STORY3 どうかあなたがこの場所で⑥

「あ。もうこんな時間」


 本屋を出てスマートフォンを確認すると、画面上には「17:06」の表示。どうやらかなり長居してしまったようです。


「部長、この後どうします?」


「…………」


 僕の質問に、部長は言葉を返してはくれませんでした。どことなく緊張した面持ち。両手に作られた握り拳。つい先ほどの本屋でした楽しい会話が嘘だったかのような突然の異変。


「部長?」


「……弟子ちゃん。最後に一つ、行きたい所があるんだけどいいかな?」


「へ? も、もちろんいいですけど」


「じゃあ付いてきて」


 歩き始める部長。言われるがまま、僕は彼女の後ろに続きます。ピシリと伸ばされた背筋、両手の握り拳。いつも以上の早足。彼女の背中からは、「緊張」の二文字がビンビンと伝わってきました。


 あ、もしかして。


 僕は思い出しました。今日、どうして僕と部長がデートをしたのかを。


 部長の隠し事って何なんだろう。


 それがただの笑い話で済むようなことではないのは明白でした。もしそうなら、僕が最初尋ねた時に部長はあっさり白状していたでしょうから。部長が今どんな覚悟で目的の場所に向かっているのか。僕には想像もつきません。


 心の準備、しとかないとなあ。


 部長に引き連れられショッピングセンターを出る僕。肌を打つ熱気。もう9月の下旬だというのに暑さは一向に収まる気配を見せません。じんわりと額に滲む汗を、ポケットに入れておいたハンカチで一拭き。


「部長、どこに向かってるんですか?」


「秘密」


「……はい」


 車たちのヘッドライトに照らされながら大通りを抜け、住宅が点々と立ち並ぶ細道に入ります。


「…………」


「…………」


 僕たちの間にはただただ沈黙が流れ続けていました。




♦♦♦




「着いたよ」


 ショッピングセンターを出て十五分ほど歩いたところで、部長が突然立ち止まりました。


「ここって、コミュニティーセンターですか?」


 目の前にあったのは、地元の小さなコミュニティーセンターでした。確か小学校低学年の頃、「夏休みの工作をしよう」というイベントに参加するためここに来たことを覚えています。正直あんまり記憶は残ってないですけど。


「入ろうか」


「え? 開いてるんですか?」


 コミュニティーセンターとか図書館みたいな地域の施設って、午後五時くらいで閉まるイメージがあるのですが。


「ここは十時まで開いてるよ。すごいでしょ」


「ほえー」


 全く知りませんでした。


「ねえ、弟子ちゃん」 


 驚いて口を半開きにしている僕に向かって、部長は曖昧に笑いながら告げます。


「中に入ったらさ、私の昔話、聞いてほしいんだ」

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