第61話 閑話 王太子殿下・3


 この国の王太子、カインは『魔塔』の塔長、レオナルドからの報告を受けていた。


 カインが上機嫌に見えるのは思ったより近くにリリーナがいたせいか、あるいは『恋敵』であるレオナルドがミアイラン嬢に撃退され、すごすごと王都にまで戻ってきたせいか……。


「獣人族の軍勢がねぇ?」


「次期族長候補が誘拐されたとのこと。一応義姉上が報告をしたという領主代理にも話を聞くべきでしょう」


「あぁ、それはいずれ報告が上がってくるだろうからそれを待つとして……。いくら次の族長候補とはいえ、一人の少女を探すのに軍勢まで動かすだろうか? なにか『裏』があるんじゃないのかな?」


 聡いカインはそうレオナルドを詰問するが、


「さぁ、どうでしょう? 私も事後報告を受けただけですので」


 レオナルドはしれっとした顔で即答し、試すような目でカインを見やる。


「それとも、義姉上の説明を疑うのですか?」


「……ははっ、リリーナ嬢の言葉なら信じないわけにはいかないね。……やれやれ、獣人族なんて赤の他人だろうに、わざわざ庇うとは……。君のは少しばかり甘いのじゃないかな?」


「私の義姉・・が甘いとお思いなのでしたら、殿下は義姉上のことをなにも理解していないようですね」


「…………」


「…………」


 お互いにじぃっと睨み合ったあと、カインがやれやれとため息をついた。


「リリーナ嬢はアイルセル公爵邸に宿泊しているんだね?」


「そのようですね。まったく、ミアイラン嬢も相応の教育を受けているのですから、義姉上がシャペロンなどやらずともいいでしょうに……」


「……あの子は相応の教育を受けているのかい?」


「……少々変わったところはありますが、あるはずです。あれでも公爵令嬢なのですから」


「でも、アイルセル公爵家だよ?」


「……他家の教育方針に口を出すのは控えるべきかと」


「あぁ、そうしようか」


 ふむ、とカインが椅子の背もたれに体重を預ける。


「そろそろデビュタントだからね。私もリリーナ嬢に会うとしようか」


「はぁ……?」


 この、リリーナへの恋心を隠そうともしない男がリリーナに会いに行くのはどこもおかしいところはない。むしろ遅すぎるなと疑問を抱くべきだろう。


 しかし、一番の疑問は「そろそろデビュタントだから」という点。5年も前にデビュタントを終えたリリーナと何の関係があるというのか?


 疑問を視線に乗せるレオナルドであるが、カインは素知らぬ顔で窓の外を眺め始めてしまった。




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