第15話 あれ?
放課後。将棋部の部室。
「師匠。僕、昨日初めて
詰将棋とは、相手の王様を詰ませる手順を考える問題。言い換えればパズルのようなものです。
「へー。君がそんなことするなんて珍しいね」
「やっぱり、本に載ってる問題を解いてるだけじゃ味気ないなと思いまして。これ、見てください」
そう言って、僕は師匠に一枚の紙を差し出しました。そこに描かれているのは、昨日僕がかなりの時間をかけて作った詰将棋。どうにか凝ったものにしたいと頭を悩ませ続け、ようやく完成した力作。おかげで今日は少しだけ寝不足です。
ん? 締め切りが近い授業の課題? はっはっは。何のことやら。
「せっかくだから解いてみようかな」
紙を受け取る師匠。数秒後。その頭が右へ小さく傾きました。
もしかして、悩んでる? え? 本当に?
師匠は、僕が解けない詰将棋をいつも簡単に解いてしまいます。そもそも師匠はプロ棋士。僕との実力差は歴然なのですから。
そんな師匠が今、明らかに悩んでいるのです。しかも、僕が作った詰将棋で。
これ、相当上手く作れたってことだよね。あ。やばい。嬉しい。
「いやー。本当に作るの難しかったです。オリジナル性を出したかったといいますか。解く人をびっくりさせられるようにしたかったといいますか。とにかく大変でした」
「…………」
「まあでも、結構いい勉強になりましたし、これからも続け」「ねえ、君」
思わず得意気に語ってしまっていた僕の言葉を、師匠が遮りました。その顔に浮かぶのは、怪訝な表情。
「師匠、どうしました?」
「これ、詰まないね」
「…………へ?」
詰まない? 詰まないって?
「一応、君の考えてる正解聞かせて」
「あ、はい」
言われるがまま、僕は詰将棋の正解手順を口にします。それを全て言い終えた時、師匠は「やっぱり」と小さく呟きました。
「十手目のところなんだけどさ。君は『3一
「え? それは…………ん?」
不意によぎる不安。焦った僕は、駒袋の中から駒を取り出し、問題の盤面通りに駒を配置します。そこから駒をゆっくりと動かし、十手目。
「『3一玉』じゃなくて『4一玉』なら……」
あれ?
あれえ?
あれえええええ?
「やっぱり、詰んでなかったみたいだね」
僕の方を見ながらクスクスと笑う師匠。果たして、今の僕はどのような表情を浮かべているのでしょうか。なんとなく、かつてないほどの間抜け顔になっている気がします。
「あう。ちゃんと間違ってないか確認したはずなのに」
「詰将棋を作るのに慣れてないとそんなものだよ。次の問題、楽しみにしてるね」
この日の夜。僕は、再度詰将棋を作り直すこととなったのでした。
ん? 締め切りが近い授業の課題? はっはっはっはっは。何のことやら。
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