後輩




 調子が悪い、とは、思っていたのだ。

 乙葉君のお母上にまずは簡単な挨拶をするだけの予定だったのが、図らずも夕ご飯までご馳走になって、そのまま会話を楽しんで、今日はそのまま泊まって行きなさいとの誘いを丁寧に断って、家まで送るとの乙葉君の申し出も断って、一人で帰路に就く中。

 ポメラニアン化しそうになる心身を必死で抑え込んだ反動だろう。

 おぼつかない足を必死に動かして、乙葉君の家から早く離れようとした。


 流石は乙葉君のお母上だった。

 手厚い歓迎を思い返して、失礼ながらも身震いしてしまった。


 癒され、まくったのだ。

 より癒されたい、強く甘えたいと、ポメラニアン化しそうになって、しまったのだ。


(息子の運命の相手だから大丈夫だと、全幅の信頼を寄せてくれていた。大丈夫か。あの家族は。詐欺に遭って被害を受けたりするのではないか?いや。そんな事は、しかし)


 乙葉君のみならず、お母上の心配をしていた時だった。

 背後から後輩に呼びかけられて振り返れば、何か甘い香りを嗅がされて、意識が急速に遠のいてしまったのだ。


「すみません。先輩。俺、もう、」











(2024.7.15)



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