第6話 襲来 新たな転生者(最初のボス)
魔法、それは誰も到達することができないであろう神の領域に踏み入れるために作られた人工の技術、それは神秘ともいえる代物で誰もが魔法に魅入られた。
魔法でできることは多々あり、洗濯物を干したり、歯を自動でみがいてくれたり、戦闘の道具としても使うことができる。そして今では魔法に関する分野は完全に探求し終わったと言われている。
だが魔法による過酷な修練をせずとも魔法のようなことはできる。それを可能とするのはスキルという魔法とは別種の技術だ。通常スキルは先天的なもので後から新たなスキルを手に入れることはない。まぁ主人公っていう例外はいるけどね。
とりあえずスキルとは生まれ持った才能みたいなもんだ。とはいっても生まれてくる人間、そして転生してくる人間の全員が最低一個はスキルを持っている。多分昨日は俺のスキルが”牛乳瓶早飲み”だと勘違いされたんだろうな。
話を戻すけどさっき転生者もスキルを持って生まれてくると言った、これが問題なんだ、転生者のスキルは転生してから約一か月で発現することが多いと言われており冒険者協会の人間が一か月後に引き取りに来るのもこれが理由だ。
その引き取り時にスキルを確認されるときもし弱いスキル、それこそ牛乳早飲みとかだったら引き取りはされない、それは現地人にも持っている人間が存在するスキルだからだ。
だがもし現地人が持ちえないスキルだった場合、たとえそれが弱かったとしても引き取りは強制的に実行される。そのスキルの名前はユニークスキルといい、ほとんどんの場合強力無比な能力だ。主に戦争面に関してな。そんでもってそういう強力なスキルを転生者はかなりの確率で発現する。
それらユニークスキルは魔法でもできないことをしてみせるからな、そりゃあ手から喉が出るくらいほしいわけだ。(逆)
「さて、俺がユニーク持ちでないことを祈りつつ魔法の鍛錬を始めるか」
最強になる必要はない、ただ転生者を引き取りに来る奴らから逃げきることができればそれで………。
「………何してんすか?」
「腹減ったから飯作って」
「んな横暴な」
俺が必死になって本を読み込んでいるとそれを邪魔するように俺と本の隙間に顔を入れてきたカリンさんに文句を言う。てか間近で見るとまじで猛獣みたいだな。
「作れ、でないとお前を筋肉達磨にするぞ」
「脅迫じゃないすか」
「当たり前だろ」
「………この騎士団の倫理感は一体どうなってるんだ」
「作ってくれたら筋肉の付け方教えてやるからさぁ頼む、前作ってくれた鶏肉料理がうまくて忘れられないんだ」
「昨日のようなあんな地獄の筋トレもう二度としたくないっすよ、条件として成立してないっすからねそれ、まぁ俺も腹減ってたんで作りますよ、リューナもいる?」
長机の対角線上で俺から一番遠い距離で本を読んでいたリューナに声をかける。
ここで返しておこうあの時の借りは。
するとリューナは呆けたように口を開ける。
「………私の分も作ってくれるの?」
「あぁ、一度にいっぱい作った方が食費も抑えられるしな、そうすりゃアーサーさんに迷惑もかかんないだろ?」
「そう、じゃあお願いしてもいいかしら」
「はいよー」
んじゃあ丹精こめて作りますかね、作るとなったら手塩にかけて作りたいからな。
・
転生者がいなくなった図書館の部屋でカリンとリューナが静かに料理の訪れを待つ、つもりだったのだがカリンは待ちきれなくなったのか急にスクワットをし始めた。
「すっ、すっ、すっ」
腰を下ろしては吐かれる吐息をBGMにリューナは本のページをめくっていく。
ぺら、すっ、ぺら、すっ、ぺら、すっ、ぺら。
最早一種の音楽かと思えるかのような戦慄を奏でながらも本人たちは一切しゃべることなく時間は過ぎていく。だがついに我慢できなくなったのかリューナは眉間に血管を浮かべて本を閉じた。
「筋トレは別のとこでやってもらえるかしら」
「む?なんだうるさかったか、すまんな、別の場所に行ってくる」
垂れ流した汗を木製の床に染みついている。そんなシミを全く気にすることなくカリンはドアを開けて出ていった。
「………あいつ、シミを残していくなんて、常識がないのかしら」
あんたには言われたくない、と転生者である彼がいたらそうツッコミをいれていただろう。
「はぁ………」
パチンっとリューナが指をはじくと一人でに図書館の扉が開き、ところどころほつれが見える布が宙を舞って入って来た。その布はシミの上に降り立ち、ミミズのようにうねうねと動き出す。
「ふぅ」
