第3話 君は本当に相変わらずだね
放課後。将棋部の部室。
「うーん。分からない」
「
「はい」
僕は、持っていた詰将棋の本を師匠に向けて開きました。詰将棋とは、相手の王様を詰ませる手順を考える問題。言い換えればパズルのようなもの。対局の終盤における力をつけるために重要とは言われますが、正直僕は得意ではありません。
「ふむ」
本を覗き込む師匠。その数秒後。
「4三
「や、やっぱり早いですね」
僕が十分以上考えて解けなかった問題を、師匠はパッと見ただけで解いてしまいました。さすが。
「ありがと。君に褒めてもらえるのは嬉しいよ」
そう言って、師匠はニコリと微笑みました。僕の心臓が、先ほどよりも速い鼓動を刻み始めます。
にしても、今更ではありますがあまりにおかしいですよね。目の前にいる彼女が女性初のプロ棋士で、しかも僕の師匠だなんて。
プロ棋士は、
ちなみにですが、将棋の世界で活躍している女性もいるにはいます。ですが、それは皆『女流棋士』と呼ばれる人たち。プロ棋士とはまた別枠の存在です。将棋を知らない人にとっては分かりにくい違いですけど。
「ふう。もっと頑張らないとですね」
「頑張るって、将棋を?」
「はい。もっともっと強くなって、師匠をびっくりさせられるようになりたいです」
分かっています。自分が無茶な宣言をしていることくらい。プロの世界で戦う師匠と、毎日をのほほんと生きている僕。二人が立っているのは全く別の場所。きっと、僕の想像する努力なんて、師匠が普段やっている十分の一にも満たないでしょう。
だからといって、投げやりになっていいわけがありません。僕と将棋を指してくれる師匠のために。そして、僕が彼女をこれからも師匠と呼ぶために。
「私をびっくり、か」
「覚悟しててください」
「ふふ。君は本当に相変わらずだね」
相変わらず。その言葉の意味が分からず、僕は首をかしげました。
「よく分かってないって感じかな?」
「お、お恥ずかしながら」
「さて、どういう意味でしょう?」
いつも以上に楽しそうな様子で、師匠はそう問いかけるのでした。
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