第10話 風に乗りました。

 無事に昇化したので移動です。アンナさん、お願いします。


【ではまず、上の方の葉っぱへ移動して下さい】


 途中で葉っぱを齧りつつ、のたのたと遅い足で上へと登る。一番上の葉っぱまで行って大丈夫かな? 狙われたりしない?


【何があっても守りますので】


 本当に頼もしくて涙が出るね、どうすればボクはアンナさんをお嫁さんに出来ますか?


【嫁に来て下さった方が万事上手くいきますよ】


 何度だって言うけど、ボクは夫の座を諦めないから!


 言い合いをしつつよじ登って一番上の葉っぱまで来た。多分そんなに高くはない植物だと思うんだけど、高い樹に登ったみたいに凄く見晴らしが良い。それだけボクが縮んでしまったんだろうと思うと無力感に襲われるけど、この景色は縮まなければ見られなかったものだと思うと感慨深い。


 低い草が樹みたいに並んで、ところどころに鮮やかな花。高い樹は今の僕では視界に入りきらなくて、ボクは人の身のままだったら味わうことのなかった感動で、暫く茫然としてしまった。


【天羽様】


 アンナさんの声で我に返る。次に見る機会があるか分からないこの景色を目に焼き付けて、ボクはアンナさんへ意識を向けた。


 ボクはどうすれば良いの?


【葉っぱから絶対に離れないようにして下さい。また不測の事態に備えてその葉っぱは移動先で収納へ入れますので、今は魔力を吸わないようにお願いします】


 うん、分かった。


 言われるままに葉っぱの中央辺りで収まりが良い場所を探して、そこにしがみつく。


【行きます】


 貯めていた魔力の一部が消費され、葉っぱが根本から切り落とされた直後に風に舞った。


 人の身のままだったら絶対に悲鳴を上げていた。絶叫マシンが過ぎる、叫びたい、近所迷惑になりそうな大声で叫んで笑いたい! 虫の身体に対する感情が乱高下する、感動と悔しさが綯交ぜだ。


【楽しんでいただけているなら、僥倖です】


 絶叫マシンなら大歓迎だよ、お化け屋敷は断固拒否するけど!


【かわいい】


 反射的に荷物振り回して、スタッフさんの顔面にブチ当てちゃったからなんだけど。


【かわいい】


 本当に世界はボクを呪うより先に魅了の調整をするべきだと思う。

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