第4話 どーん!

 放課後。将棋部の部室。


 暇だななんて考えながら駒を手で弄んでいた僕。ですが数秒後。その暇な時間はあっという間に無くなることとなりました。


「どーん!」


 大きな効果音を自分の口で放ちながら、一人の女性が姿を現したのです。


「ぶ、部長! 扉はもっと優しく開けてください!」


「わお。部屋に入って早々怒られちゃった」


 ニシシといたずらっ子のように笑う女性。くせ毛の目立つショートヘアー。優しい印象の垂れ目に健康的な桃色の唇。胸のあたりには、三年生であることを示す紫色のリボンが揺れています。そんな彼女の正体は、将棋部の部長。受験生かつ実家の自営業を手伝っていることもあり、一週間に一、二回くらいしか部室に姿を見せません。


「部長。今日は来れたんですね」


「そそ。いやー。勉強も家の手伝いも毎日大変だよ。けど、こうして部の様子を見に来るのも部長の務めってやつさ。よっこいしょっと」


 僕の向かい側にあるパイプ椅子に腰を下ろす部長。年季の入った椅子が、ギシリと鈍い音を響かせます。


「そういえば、師匠ちゃんは?」


「今日は対局があるので学校自体休んでますよ。昨日言ってました」


 プロ棋士である師匠は、対局のために学校を休むことが多々あります。学校側もそれを理解しており、休んだ分は後から補習を受けたり別の課題を出したりすることで埋め合わせしているようです。プロ棋士と学生。この二足の草鞋を履くのがどれだけ難しい事なのか。僕には想像すらできません。


「休みか―。ま、知ってたけど。昨日私の方にも師匠ちゃんから連絡きたし」


「知ってたならわざわざ聞かないでください」


「ありゃ。また怒られちゃった」


 悪びれる様子もなくそう言った部長は、テーブルの上にあった駒袋を逆さまにし、盤上に駒を広げます。


「さて。さっそくだけど対局しようか。弟子ちゃんはどれくらい強くなったのかなー?」


「あんまり期待しないでくださいよ」


 駒を並べ始める僕たち。パチリパチリと、駒と盤のぶつかる音が部室内に優しく響きます。


 部長とこうして盤を挟むのは三日ぶりですね。さすがにたった数日で実力が大きく変わるなんてことはありませんが、なんとか頑張ってみましょう。前のリベンジもかねて。


「ふふ。師匠ちゃんには悪いけど、今日は私が弟子ちゃんを独り占めだね」


「いや、何言ってるんですか。突然」


「……今の言葉、師匠ちゃんから言われたらもっと別の反応するんだろうね、君は。まあいいけどさ」


 なぜかちょっぴり唇を尖らせた部長は、先ほどよりも大きな音を立てながら盤上に駒を打ち下ろすのでした。


 ちなみに、部長との対局の結果ですが。


 はい。もっと精進します。ハハハ…………はあ。

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