第13話 これは情だ
次々に服を詰めていく中越を、俺は冷ややかな目で見下ろしていた。
こいつの表情からして、服選びが楽しいものだということは分かった。
けどな?加減を知ろうな?
確かに俺は『全部奢る』って言ったぞ?けどそんな目に入るものを全部手に取ることはないだろ。
「ねね、これ良くない?」
ロング丈の長い水色のワンピースを自分の身体に当てる中越は、これまたニッコニコでこちらを見上げてくる。
刹那、いつものような表情を取り繕う俺は縦に顔を頷かせる。
「ザ・清楚って感じがして中越さんにすっげー似合ってる。ポニーテールも相まって素直に可愛い。これから夏だしちょうどいいんじゃね?」
思っていることと思っていないことをごちゃ混ぜにしながらとりあえず褒め立てる。
最後の日ぐらい楽しませると誓った以上、否定する言葉を口にすることは出来ない。
……んまぁ、癪にも似合ってるのは事実。可愛いは言い過ぎだが、ポニーテールも相まって様になっている。
「そ、そんな褒めちゃう……?」
なんて、黒い目を泳がせて照れくさそうに言ってくる中越。そんな中越を見るに、相当楽しんでくれているようだ。
「まじで似合ってるからな」
「ふ、ふーん?ならこれ……買っちゃおうかな?」
「おぉいいぞ。好きなもん買っていいぞ」
「ほんと……至れり尽くせりだね……」
「まぁまぁ。財布が危なくなったらちゃんというから」
「は〜い」
微笑みを浮かべる中越は小さな子どものように手を上げ、元気よく返事をする。
未だにワンピースを身体に当ててるのも相まってか、いつもよりも幼く見える中越はかわ――いーや!断じて可愛くない!なーにが『幼い』だ!いつもの中越にギャップを抱いてんじゃねーよ!
慌てて首を振る俺は、心のなかで自分に大複ビンタをお見舞いして、籠にワンピースを入れる中越を見下ろした。
暗殺対象に変な感情を抱くんじゃねーよ。
これからは中越とは比べ物にならないほどの別嬪さんとも会っていくんだ。
こんなやつはちっぽけな存在に過ぎない。
「試着してくるから似合いそうなの選んで来て〜」
「あいよ」
平然を装い、笑みを浮かべる中越に言葉を返してやる。
さすれば、籠を片手に試着室へと向かっていってしまう。
そんな中越から俺も顔を背け、言われた通りに似合いそうな衣類を探してみる。
というか、あいつ映画が終わってからずっと笑顔だったな。
そんなに面白かったのか?あの映画。
女性物の服を手に取りながら、数分前の上映が終わった時のことを思い出す。
スクリーンが暗くなり、辺りが明るくなったときの俺はというと、この上なく頬を引き攣ってたと思う。
一応取り繕うように笑みへと変えてみたのだが、あの女が声をかけてきたときの慌てっぷりで多分感づかれている。
だって仕方なかったんだ。あの映画がさいっこうにつまらなかったから感想を考えてたんだ。
だから隣のやつになんて注意を留めず、考えることだけに集中していた。
……その結果、あいつに俺が頬を引き攣っていたことがバレ、気遣いのつもりか話をそらした俺に乗りかかってきた。
いやまぁ話をそらせたのは良かったんだけど、バレたのがまずいんだよ。
あのアニメが面白いと言ったのに、頬を引き攣ってたんだぞ?
んなもんつまらないと伝えているのも同然だ。
あいつの好きなものを目の前で否定してしまったのだ。それも嘘をついた状態で。
だから、俺はこの服屋で名誉挽回を図る。
超絶中越に似合う服を選び、この上なく満足させてやる。
さすれば映画館でのことなど忘れてくれるだろう。
いやまぁこのあと暗殺するのだから意味ないんだけど、それでも最後ぐらい楽しませてやるという情けだ。
俺に感謝しろよ?
なんてことを思っている間にも服を選び終えた俺は籠の中に服たちを入れ、中越がいるであろう試着室の前へとやってきた。
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