第55話 手加減した(つもり)


「ちょっとお姉様!? 広範囲殲滅魔法はやりすぎなのでは!?」


「え? 大丈夫でしょうちゃんと弱設定だから。広範囲殲滅魔法(弱)だから。死人はいない……はずよ」


「このっ、無自覚魔力バカっ!」


 妹分からの酷い言われようだった。


 さて。広範囲と銘打つだけあって、私の攻撃魔法は獣人たちを一人残らず行動不能にしたようだった。……よく見ると、結界を張っていたはずのミッツ様とガース様も気絶しているようだったけど……なんで? ちゃんと警告したわよね?


≪いえ、マスターの魔力は急増していますし。結界魔法くらいぶち抜けるでしょう≫


 と、アズ。


≪いえ、マスターの魔力でしたら急増する前でもぶち抜けていたかと≫


 と、フレイル。マスターを化け物扱いするのは止めてくれないかしら?


 とりあえず、転移魔法でミッツ様とガース様の元へ。……うん、気絶しているだけ。命に別状はないわね。


「いえ、広範囲魔法は薄く広がるので個々の威力は少ないはずなんですが……それでもお兄様の結界をぶち抜くって、どういうことですの? 次期騎士団長ですわよ……?」


 ミアの独り言は聞き流して、獣人さんたちを鑑定眼アプレイゼルで鑑定。……うんうん、みんな気絶しているだけね。死者はいないし重傷者もなし。いい感じに力加減ができたみたいね。


≪相手が人間だったら即死者続出だったと思いますが≫


≪獣人族の戦士は頑丈ですからね。不幸中の幸いと言えるでしょう≫


 あー、あー、聞こえないきこえなーい。





 しばらくしたら獣人さんたちも意識を取り戻し始めたので、杖型の魔導具を持っていた人から事情を聞く。


「いえ、畑作業から帰る途中で、カッコイイ形をした木の棒が落ちていましたので。これはいいと拾ったところ、急に意識が遠のいて……」


 落ちてる木の棒を拾うとか、登下校中の小学生男子か。


「じゃあ、獣人族の持ち物じゃないのかしら?」


 その疑問にはセナちゃんが答えてくれた。


「少なくとも私は知らないですね。そもそも獣人族は魔導具というものをあまり使いませんし。……使わないからこそ、どこかの倉庫にしまったまま忘れ去られていた可能性もありますが……」


 聖剣アズベインって人間と獣人族が協力して作り上げたんじゃなかったっけ? 勇者伝説では。ガースさんもそんなことを言っていたし。


「こちらに伝わる昔話では……あくまで獣人族は力作業担当だったようですので……」


 作るのに協力はしても、魔導具事態に興味はないってことかしら?


 魔導具自体はどこかの倉庫で埃を被っていたというのが一番可能性が高そうだけど、それだと「落ちてた木の棒を拾った」という獣人さんの証言と矛盾すると思う。


 あるいはあの山賊たちがセナちゃんとリッファ君を誘拐したときに、その魔導具を落としていったとか? でも、山賊がそんな何個も魔導具を持っているだろうか……?


 う~ん、考えても分からないから、ここは杖型の魔導具に聞いてみましょうか。アズやフレイルとも意思疎通ができるのだし、杖ともできるでしょうきっと。


 え~っと、魔導具はどこに……。


 私がキョロキョロと探していると、獣人さんが地面を指差した。その先にあったのは――黒焦げになった、木の棒?


≪攻撃魔法の直撃を受けて焼き尽くされましたか≫


≪むしろこれが避雷針になったおかげで、周りへの被害が軽減されたのでしょう≫


≪普通、魔導具ってそう簡単には破壊できないんですけどね≫


≪まぁ、マスターですし……≫


 なぜか呆れられてしまうマスターさんだった。





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