とりあえずはあれでオーケーとし、リューナはもう一度本に視線を落とす。
「ちょっ!カリンさん!台所でダッシュしないでください!」
耳障りな叫び声が聞こえてきた。
ふと、つい一週間前にやってきた転生者に思いをはせる。
(あの人不思議だわ、私と関わろうとしてくるなんてアーサー以外にいなかったのに)
本を読むスピードが明らかに落ちている。今は転生者でいっぱいといった感じだ。
”誰かと関わる”それ自体が彼女にとってはそれほど必要のないものだと思っている。人としゃべることで新たに魔法が身に着くわけでもない、何も生産性がない行為だと感じていた。
だがあの男は違う、あの男は人と関わろうとしている、自分からも行くし、あっちから来ても突き放さずにちゃんと応対している。
それは自分にはできないことだと、彼女は感じていた。でも別に尊敬はしないしうらやましいとも思わない、ただそういう人間がいるというだけのことだ。
自分にはなんの関係もない。
するとすでに開かれている図書館の扉をくぐってきたのは一人の人影、読書の邪魔となる思考をさせていた原因の登場だった。片手には皿が乗せられていて、その上には湯気が立っているある物体があった。
「おまたせーリューナ、カリンさん絶賛の鶏肉煮込みだぞ」
「それ、自分で言うのはどうなの」
「はっ、まぁ食べてみなって」
自分の目の前に置かれた鶏肉が蒸されたであろうその料理は今まで数々の名店の料理を食べてきたリューナをもってしても惹かれるものだった。周りを彩るサラダたちがいい味を出している。
「これ、なんていう料理なの?」
「ん?確かサラダチキンとか言ったかな?」
「サラダチキン、なんて安直な名前なの」
だがそんな安直さがまたいい。名前がこじゃれてないのにも好感がもてる、正直高級店のあの長いメニューはいかがなものと思っていたのだ。
「じゃあいただくわね」
「あぁいただいてくれ」
「むっ………」
うまい、信じられないくらい。いい感じの加減で茹でられた鶏肉がぱさぱさしすぎておらずしっとりとしている。それにかかっているタレもコクがあっていい。それにサラダと一緒に食べると食べやすさが倍増する。
「………おいしい」
「そうか、そりゃよかった」
「………………」
まだまだ料理に関する感想は言えたのだが言ったら負けな気がして口を閉じる。
「ねぇあなたはなんで人と関わろうとするの?今日だって私のこと嫌いなはずの私に料理まで作って」
「………嫌いっていうか苦手だってだけだよ、それに苦手だって理由だけで同じ空間にいる人を完全無視するなんてかわいそうだろ」
どこかばつの悪そうな顔して彼は頭をかいている。
「私はあなたに哀れまれるほど弱い人間ではないのだけれど」
「そうかよ、じゃあ今度からはこんなことしないさ」
「………そうとはいってない」
「えぇどっちなの」
そんなの彼女にだってわからない、わからないから答えることなんてできるはずがなかった。
「まぁゆっくり食ってよ」
転生者はそれだけを言ってパタンと扉を閉じた。
「むかつく………」
閉じられた扉を恨めしく睨みながら苦言を呈す。だが提供された料理は一瞬のうちに平らげられていた。
・
夜遅くまで魔法に関する書物を読み込んでいた俺はろうそくの火を消す。こげ茶の煙を出しながら消えゆく炎をながた後薄暗い月明りに照らされたベッドに横たわる。
ちなみに文字に関しては日本語に翻訳された書物を使っているのでまったく問題はなかった。
「うん、まぁいい感じに学べて来たな」
今日の収穫に満足してから目を閉じようとする。
「む、痛い、カリンさんとの筋トレの筋肉痛がもう来たか」
今日から本格的に始まったカリンさんとの筋トレは過酷を極めた。昨日やったあの死ぬかと思った筋トレほどではないが、まずウォーミングアップにランニング10キロ、そしてそれが終わったらカリンさんを背中に乗せて腕立て伏せ100回、その後スクワット100回、そして極めつけにカリンさんとの組手、もうまじで疲れたね。普通に死ぬかと思った。
大きなため息が出そうになったそのときこんこん、と天窓から音がする。
「ん?」丁度ベッドの上にある天窓を見るために目を開ける。
そこには人がいた。けど完全黒ずくめであちらこちらから液体のようなものが漏れ出ている。溶けかけの人といった感じだ。だが顔に関しての情報は全くない。かろうじて白い歯が見えるくらいだ。
………来たか。
「誰?」
「やぁ俺は道真、君を救いだすものさ」
