STORY3 どうかあなたがこの場所で②

日曜日。駅前。


「部長遅いなあ」


 腕時計を見ながら呟く僕。約束の時間は13時。けれど、時計の針は13時5分を指し示していた。かれこれ30分以上も待っている計算になります。


 ……違いますよ。確かに僕は12時30分には駅前にいましたけど、これは部長より後に来るわけにはいかないという後輩的ムーヴなわけで。決して人生初のデートに浮かれすぎていたからとかいうのでもなくて。


「電話、した方が……いや、もう少し待ってみよう」


 再び腕時計を見る僕。秒針の動きがいつもより遅く感じます。果たして部長は本当に来てくれるのでしょうか。そんな不安が、僕の心に靄をかけていました。


「お、お待たせ。弟子ちゃん」


 その時でした。背後から、彼女の声がしたのは。


「もう部長。遅いです……よ」


 言葉が上手く出ませんでした。目の前にいる女性が、部長とは別人のように思えてしまったから。


 くせ毛の全くないストレートのショートヘアー。パッチリと開かれた大きな目に、上気した頬。身にまとうのは、大人っぽい水色のワンピース。


 普段見慣れた制服姿の彼女とは似ても似つかない、特別な彼女がそこにいました。


「えっと。部長、ですか?」


「そ、そうだけど。あれ? もしかして私、変な格好してる?」


 焦った様子で全身を見回す部長。


「ち、違います! 全然変な格好じゃないです! すごく綺麗です!」


 見惚れるって多分こういうことを言うのでしょう。思わず恥ずかしいことを口走ってしまいました。普段の僕ならそんなこと言わない……ん? そういえば、以前部長に「綺麗」って言ったことがあるような。


「あ、ありがとう」


 呟くようにそう言って部長はうつむきます。その頬にはほんのり朱が差していました。


 僕たちの間に流れる微妙な空気。互いにうつむいてしまって何も言うことができません。駅から出てくる人。そして駅に入っていく人。彼らが皆、僕らの方に視線を向けているような気がします。


 このままじゃいけないと思いつつ、けれど上手く行動が起こせない。もどかしくてもうどうにかなってしまいそう。


「あの、さ。弟子ちゃん」


 僕の代わりに口を開いてくれたのは、部長でした。


「な、なんでしょう?」


「き、今日は、その、デートってことで、いろいろ計画してるんだけど」


 デート。部長と。デート。その事実を前に、顔が熱くなっていきます。


「とりあえずさ。私に付いてきてもらっていいかな?」


「は、はい」


 僕が頷くと同時に歩き始める部長。僕は、彼女の半歩後ろを歩きながら、彼女にただただ付いていきます。


 部長、どこに行くんだろ。いや、その前に。


 いろいろ浮かれて取り乱してしまいましたが、忘れてはいけません。このデートの先にあるものを。


 部長の隠し事。それは一体……。

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