第9話 遊びの約束をした
なんかしらんけど中越が照れてる。
わざわざ俺のために作ってくれた手前、嘘を付くのも申し訳なく、素の感想を伝え続けたらなんか照れ始めた。
なんでさっきの『ずっと考えてる』って言葉では照れず、自分で用意した弁当で照れるのかは些か不思議ではあるのものの、耳まで真っ赤になる中越はなんというか……初心だな?
顔立ちもよく、体型の方も申し分なし。おまけに明るい性格なのだから男性経験豊富なのかと思いきや、このザマ。
見る人によってはギャップ萌え?というやつで惚れてしまいそうだな。
恥ずかしさに絶えられなかったのか、顔をそむけてしまった中越を見下ろす俺は、なんてことを考えながらも頭の片隅ではまた別のことを考えていた。
というのも、このお弁当でヒントを得たからだ。
毒を体内に入れるのに手っ取り早いのは食べ物の中に毒薬を含ませること。
けれど生憎、俺は中越のように人前に出すほどの料理の腕はない。
その点を踏まえると、ひとつの答えが導き出されるのだ。
「中越さん?」
「あ、は、はい」
未だに照れてるのだろうか。
不明瞭な言葉を口にする中越はそっぽを向いたまま。
だけれどそんなのお構いなしに俺は口を開いた。
「今週の土曜日ってひま?」
「えー……っと、まぁ……ひまですよ」
なにもない宙を見渡してからそう答える中越は、小首をかしげてやっとこちらを見てくる。
「そ、それがどうしたん……ですか?」
まぁこっちを見たからって恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。
見慣れない敬語を扱い、相変わらずの不明瞭な色を見せる中越に、俺は食べ終わった弁当箱を返しながら言った。
「このお弁当のお返しってことで遊びに行こうかなぁと」
「わ、私と?」
「うん、中越さんと。美味しいイタリアンレストラン知ってるからさ」
――というのは建前。俺が作れないのなら、誰かが作った料理に毒を盛れば良い。
相手を呼び出して、気を緩ませている所に毒薬を盛る。
さすればどうなるだろうか。
中越は悶え苦しみ?首元を抑え?泡を吹きながら倒れる。
我ながらナイスな作戦だ――
「ぜ、全然いいけど……ほんとに?奢ってくれるの?」
「当たり前だ。こんな美味しいものを頂いたんだから奢らないわけがない」
これは最後の情けだ。
お弁当自体は本当に美味しかったし、貰いっぱなしだと癪に障る。
男のプライドとしてなのか、はたまた己のプライドなのかは知らんが、このまま死なれても釈然とせん。
だからちゃんとたらふく食わせた後に始末する予定だ。
見方を変えれば恩を仇で返すクズな男になるが……知らん!暗殺者たるもの情を湧かせない!
「ちなみにレストラン以外にはどこか行くの?」
「あー……行きたい所あるか?」
「考えてなかったんだ……。なら映画館行こ!」
いつの間にか調子を戻していた中越は袋にお弁当箱を入れ、ピンっと袋を持っていない手を突き出してくる。
そんな調子の中越からスッと視線をそらした俺は、なにもない宙を見渡し「うん」と頷く。
「いいぞ?確か中越さんが好きだと言っていたアニメの映画が上映中だったはず」
「え、えぇ?そんなこと言ったっけなぁ?」
「あれ?暗殺系のアニメが好きじゃなかったのか?」
「あ、うーん。好きだよ?全然好き」
「ならよかった」
どことなく腑に落ちない言葉が帰ってきたようにも感じたが、あの微笑みを浮かべている以上そんな感情はないだろう。
んにしても、上映中の作品を頭に叩き込んでてよかった……。
ついこの前父さんが『映画作品とか頭に入れとくと良いぞ』と言っていた。
半信半疑で覚えてみたものの、本当に役に立ったわ……。ありがとう、父さん。
心の中だけで父さんを思い浮かべながら手を合わせ、深々と頭を下げる俺は自分のお弁当袋を広げた。
「え、まだ食べるの?」
「ん?うん。父さんに『三大欲求は常に満たしとけ』って言われたからな」
「す、すごいお父さんだね……」
「だろ?自慢の父さんだ」
話が噛み合っているようで噛み合っていない会話は昼休みが終わるまで続き、中越の顰めた目は中々取れずに食事を終えた。
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