3日目:おはよう

 小鳥たちの声が聞こえる。

 開け広げた窓から、風が吹き抜けていく。

 風が本のページをめくり、パラパラと音を立てる。


 ベッドが軋む音がする。 

 リスナーの耳元でヒロインが大きな欠伸をする。

 布団をめくる音。ヒロインが体を起こして伸びをする。さらりと長い髪がこぼれる。


「んー……よく寝たー……」


 ヒロインは、吐息混じりに眠たげな声を出しながら、リスナーを起こすために布団を叩く。


「おはよう。起きる時間だよ」


 布団を叩く音が大きくなる。

 ヒロインの声も少しだけ大きくなる。


「おはよう」


 起きないリスナーに、ヒロインは少しだけ苛立つ。布団をバシバシと強めに叩く。


「起きる時間だよ、ほら、起きて」


 それでも起きる気配のないリスナーに、わざとらしくため息をつく。リスナーの耳元で拗ねた声を出す。


「まったく……食事の準備は君の仕事だろう。早く起きて、ご飯作ってくれないか?」


 もう一度布団を叩く。


「……仕方ないね。昨日ポーションでイタズラしたのは私。君の寝起きが悪いのは、私のせいでもあるからね」


 ヒロインが呆れたようにため息をつく。

 

「早く起きるための魔法をかけてあげるよ。はい、仰向けになって」


 ヒロインがリスナーの肩をポンポンと叩く。

 ごそごそと衣擦れの音がする。リスナーの体を仰向けにするイメージ。


「カウントアップをするよ。

 1から10まで数え上げて、最後に手を叩く。君の体は力を取り戻して、すっきりと目を覚ますはずだ」


「さあ、はじめようか」


「1、2、3」

「両足に活力がみなぎって、力を取り戻していくよ」


「4、5、6」

「両手に活力がみなぎってくる。

 両手、グーパーできる?

 ……うん、いいね。上出来だ」


「7、8」

「意識がはっきりとしてくる。クリアになってくる。

 考える力が戻ってくる」


「9」

「さあ、目を覚まそうか」


「10!」


 やや大きめの両手を叩く音。

 ヒロインがシャキッとした声で挨拶する。


「おはよう!」


「さあ、目は覚めたかい? 頭、すっきりした?

 うん、うん。いいね。すっかり目が覚めて、いつも通りの元気な君だ」


 ヒロインがリスナーの頭をくしゃくしゃと撫でる。


 ヒロインがベッドから降りる。

 ベッドが軋む音、床に足を下ろす音が聞こえる。


「さて……ご飯は頼んだ。私は昨日やり残した薬草の処理が残っているから。早速工房に行くとするよ」


「私の仕事を見たい? ふふ、殊勝な心がけじゃないか。

 でも、弟子の仕事は師匠の手伝い。今君に任せた仕事は、食事の準備。頼んだよ」


「食事が終わったら、また魔法を教えてあげるよ」

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魔女とポーションと寝かしつけ LeeArgent @LeeArgent

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