STORY3 どうかあなたがこの場所で⑤
カフェを後にした僕たちは、スーパーマーケットをブラブラ。アパレルショップ。雑貨屋、ガチャポンコーナー。何かを買うでもなく、ただただウインドウショッピング。
「弟子ちゃんはこんな風にウインドウショッピングとかしたことある?」
「いや、あんまり記憶ないですね。僕は目的の店だけ行って終わりってことがほとんどです」
「あー。男の人はそのパターンが多いって聞くねー。男女の価値観の差ってやつだ」
部長との何気ない普通の会話が楽しい。そう思ってしまうのはどうしてでしょうか。
「さて、私の行きたい所はある程度回れたよ。次は弟子ちゃん」
「え? 僕、ですか?」
「うん。弟子ちゃんの行きたい所、行こ」
笑顔で告げる部長。もしかして、僕に気を遣ってくれたのかも。
さて、突然お任せされちゃいましたね。うーん。どうしたものやら。
「弟子ちゃんはどんな所連れて行ってくれるのかなー」
「あ、あんまり期待しないでくださいよ。えっと。行きたい所といいますか、僕がいつも行ってる所でもいいですか?」
「お、いいねー。それ採用」
そう言って、部長は僕の背中を軽く叩きました。
促されるように目的の場所へ。いつもなら何の気なしに向かうはずなのに。部長が傍にいるというだけで緊張しちゃいます。
「ここです」
「……本屋さん?」
僕たちが訪れたのは、ショッピングセンターの二階にある大きな本屋。文庫本はもちろん漫画や雑誌もかなりの種類があり、老若男女問わず人気。現に今でもお店の中は多くの人で賑わっています。
「僕、ここでよく将棋の本物色してるんです。今日もちょっと覗きたいなと思いまして。いいですか?」
「オッケー。そういえば私、誰かと将棋の本見に行くの初めてかも」
「僕もですよ。部長とが初めてです」
「……そっか。よし! 行こう行こう!」
なぜだかテンションの上がっている部長とともに、将棋の本が置かれている一角へ。
「あ。新しいの出てますね。B級戦法集かー」
「ちょっと見せて。おお。『
「ちなみに、部長のおすすめの本って何かあります?」
「しいて挙げるとするなら『
「ほんとですね。へー、これが部長のおすすめ。買っちゃおうかな」
「弟子ちゃんはそもそも中飛車使わないでしょ」
二人で将棋の本を前にあれやこれや。あの本がいい。この本は微妙かも。会話は次第に盛り上がっていきます。
「ちょっと古い本だけど、『
「あ。それ知ってます! 古本屋で読んだことあるんですけど、結構難しくて」
「うーん。じゃあ『矢倉を指しこなす本』とかどうかな? 解説が結構分かりやすいよ」
ああ。
楽しい。
楽しいなあ。
「部長。今度時間ができたら商店街の本屋さんにも行ってみません? ここより種類は少ないですけど、なかなかマニアックなやつがあるんですよ」
「……ん。そうだね」
僕の何気ない提案に部長は頷きます。すごく、寂しそうな表情で。
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