第40話 にぶい


 近くの街に到着したので、門番に事情を説明して山賊たちの身柄を引き渡す。ここはさすが貴族令嬢なだけあって、変な疑いを持たれることなく話が進んでいく。


「では、まことに恐縮では御座いますが、詳しいお話を聞かせていただきたく……」


 恐縮しまくりな文官に連れてこられたのは、この街の代官の館。このあたりはライラック伯爵家の領地なのだけど、伯爵本人がいちいち統治なんてできないから代官を派遣する形となるのだ。


 いかにもな代官。成長した腹部の肉で豪奢な服に悲鳴を上げさせている系中年男性だった。普段はきっと偉ぶっているのだろうけど、現在は公爵令嬢×2を前にして冷や汗だらだらだ。


「いやはや、まさか公爵家の馬車が襲われるとは……定期的に山狩りをしているのですが、余所から移動してきたばかりの賊はどうしても把握しきれず……」


 謝罪よりも先に言い訳をする代官だった。そりゃあまぁ、自分が代理統治している土地で公爵令嬢が山賊に襲われたのだから冷や汗も出るでしょう。上手くいけば解任で、悪くいけばギロチンだもの。


 しかし今回は断罪が目的じゃないし、襲われたのはミアなのでその辺のことはアイルセル公爵家にお任せしましょう。


 ぎこちない笑みを浮かべながら代官が私に確認してくる。


「……リリーナ・リインレイト公爵令嬢。今回の件は王都に報告することになりますが、よろしいでしょうか?」


「えぇ、まぁ、獣人族の次期族長が誘拐されましたからね。この街だけで処理するわけにはいかないでしょう」


「……それももちろんありますが、令嬢についてはどんな些細なことでも報告を挙げるよう、王太子殿下からの命令が下っておりますので……」


「…………」


 一体何をしているのか、あの子は……。





「権力乱用。やはりあのような男にはお姉様を渡せませんわね!」


 なにやら燃えるミアだった。あの男ってもしかして王太子殿下のこと? もしかしなくても不敬罪よ?


「…………」


 事情説明の際、私と並んでソファに座っていたセナちゃんがギュッと服の裾を握ってくる。獣人自治区は実質的な独立国だけど、我が国の影響も強いからね。そんな我が国の王太子殿下へのヤバめの発言に不安になってしまったのだろうか?


≪マスターってビックリするほど鈍いですよね≫


≪自覚のないモテ女ほど厄介なものはありませんね≫


 なぜか王家の宝×2から批難されてしまった。なぜに?


「……お姉ちゃんは、王子様と結婚するのですか?」


 と、そんなことを尋ねてくるセナちゃん。お姉ちゃん?


 お姉ちゃん。


 おねえちゃん。


 お・ね・え・ち・ゃ・ん。


 ふ、ふふっ、いつの間にかセナちゃんからの好感度が天元突破していたみたいね?


「大丈夫よ、王子様との結婚なんて、そう簡単にはできないのだから」


「……では、叔父上にもまだチャンス・・・・はあるんですね?」


 うん? チャンスって、なんの?


≪鈍い≫


≪鈍い≫


 息ぴったりにツッコミを入れてくる王家の宝×2であった。いやいやどういうことよ?





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