね……」


 個室に顔を出すや否や泥酔した女性に抱きつかれる中越由美。

 思わず苦笑を浮かべてしまう由美だが、泥酔する女性の肩を掴んだ相手を見てすぐに表情を取り繕う。


「さっきの電話ぶりかな?くん」

「だな。こうして会うのは久しぶりだが」


 グイッと泥酔の女性――妻を引き寄せる仁村 神谷こうやもまた、苦笑を浮かべる。


絢乃あやのを見る感じだいぶ飲んだみたいだけど……いつからいたの?」

「いうて2時間前ぐらいだぞ」

「……この子ってこんなにお酒弱かったっけ?」

「嬉し酔いじゃないか?息子が澄麗さんのとこに泊まりに行って嬉しんだと思うぞ」

「あぁ……だから私の夫も酔ってるのね?」

「かもな」


 収まることのない苦笑で腕を組む夫のことを見やる由美。そして隣の座布団へと腰を下ろした。


「仁村くんの家に泊まるとはいえ、そんなに飲んだら二日酔いするよ?」

「……」


 由美の言葉に対し、相変わらずの無言を見せつける夫――中越 雅人まさひと


 彼ら――彼女らは言わずとも分かる通り、正真正銘の澄麗と秀哉の親である。

 まるでキャラが違う由美。そして印象通りの雅人。そんなそれぞれの素を披露する彼女らは娘――息子の祝宴を勝手に開いていた。


 祝宴会の内容?そんなの一つに決まってる。

 どうしてあの時由美が電話をかけたのか。どうして神谷がすぐに許可を出したのか。どうして雅人が家にいないのか。

 少し考えればすぐに答えが出て、全てに辻褄が合う。


 そう。全てはこの4人の企みだったのだ。

 どうして秀哉の毒が効かなかったのか。どうして澄麗の毒が効かなかったのか。どうして銃の使用を禁止にしたのか。どうして秀哉の暗殺がバレたのか。

 全てはこの4人の計画だったのだ。


 息子――娘には暗殺者になってほしくない。ただその一心で企てた計画。

 普通の女の子――男の子として平穏に暮らしてほしいと思って実行した計画。

 1人の親としての――暗殺者としての人生を歩んできた先輩の計画。


 これはその計画が、1段階進んだという意味での祝宴会なのだ。


「そういえばちゃんと盛ったのか?」

「ばっちり盛ったわ。きっと今頃お盛んでしょうね」

「んなら一旦は遂行か」

「だね」


 なぜ秀哉と澄麗が火照っていたのか。盛るとは一体何なのだろうか。

 その答えは由美に出されたあの水に答えがあった。


 至極透明の水。無味無臭の水。綺麗で純粋な水のはずだった。

 だが実際には媚薬と精力剤が盛られていた。微塵の香りもしない薬が、少しの色も出ない薬があの水には入っていたのだ。


 つまり、澄麗と秀哉が遊んだが最後、こうなる未来は決まっていたということ。

 2人が襲うか襲わないかを考える以前に、この暗殺者4人の手によって未来が決められているのだ。


 2人が酷だと思う人もいるだろう。だが、この4人はそれほどまでに息子と娘を暗殺者にしたくない――人を殺させたくないと強く思っている。

 だが、最後に人生を選ぶのは自分。そのあたりはしっかりと弁えており、これ以上手を出さないと誓っている。


 ただ、高校の間は絶対に暗殺をさせない。

 これは4人の覆らない思いなのだ。

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