道真と名乗る不審者はぬるっと天窓を貫通してきてベッドの前にスライムのごとくべちゃっと落ちる。どろどろの塊となったそいつは塊のてっぺんに口を出し話始める。
はぐきをむき出しにしているそいつへの嫌悪をあらわにする。
「そんな邪見にするなぁ、俺はお前の味方だぜ」
「うるさい、俺の味方はここにいる獅子王の騎士団の人達だ」
「あいつらはお前を売る気だぜ、それに売られたらお前人としての生活なんかできないぜ、だから助けてやる、そんな不自由な場所からこの俺が救ってやる」
「ありがたい話だね、けど突然天窓から現れた君と今まで俺に衣食住を与えてくれた人の話、俺はどっちを信じると思う?」
「まぁ十中八九獅子王の馬鹿騎士団の方だろうな」
男はスライム状だった体を少しづつ人間に戻していく。その過程で服までも生成されている。黒いスポーツキャップに灰色のつなぎ、これではどこかの工事現場の人と間違われても仕方ない、と言ったような恰好だ。依然顔は見えない。
「じゃあ帰れよ、俺はここに残る」
「まぁまぁ、そう邪見にするな、これを見てくれよ」
ばさっと一束の紙がベッドの上に乱雑に投げられる。
………この紙束の中身に書かれていることは大体知っている。この世界の真実についてが書かれた紙だ。ゲーム内アイテムであったしな。
多分こいつは転生者で、同じく転生者である俺を救うためにここに来たのだろう。確かに今こいつについていけば俺はここを出られて冒険者協会に連れ去られることもなくなるだろう。
でもさ、現地人が転生者の国を襲ったら結局戦わなくてはならなくなるんだ。だから一番いいのは転生者側でも、現地人側でもなく、その間でひっそりと暮らすことだ。
物語中唯一誰も被害が出さなかった主人公の街に行ったりしてもいい。しがない冒険者としてほそぼそ生きるのもいい。とにかく戦争に関わらず生きることが大事なんだ。だからこの提案に乗ることなんてできない。
それに転生者軍も悪いことに簡単に手を出す集団ではあるしね。
その紙束をパラパラと適当に流し見る。
「読んだよ」
「そうか早いなじゃあわかったろ?俺達と一緒に来い、最高の世界を見せてやる」
にやついた腹立つ笑みを浮かべたその男が差し伸べてきた手を弾く。
「そういう世界はここにある」
「お前、これを見ても自分につけられた腕輪がどんなものか………お前腕輪はどうした?」
そこでようやく俺に呪いの腕輪がつけられていないことに気付く。
「腕輪?そういえば俺にはつけられてないな」
とぼけたふりをする。
「腕輪をつけさせるのが義務だったはずだが………ちっあのお人よし団長め、逆にめんどいことしやがって、はぁこうなったら仕方ない」
男は呆れたようにため息を吐く。
………俺は目の前の男の正体を知っている。道真という仮の名前とは別に”メリージュン”という本名を持っている。
そんでもってこいつは作中で主に転生者の勧誘をしている。そして彼は転生したての転生者達を現地人から守っているように見せかけて、実際は彼の持っているスキルによって彼と手を結んだ転生者から生命力を奪い自分の魔道具生成に使っていたのだ。
まぁ端的にいえばクズだ。そんでもってストーリー上の一番最初のボスでもある。
そんなやつと手を組むわけもないってことだ。
「力づくでも持って帰るとするか、っ!?」
一つの稲妻が俺の手を無理やりにつかもうとしたメリージュンの腕をはじき飛ばす。そして追い打ちをかけるようにまたも一筋の光線が男めがけて飛んできた。
「ちっ」
男はポケットから出した水風船のようなものを光線に向けて投げる。
「わっ!」
水風船は光線に当たり綺麗な花火が起こった。すると光線は起こった花火によって吸収されていき、数秒まだずして消えてしまう。
「リューナ………」
「勘違いしないでほしいのだけど、私は別にあなたを守ろうとしたんじゃなくて外敵を排除しようとしてただけ」
俺の部屋の扉の前にたたずんでいたのは可憐なる少女一人、寝間着なのかパンダ模様の服を着ている。
「本場のツンデレいただきました」
「?何を言ってるの?」
はぁといつも通り俺をゴミを見るような目で見たあとに、彼女は視線を少し横に移した。彼女は少し腕を上げる。その掌には魔法陣のようなものが浮かんでいる。
その魔法陣に水風船が当たり、またも同じ花火があがる。いやまぁ花火っていうか普通に爆発だけどね。
「ちっ不意打ちの爆発も効かないか、この魔女めっ」
メリージュンはスポーツキャップのつばを後頭部に移して被る。そして迎撃として水風船を追加で投げた。
「………」
「がっ!?」
