STORY3 どうかあなたがこの場所で④
アクセサリー店を後にしてやってきたのは、レストラン街に入っているカフェ。
「それにしても、弟子ちゃんがノリノリだったのには驚いたよ。アクセサリーとか好きなの?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど。なんか、楽しくなってきちゃって」
「その曖昧な感じ、弟子ちゃんらしいね」
楽しそうに笑いながら、水の入ったグラスを傾ける部長。彼女の頭には、先ほど買った水色リボンのヘアアクセサリーがキラキラと輝いています。うん。やっぱり似合ってますね。
店内には僕たち以外にお客さんが何組か。飲み物そっちのけで談笑する主婦らしき人たち。ノートパソコンで作業している男性。テーブルで絵を描いている子供とそれを見守る母親。彼ら彼女たちに今の僕たちはどう見えているのでしょうか。
「ずっと思ってたんだけどさ。弟子ちゃんって、直観的というか曖昧的というか。うーん。なんて表現したらいいのかな?」
「あ。それ、この前師匠にも同じようなこと言われました。『君は直観的な性格だ』って」
「……へー。師匠ちゃんが」
僕が師匠のことを話題に出した途端、部長の顔に少し影が落ちたように見えました。
「? 部長、どうし」
「お待たせしましたー。デラックスフルーツパフェとガトーショコラです」
僕の言葉を遮る女性店員さんの声。彼女は、トレーに載った商品をテーブルに置くと、僕らに軽く頭を下げてそそくさと離れていきました。
「おー、きたきた。これ、ずっと食べてみたかったんだよー」
「……すごいですね」
部長の前に置かれたパフェ。コーンフレーク、バニラムース、アイスクリーム、スポンジ生地、そして、器上部を完全に埋め尽くすフルーツの山と生クリーム。
「ふっふっふ。いただきまーす」
そう言って、部長はパフェスプーンを手に取り、生クリームのついたイチゴをすくって一口。
「んー。幸せー」
顔をほころばせる部長。これほどまでに幸せの感情を体現した人を僕は見たことがありません。
「それ、全部食べ切れます?」
「何言ってんのさ。女の子はね、甘いものを無限に胃袋に入れる能力を持ってるんだよ」
「は、はあ」
おんなのこ、すごい。
僕は、フォークでガトーショコラの端をすくい、ピクピクと痙攣する口に放り込みます。思っていたよりもビターなチョコ味。しっとりかつ濃厚。部長につられたわけではありませんが、これならいくらでも食べられそう。
「ガトーショコラもおいしそうだね」
ええ。まさかこっちに目移りしてる?
「……一口、いります?」
「やったー!」
部長は何の迷いもなくスプーンでガトーショコラを切り取り、口に運びます。
「おおお。これもなかなか」
「はは」
やっぱり、おんなのこ、すごい。
甘いものを無限に胃袋に入れられる、か。部長はそう言ってたけど、師匠はどうなんだろう。甘いものが嫌いじゃないのは知ってるけど、無限に胃袋にっていうのは想像できないし。いや、案外師匠も部長と同じだったり……。
「むう」
「部長?」
一体どうしたのでしょう。部長が、スプーンを口にくわえたままこちらにジト目を向けています。
「今、絶対師匠ちゃんのこと考えてた」
ドキリ!
「え!? ど、どうして分かるんですか!?」
「さあね」
吐き捨てるようにそう言って、部長はパフェを再度食べ始めます。
ガツガツ、ガツガツ。
そんな効果音が聞こえてくるかのようでした。
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