第8話


どうやら本当に俺はゾンビに襲われない体質を獲得したようだった。


ベランダから隣の部屋に侵入を試みたその翌日。


俺はベランダから部屋の中へ侵入するという方法を使って、同階にあるすべての部屋を探索した。


ベランダからベランダへ飛び移り、金属バットで窓を叩き割って中へ入る。


そして戸棚や冷蔵庫を漁り、腐っていない食べ物を探す。


そうやって同階になるすべての部屋を調べた結果、ざっと1週間分ぐらいの食料が手に入った。


カップ麺や、堅パン、調味料、干物など、日持ちがいい食料をかなり確保することができた。


一番緊張したのが、同階にある端っこの部屋に侵入を試みた時だった。


そこは前日に、中にゾンビ化した住人がいることを確認した部屋だった。


部屋に侵入を試みれば襲われる危険性があった。


その時点で俺は、いまだに隣の部屋の女ゾンビに襲われなかったのが、自分の体質のせいなのか、それとも女ゾンビが特殊だったのか、判断がつきかねていた。


もしも後者だった場合、ゾンビとの戦闘は避けられない。


俺は金属バットや包丁などで十分に武装した上で、最後の部屋に侵入したのだが、果たしてその部屋の住人だった40代ぐらいの男性ゾンビは、俺を見ても全く襲うようなそぶりを見せなかった。


女ゾンビと同様、この中年ゾンビも俺に興味を示さず、俺が部屋へ入っても周りを彷徨くだけだった。


これにより、俺がゾンビに襲われない体質を獲得したことがほぼ確定した。


原因はやはりゾンビウイルスに一度感染したことなのだろうか。


詳しいことはわからないが、ゾンビに襲われないことがわかって、俺の不安は一気に取り払われた。


ゾンビに襲われないのなら、ほぼリスクを負うことなく食料探しに出かけることができるので、生存確率はぐっと上がる。



「ひゃっほう!」



当座の命の危機がさって、俺は叫び出したい気分だった。


というか実際に叫んだ。


ゾンビパニックになってしまった世界で、俺だけが襲われない!



いや、俺だけじゃなくて他にも俺と同じような境遇の生存者がいるのかも知れない。


まぁどうでもいい。


とにかく自分の命が大切なのだ。



「となると目下のところ、敵はゾンビじゃなくてむしろ人間の方だな」



ゾンビに襲われないことがわかった俺は、これからの行動指針を考える。


まずこのゾンビに襲われない体質のことは、仮にこの先生存者に出会うことがあったとしてもなるべく隠しておこうと思った。


なぜならこの体質がバレれば利用されるに決まっているから。


俺ならゾンビに襲われず安全に食料を探しに回れるわけだし、それを利用して永遠に使い走りみたいなことをさせられるかも知れない。


それじゃあ、ゾンビパニック前の社畜時代と何も変わらない。


どうせ崩壊した世界だ。


俺は俺のことだけを考えて好きに生きさせてもらうとしよう。


あと、俺がゾンビウイルスに一度感染し、生還したことがバレたら実験台とかにされるかも知れない。


こんな世界だ。


きっと生存者たちは生き延びるために必死だろう。


自分たちが助かるためなら、俺を実験台にすることも厭わないかも知れない。



人類のために自分の身を犠牲にするような優しさは残念ながら持ち合わせていない。


俺の社会に対する恨みの感情は消えていないし、元来正義感が強い性格でもない。



とにかく自分第一に考えてやっていこうと心に決めた。



「さて…そうと決まれば食料調達にでも出かけるか…」



大まかな行動指針を決めたところで、俺は食料調達に出かけることにした。


一応アパートの同階の部屋から確保した食料は1週間分以上はあるが、出来ればもっと確保しておきたい。


保存食は現在の世界を生き延びる上で必須だ。


他の生存者たちに奪われる前に確保しなければ。


ゾンビに襲われないという特性を利用して、俺はできるだけ多くの保存食を早めに確保しておくことにした。

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