第41話 転移魔法


「お姉様、本当に王都へと向かうのですか?」


 なぜか嫌そうなミアだった。


「まぁ、お父様から陛下へのお手紙を預かっているもの。行かないわけにもいかないわよ」


「……では、王都では、ぜひ我がアイルセル公爵家の王都邸でお過ごしくださいませ」


「あら、いいの? 今から宿を取るのは大変だから助かるけれど」


 この世界、女性が一人で安宿に泊まるのは危険すぎるし、衛生面もアレなので、宿を取るなら貴族向けのものを選ばないとマズいのだ。


「はい。お姉様はわたくしのシャペロンをしていただきますし。このまま滞在していただき、授業を開始していただければと」


「あーそういえばそんな話もあったわよね。色々ありすぎて忘れていたけれど」


 断る理由はないし、むしろ望むところなので私はミアの話を快諾したのだった。授業料というか家庭教師料で宿泊費を相殺してもらえばいいし。


「……まずはお兄様に手紙を出さないといけませんね」


 なにか小さくつぶやくミアだった。





 代官への報告を終え、やっとの事で外の空気を吸えた頃にはもう太陽が真上に昇っていた。


 う~ん、今から街を出ても、王都までの途中で野宿するハメになりそうね。

 それはミアも同じ意見だったようだ。


「お姉様。今日はこの街で宿を取りましょうか?」


「それもいいけど……セナちゃんたちはどうするの?」


「私たちは王都にある領事館で事件の説明をしなければいけませんので、とりあえずは王都に向かおうと思います」


「あら、そうなの? じゃあ一泊して一緒に行く?」


「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけには……。それに、獣人にとって馬車の中というのは少々キツいものがありますので。今から出発すれば、明日の昼間頃には王都に到着するでしょう」


 それって徒歩、あるいは走って王都を目指すってことよね? 馬車並みの速度で王都まで移動できるって、やっぱり獣人って凄い身体能力をしているわね……。


 いや、セナちゃんの隣にいたリッファ君が顔を青くしているから、もしかしてセナちゃんが脳筋なだけかしら?


 馬車が苦手というのなら、無理やり同行させるのは気が引ける。


 でも、誘拐されたばかりの少年少女を王都まで走らせるのはもっと気が引ける。


「……うん、じゃあ王都まで転移・・してしまいましょうか」


「……転移、ですか?」


 訝しげな顔をするセナちゃんにウィンクし、私は近くにあったホウキを借りて地面に魔法陣を書き始めた。伝説の聖女様ならこんなことをせずに無詠唱で転移できるのだけど、私は平々凡々とした一般魔法使い枠なのでいちいち転移魔法陣を描かないといけないのだ。


≪……平々凡々?≫

≪マスターは冗談が下手ですね≫


 なぜか呆れたような声を上げるアズとフレイルだった。


 とりあえず転移魔法陣は描けたので、ミアたちに魔法陣の中に入ってもらう。


 ちなみに馬車や騎士さんたちを転移させるほどの力はないので、彼らには明日王都に向かってもらうことになる。


 さーって、さっそく魔法陣を起動してーっと。


≪……フレイル。これ、マズいのでは?≫

≪そうですね。マスターは良くも悪くも無自覚なようですので≫


 ひそひそと話し合ったアズとフレイル。その結果どういう結論に至ったのかは知らないけれど、私の手首に装備されたフレイルが淡い光を発し始めた。


≪マスターの魔法使用をサポートします≫


 サポート?


≪無自覚に魔力を流しすぎて爆発したり、王城を吹き飛ばしたり、転移した人間が蒸発する可能性などありますから。私が適切な魔力になるよう調整します≫


 …………。


 いやいや、私そこまで不器用じゃないわよ?


≪雷を無差別に落としたり、消火のための水魔法を豪雨にしてしまうマスターが、不器用ではないと?≫


 そ、総魔力が増えてまだ慣れてないだけだし……。


 ちょっと心当たりがあった私は大人しくフレイルにサポートしてもらうことにしたのだった。


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