第35話 なかなかいい顔してるね
放課後。東館入り口。
「君、なかなかいい顔してるね」
皆さんは、ナンパをされたことがあるでしょうか。僕はあります。今この瞬間です。おっと、僕は男だから逆ナンという方が正しいかも。
「そ、そんなにいい顔してますかね?」
「うん。君みたいな人材を私たちは探してたんだよ」
「A殿のおっしゃる通り。実にいい顔ですな」
「同意同意」
僕に声をかけてきたのは三人。いやはや。ついに来ちゃいましたか。モテ期というやつが。はっはっは。
「えっと。とりあえず、何のご用件でしょう?」
「用件? そんなの決まってるよ。君を、我がオカルト研究部に勧誘したいと思ってね」
ああ、はい。分かってましたよ。これが逆ナンじゃないことくらい。
目の前の三人は、全員が黒覆面に黒マント着用。明らかに普通ではありません。怪しい。怪しすぎます。もう警察に連絡してもいいくらいじゃないですか? オカルト研究部の存在を知らない人なら、間違いなくスマホに手をかけている場面ですよ。
「ぼ、僕、もう将棋部に所属してるので。勧誘とかはちょっと」
「ふっふっふ。そんなこと関係ないね。私の後ろにいる二人も、元は運動部でさ。いろいろあって、オカルト研究部に変部してくれたんだよ」
「オカルト、いいですぞ。君も世界の深淵を覗こう」
「覗こう覗こう」
顔は見えませんが、声的に後ろの二人が男性で僕に声をかけてきたのが女性。しかも、男性二人は元運動部。絶対僕より足も速いですし力も強いはず。逃げるのは容易じゃなさそうです。
ううう。どうしてこんなことに。僕はただ部室に向かってただけなのに。誰か助けて~。
「さあ。どうやらオカルトに興味があるようだし、さっそく我々の部室へ行こうじゃないか」
「僕、そんなこと一言も言ってないんですけど」
「ふっ。言わずとも、顔が物語ってるよ。私には分かる」
まずい。話が通じない。
「というわけで。部員B、C。やっておしまい!」
「合点承知の助」
「承知承知」
女性が指を鳴らすと同時。後ろの二人が僕に歩み寄り、左右の逃げ場を塞ぎます。マントから出て来た筋肉質の腕が、僕の両肩へ。痛いくらいの力に、僕は顔をしかめました。
ひ、ひえ~~~~~~~~。
「な、何してるのかな?」
突然女性の背後から聞こえてきた声。縋り付く思いでそちらを見ると、視線の先には見慣れた人物が立っていました。
「し、師匠!」
僕たちが話していたのは東館の入り口。将棋部へ行くには必ずそこを通らないといけないわけで。彼女が僕より先に部室に来ていなかったことが幸いしたようです。
師匠の姿を認めた途端、僕の両肩に手を回していた二人の力が急激に弱まりました。
「よ、陽の者ではないか」
「よ、陽じゃ陽じゃ」
訳の分からないことを言いながら僕の背後に回る二人。え? 僕、盾にされてる?
「むむ。まさか、こんなところで陽の者と出会ってしまうとは。運がない」
なぜか女性まで訳の分からないことを言い始めました。彼女の言葉に、師匠が怪訝な表情で首をかしげます。
「陽の者って私のこと?」
「しかり。ただ、これも運命の仕向けた結果であろう。我々陰の者は引くしかあるまい。部員B、C行くぞよ」
「はっ。仰せのままに」
「ままにままに」
マントを翻し、女性は本校舎の方へと去っていきます。男性二人も彼女を追って本校舎へ。そのまま、三人の姿は建物の影に消えて見えなくなりました。
「…………」
「…………」
呆然とする僕と師匠。はて。今のは一体何だったのでしょうか。考えるだけ無駄のような気もしますが、考えざるをえません。それだけ衝撃的かつ意味不明な体験だったのですから。
「えっと。とりあえず、助かりました。ありがとうございます?」
「う、うん。どういたしまして?」
僕たち二人は、互いにはてなマークを浮かべ合うのでした。
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