第21話 三人のままがいいです

 放課後。将棋部の部室。


 次の一手を考える僕の前では、本のページをめくる師匠の姿。これまで何度も思ってきましたけど、どうして本を読みながら将棋ができてしまうのでしょう。相変わらず師匠はすごいです。


 ちなみに、師匠が今読んでいる本のタイトルは、『とある部活の観察記録』。一体どんな作品なのやら。


「そういえば、この前クラスメイトが話してるの聞いたんですけど、正式な部活動って部員が最低5人必要なんですね」


「ん。5人未満だと同好会って形になるね。部室とか部費とかが与えられるのは、正式な部活動って認められてから」


「へー。……将棋部って、3人しかいませんけどちゃんと『部活動』なんですか?」


 僕がそう尋ねると、師匠は呆れたような表情を浮かべてこちらへ視線を向けました。


「今更?」


「あ、あはは。今更、です」


 正直、必要な部員数なんて今まで深く考えたこともありませんからね。部員が3人なのも「こういうものかー」くらいの認識でしたし。


「私もあんまり詳しくは知らないけれど、幽霊部員が4人くらいいるらしいよ。全員部長の友達なんだって」


「ほえー。そんな裏話が」


 もしかして、将棋部が廃部の危機に陥ったから部長が手を回した、みたいな漫画風展開があったりするのでしょうか。今度部長に聞いてみることにしましょう。


「ひょっとして、君はもう少し部員が欲しかったりするのかな?」


「え?」


 僕を見つめる師匠の瞳。それが、ほんの少し揺れているような気がしました。


 もし、部員が増えたら。一人? 二人? それとももっと? この部室に、僕や師匠、部長以外の人がいるとしたら。


 それは……。


 それ、は……。


「えっと。僕としてはですね」


「うん」


「三人のままがいいです」


 静かな部室に響く僕の言葉。思いのほか大きな声が出てしまったことが恥ずかしくて、僕は師匠から顔をそらしました。そのままコホンと小さく咳払い。


「ふふ。三人のままがいい、ね。まさか食い気味にそんなこと言われるとは思わなかったよ」


「か、からかわないでください」


「にしても、君の考えは部長にも知っておいてもらいたいね。ちょっとメールしてみようか」


「ちょ! スマホ取り出さないでくださいよ! ストップストップ!」


 ほんの少し賑やかさの増した室内。スマホを操作しようとする師匠と、それを必死に止める僕。つい先ほどまで将棋を指していた、といいますか、今も対局の途中だなんて一体誰が思うでしょうか。


「あ。メールよりも電話の方がいいかな。君の口から直接……」


「だからやめてくださいって! といいますか、どうして急にテンション高くなってるんですか!?」

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