第36話 一緒に
冬の寒さも残る、
春の入り口。
あたしは、洋食屋さんでの、
バイト生活が、
始まっていた。
暫くは、
固定のお客様の為に、
ここの味も、覚えないと、
いけないけれど、
店長のおばさんが、
実践第一で、ここに来て、
最初から、
あたしに、料理を、
作らせてくれて、
あたしの、料理を、
凄く気に入ってくれた。
それを、今のうちから、
新メニューとして、
出していいと言う話で、
店長の、料理を覚えながら、
あたしの、料理も、
作らせてもらえている。
「あけみちゃんの、
ハンバーグ。また注文
入ったよ。」
「はーい。」
「私の見込んだ通りね、
あけみちゃんの、
お料理美味しいもの。
あけみちゃんが、
来てから、たった1ヶ月で、
売上も、倍になったわ。」
「やっぱり、
同じ美味しいなら、
綺麗な子の、料理よね。」
「店長、そう言うこと、
言わないで。店長の料理も、
でてるんですから。」
「事実よ。事実。料理、
覚えるのビックリするくらい
早いし。」
「もう。」
あたしは、朝七時の、
モーニングから、お昼まで、
ここで、腕をふるっている。
店長とは、すぐに、
打ち解けて、他人行儀さは、
殆んどなくなっていた。
「あけみちゃん、お疲れ!」
「はーい。先上がります。」
あたしは、移動して、
パン屋さんに、バイトに、
行く。
パン屋のおばさんも、
前より少し、
話し掛けて来る様になった。
「洋食屋。どう?」
「売り上げが、2倍って、
喜んでくれてます。」
「あけみちゃん、
頑張ってるんだね。」
「そんな。普通に、
やってるだけです。」
「洋食屋から、他に、
何か、聴いてない?」
「他には、得に。」
「そう。親友として、
洋食屋の事、頼むわね。」
「はい。頑張ります。」
何かを、
含ませた感じは、したけど、
この時は、深く考えては、
無かった。。。
この日のバイトは、
終わって、学校に行く。。
「りさ。お待たせ。」
「あけみ、最近、
前より
忙しくなったんじゃない?」
「うん。そうだねぇ。
動きっぱなしだね。
早く覚えたいから、
土日も、昼間働いてるし。」
「体、壊さない様にね。
今、あけみが、休んでも、
収入的に、
余裕あるんだからさ。」
「うん。きつい時は、
きついって、ちゃんと、
言うね。ありがと。りさ。」
「学校、行こ。」
「うん。」
りさと、歩きながら、
今日の、出来事を、
話しながら、学校に歩く。
りさとは、結構、
細かく、情報の、
共有を、常にしている。
お互い、隠し事の無い、
関係で、あたしは、
この関係は、
さっぱりしてて、好きだ。
学校が終われば、
家で、待っててくれる、
しおりの元に、
りさと、帰る。
「お姉ちゃん達、
おかえりなさい。」
いつも、笑顔。
しおりの笑顔には、
いつも、元気を貰ってる。
「お姉ちゃん達、お風呂、
沸かしてあるから、
早く入ろ。」
旅行に、行ってから、
あたし達は、殆んど、
三人で、お風呂に、
入っている。
裸の付き合いとは、
言うけど、あれは、本当。
りさと、しおりへの、
気持ちと言うか。
姉妹の結束と言うか。
凄く伝わってくる。
実際、旅行から、帰って、
フラッシュバックに、
一度も、悩まされてない。
前は、多いと、月に、
3度くらいあったのに。
きっと、これは、
しおりの、お陰だと思う。
結局、色々話し合ったのも、
あたし達が、しおりの事が、
大切だったからだし、
そもそも、今があるのさえ、
しおりと、
逢ったからだとも、言える。
最初は、りさと、普通を、
探して、手探りで、
追い求めてた物が、
しおりとの付き合いで、
現実として、わかる様に、
なって。
それは、あたし達には、
苦しかったり。
辛かったり。
色々あったけど。
それすら、乗り越える、
ヒントは、しおりとの、
対話から、掴んだもの。。
このまま、何事も無ければ、
引っ越しも、考えていた。
あたし達の場合、いつも、
同じ空間にいるので、
部屋数とかは、
どうでもいいので。
広い部屋が、一つと、
お風呂が、大きいのが、
条件。
賃貸の、情報を、三人で、
スマホを、良く眺めている。
お風呂から、上がると、
三人で、しおりの、
作ってくれた料理を、
温めて、
テーブルに並べて、
席に着く。
ご飯をたべながら、
しおりが、嬉しそうに、
「お姉ちゃん、春休みは、
どうしようか?」
と聴いてきた。
「うん。そうだね、
もう少しで、休みだね。
また、予定立てないとね。」
りさが、
スマホを取り出すと、
「休みに、
ここ見に行ってみたいなぁ」
と、賃貸の、画面を見せた。
駅までの距離は、
今と殆んど変わらない場所。
流石、探してるだけあって、
お風呂が広く、
リビングが、18畳。
その他にも、一つ部屋が、
あって、家賃が、9万円台。
「良く見つけたね。
こんな物件。」
「さっき、お風呂の、
待ち時間で、
ちょっと見たら、
見つけたんだ。
なんか、運命感じない?」
「うん。良いと思うよ。」
「春休みじゃなくて、
すぐに、見に行った方が、
いいね。今週の休みに、
行こうよ。」
「私も、賛成!きっと、
すぐに、埋まっちゃうよ。」
「うん。そうだね。」
「お姉ちゃん、春休みの、
どこかで、私も、
洋食屋さんの、アルバイト、
参加できるかなぁ?
