STORY3 どうかあなたがこの場所で③

 部長と訪れたのは、町で一番大きいショッピングセンターでした。


「部長。何か欲しいものでもあるんですか?」


「いや、そういうわけじゃないけどね。デートって言ったらここかなって」


「な、なるほど」


 このショッピングセンターには、女性向け商品が多い雑貨屋さんからゲームセンター、はたまたおしゃれなカフェなど、デートにうってつけの場所がたくさん入っています。僕自身、ここで何組のカップルとすれ違ったことやら。


 僕もついにここでデートを。周りから「羨ましいなあ」って視線を向けられちゃうんですね。分かります。え? 普通の人はそんな視線を向けない? 僕だけ? あはは。まさかまさか。


「じゃあ、弟子ちゃん。とりあえず適当にブラブラしよっか。えっと……ま、まずはあそこ」


 そう言って部長が指差したのは、ショッピングセンターの入り口横にあるアクセサリー店でした。


「は、はい」


 おお。いきなり未開の地に。


 アクセサリー店の存在は知っていましたが、入ったことはありません。いつも横目で見て通り過ぎるだけ。


 若干早足の部長に続いて、僕は店に入りました。


 う。ま、眩しい。なんか、すごくキラキラしてる。


 商品棚に並べられた指輪、ネックレス、ブローチ。その全てが、光を放っているように感じます。部長と一緒でなければ速攻で踵を返していたことでしょう。


「弟子ちゃん。来て来て」


 少し離れた所で手招きする部長。近づいてみると、そこにはリボンのついたヘアアクセサリーが。赤、黄、青などなどリボンの色は様々。商品横に『今売れてます!』と書かれてますし、結構な人気商品なのかもしれません。


「これ、似合うかなあ」


 そう言って、部長は赤リボンのヘアアクセサリーを一つ手に取り、自分の頭にあてがいました。


「…………」


「あ、あはは。や、やっぱり私には似合わないよね。こんな可愛すぎるもの」


「ち、違います! に、似合いすぎてびっくりしてただけです!」


「ふえ!?」


 いや、本当に。部長が綺麗なのは元からの事実ですけど、アクセサリー一つでここまで……。アクセサリーってすごい。


「に、似合うの? ほ、本当に?」


「もちろんですよ。部長、今度はこっち試してみません? 色違いのやつ」


「え? あ、う、うん。弟子ちゃんが言うなら」


 若干挙動不審になっている部長に、今度は青リボンのものを渡します。その次は黄。その次は水色。オレンジと紫を経由して、もう一度水色。


 おお。なんだかちょっと楽しくなってきちゃいました。これが『デート』ってやつなんですね。まあ、僕と部長はカップルでもなんでもないですけど。


「うん。やっぱり水色のが似合いますね」


「……それ、私の服に引っ張られてるだけじゃない?」


 部長は、身にまとっている水色ワンピースの裾をヒラヒラと動かします。


「あ。た、確かに。じゃあ別のやつが……」


「ふふ。まあいいけどね。これ、買うよ。選んでくれてありがとう」


 頬をほんのり朱に染めながらはにかむ部長。「レジ行ってくるね」という言葉とともに、お店の奥へ。彼女がスキップをしているように見えたのは、果たして僕の気のせいなのでしょうか。

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