数日だけでも。」
「大丈夫だと、思うよ。
店長、喜ぶと思う。」
「じゃあ、お願いね。」
「じゃあ、あたしも、
数日だけでも。
参加したいなぁ。」
「わかったよ。店長に、
言っておくね。」
りさは、嬉しそうに、
最後の一口を「ぱくり」と、
食べて、お茶をすすった。
「そう言えば、三人で、
同じ場所で、働くの、
初めてだね。なんだか、
あたし、楽しくなって来た」
「私は、お姉ちゃんの、
働いてる所見てみたい。」
「あたしも!」
「そんな、普通に、
やってるだけで、
大した事してないよ。」
「えへへ。だって、
見たいんだもん。」
「新しい事、始めて、
普通にやってる事自体、
凄いとおもうけど、
そこが、あけみらしいよね」
「そうかなぁ。ご飯を、
作ってるだけなんだけどね」
そう言うと、二人は、
苦笑いしていた。。。
次の日になると、
早速、店長に、
昨日の話しをして、
思ったとおり、店長は、
快く、二人が働くのを、
了承してくれた。
「本当は、土日の、お昼。
来てくれたら、
助かるんだけどね。」
「ちょっと、聞いてみます。」
あたしは、その後も、
ずっと、手を動かし、
前よりも、お客さんの、
増えた、このお店の、
料理を、さばいた。。。
店長は、最近、ほとんど、
料理を、作らなくなった。
あたしは、家に、戻って、
みんなが、揃ってる、
ご飯の時に、
店長から、頼まれた話を、
妹達に伝えた。。
「私は、参加したい。」
「あけみが、一緒なら、
あたしも、参加する。」
と、即答で、答えてくれた。
あたしの中では、
最近の、店長が、どうして、
料理を作らないのかが、
少し、気になっていた。
あんなに、楽しそうに、
料理を作る人が、
作らない事が、
少し、心配でもあった。
土曜日。。
三人で、洋食屋さんに、
バイトに行くと、
裏口から入った所にある、
更衣室に、店長と、
パン屋のおばさんが、
話をしていた。。
あたし達が、
「宜しくお願いします。」
と、声を掛けて、
着替えをしようとすると、
二人に話し掛けられた。
「あけみちゃん、
りさちゃん、
しおりちゃん。
もう少し、大丈夫だと、
思ってたんだけど、
そんなに、時間無いみたい。
私ね、病気なの。」
あたしは、
「え。」と、絶句した。
パン屋のおばさんが、
「今日は、洋食屋が、
みんなに、お願いが、
あるって、でも、
私に、立ち会って欲しいって
言うから、来ました。」
と、お辞儀をした。。
「店長、おばさん、
どう言うことなの?
病気って、何処が悪いの?」
あたしは、胸が、
苦しくなってた。
店長は、凄く、あたしに、
優しく、接してくれたから。
入院?するのかなって、
思った。
「あけみちゃん、
時間が無い。つまりは、
余命が、無いのよ。」
「嘘。でしょ。店長。」
「嘘なら、良かったんだけど
そうも、いかないわね。
もう、治療しても、
治らないの。だから、
最近、味も鈍ってきてね。
お料理は、大好きよ。
でも、お客様には、
もう出せないなって。」
「そんな。。。」
ショックで、あたしの目は、
涙が滲んでた。
「あけみちゃん、
りさちゃん、
しおりちゃん。
出来るなら、
このお店、出来る時だけで、
良いの。あたしの代わりに、
これから、続けて、
もらえないかしら。」
あたしは、店長の、
何かを、あたしに、
託す様な目に。。。
「出来る範囲で、
店長が、良ければ。。。」
と、泣いてしまった。
店長に、優しく抱き締めて
貰って。。。
「有り難う。有り難う。」
と、店長も、泣いていた。
パン屋のおばさんは、
店長が、いない時、
お店の管理をするのを、
頼まれて、
ここに呼ばれていて、
あたしの、返事次第で、
ゴールデンウィークで、
閉店も、考えていたらしい。
りさも、しおりも、
あたしを、
手伝ってくれるって、
言ってくれて。
泣いてるあたしを、
抱き締めてくれた。。。
この日は、あたしが、
このお店を、
今後どうするかを、
決めるため、結局、
お店は、Closeになって。
あたしが、ショック過ぎて、
手が動かないって言うのも、
あったけど。
パン屋のおばさんは、
新しいバイトを雇うから、
洋食屋に、専念した方が、
良いって、言ってくれた。
取り敢えず、調理師免許は、
不要で、
食品衛生責任者と、
防火管理者を早めに、
とって欲しいと言われた。
どれも、2日くらいの、
講習で、とれるらしいので、
それは、時間を作って、
取得できると言う話しに。
このお店は、店長の、
所有してる建物って事。
店長は、独り身なので、
店を続けてくれるなら、
店長の、いなくなった後は、
所有者を、あたしに、
無償で、してくれると、
言う事。
あたしは、何で?
で、いっぱいになった。
逢ったばかりなのに、
何で、お店をただで、
くれるなんて言うのか?
駅から、そんなに、
離れてないから、
売れば、結構なお金に、
なるはずなのに。。。
「店長、どうして、
そこまで、
してくれるんですか?」
胸が苦しくて、そう素直に、
店長に聴いた。。。
「病院のお金は、入ってた、
保険で、収まるのよ。
それにね。私、旦那も、
子供も、事故で失くしてね。
親族も、いないの。
まぁ、パン屋は、私の、
家族みたいな、ものよ。
だけど、私にも、
本当は、自分の娘と、
このお店、
やりたかった夢は、
あったの、
その夢が、あけみちゃん、
あなたと、少しだけど、
一緒に、出来たの。。。
私の夢が、叶ったのよ。。
自分の娘と、重ねて、
あなたを見てたことは、
あやまるわ。
でも、私には、本当に、
幸せな時間だったの。
あけみちゃんって、
私の娘に、似てるのよ。。
だから、パン屋に行くと、
あけみちゃんを、
ずっと、見てたわ。。。」
「ごめんね、あけみさん。
洋食屋に、娘さんに、
似てる、
仕事が出来る子って、
紹介しちゃって。
本当は、もっと早く、
洋食屋を、
紹介したかったんだけど、
この人が、無理には、
頼みたくないって言うから」
「そうだったんですね。」
あたしは、店長が、
あたしを見る目が、
優しかったのは、
娘を見るときの、
母親の目だったと、
初めて知った。。。
「店長。後、どれくらい、
なんですか。。。。」
息苦しい中、店長に、
聞いた。。
「もって、年内ね。」
「ううっ。」
あたしは、何だか、
店長が、いなくなるのが、
悲しくて、泣いてしまった。
「本当にそっくり、
泣いてる顔も、
似てるのね。。。」
そう言って、店長は、
抱き締めて、背中を、
優しく、トントンと、
子供をあやすように、
優しく叩いてくれた。。
隣で、見ている、
りさも、しおりも、
辛そうな顔をしていた。
「店長、少しの間、
お母さんって、
呼んでいいですか?
あたし、両親が、
いないので。。。」
店長は、絶句して。。
「あけみちゃんも、
今まで、
苦労してきたのね。。。
私、嬉しいわ。
じゃあ、今から、
あけみちゃんの、
お母さんに、なります。」
それを、聞いていたりさが、
「あけみの、お母さんなら、
私のお母さんだね。」
って。
「え、じゃあ、私の、
お母さんでも、
あるってことだよね。」
と、しおりも、言った。
店長は、
「あらあら、急に、
三人も、娘が出来ちゃった」
と、ぽろぽろと、
涙を流して、
嬉しそうに泣いた。。。
パン屋のおばさんに、
肩を抱かれて、
店長は、今まで、
貯めてた分も、
いっぱい泣いてた。。。
その店長を見て、
あたし達も、泣いて。。。
落ち着いた所で、
今後の事を、
詰めて、話し合った。
そして、
家に帰る時、
「お母さん、また、
明日来るね。」って。
あたし達は、
お母さんに、手を振った。。
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