リューナは会話をすることなく指をはじく。そして鳴らされた指の音とともにメリージュンの体は壁に叩きつけられた。
「くっ、屋敷に探知結界を張っていたか」
「………」
「はっしゃべる余裕もないか?」
「………別にそういうわけじゃないのだけれど」
………我が推し、煽り耐性がなさすぎる件について。
「はぁ仕方ない、今回は帰るとしようか!!!」
メリージュンが取り出したのは大量の水風船、それらすべてが同時に投げられた。それらすべてが爆発すれば俺の体どころかこの部屋すべてが爆散するに違いない。
「陳腐な魔道具ね」
それを彼女はいとも簡単に喰ってみせた。部屋すべてを満たすように散らばっていた水風船は姿を失い、もの静かな空間が作り出される。
………一瞬だった、ほんの一瞬だけ、リューナの掌から巨大な獣の口が現れたのが見えた。そしてその口が水風船をまるごと喰ったのだ。
「化け物めっ!」
「それで結構、死者の言葉を気にしていたらきりがないわ」
「………聞いてた通り、あんたは最高峰の魔法使いだったってことか」
「………そういうのはどうでもいいけれど、あなたは殺す」
「いんやお前はそれはできないぜ?」
「?、どういうこと」
リューナのしかめっ面に対してメリージュンはそのしかめっ面を指摘するように指を指す。
「大魔法・解放の散弾」
部屋を埋め尽くすほどの光の粒子が彼の指に集まっていく。
「っ!大魔法・祭典の守り人!」
対してリューナもまた掌に巨大なサークルを生成し、幾何学的な紋様をそのサークルに刻んでいく。サークルは青色の光を放ち、何か俺の知りえない力が集まっていくのを感じた。
「ちょ、やば」
俺はこれから起こる現象に身を振るわせ、全力で逃げようとしたが時すでに遅し………。
「穿て」
「守れ」
両者の短い一言によって破裂が起こる。耳の鼓膜がはちきれんばかりの金切り音が響き、思わず耳をふさいだ。そしてそれと同時に巻き起こった暴風によって俺の体は宙に舞う。
しばらくの間巻き起こった竜巻によって俺の体は回転ずしも顔負けのスピードで回り続け、ついにその波に弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。
「がっ!」
背中に走る衝撃に胃液が飛び出す。
「………大魔法をこの狭い空間で使うなよ」
きっと届かないであろう愚痴をこぼす。俺の体を打ち付けられた木製の壁が剥がれ落ち、俺の頭に落ちる。
周りを見渡すと気に入って来たあの板のごときベッドは粉々に砕け散り、ロナに土下座してまで手に入れたロウソクは道半ばで折れている。
というかリューナの後ろの扉以外この部屋で無事なものは何もなかった。壁や床はボロボロで、返しのように木が逆立っている。………こんな悲しいことがあるか。
でもまぁいいやとりあえず難は去った。爆発と同時に連れ去られることがなくてほんとよかった。
「………」
そして大量に舞っているほこりの中心で一人の少女がひっそりとたたずんでいる。メリージュンの姿はすでにそこにはなかった。
「結界の外に逃げられた………、まさか大魔法を使ってくるなんて」
一人ぶつぶつと思案するようにつぶやいているリューナを眺めながら、頭から流れ出た血をぬぐう。
「リューナさん、そろそろ俺の手当てをしちゃくれませんか?」
「あらあなた生きてたの、しぶといわね」
………ツンデレで俺のこと助けに来たと思ってたけどどうやら違うみたい。
「え、あ、俺の助けで来たわけじゃ………」
「違うと来たとき言ったじゃない」
「あれは、照れ隠しだと思ってた………」
「私があなたに惚れてるとでも思った?勘違いしないで」
くっ!こんなにもツンデレ要素ぷんぷんの言葉なのに、助けに来てくれたわけじゃないとはっ!こんなの日本男子は全員勘違いしてしまうんじゃないか?
そんなよこしまなことを考えてい俺のことを刺す一つの視線。彼女は全くの無表情のまま口を開く。
「………ひどい怪我」
「あー、そう見えるなら手当てしてほしいのだけれど」
「嫌よ、私汚いのには触らない主義なの」
「えー性格が終わってる」
はぁ仕方ない救護室にでも行って自分で手当てするか。
「じゃあ自分で手当てするからそこどいてくれるか?」
今現在部屋の扉の前を占拠している少女に向けていう。
ところがリューナはまるでどけてくれる気がしなかった。足が一歩たりとも動いていない。
「けど私の質問に答えてくれたら治療してあげる」
「まじかなんでも聞いてくれ」
「一つ目、あの侵入者は何者?」
「多分転生者だと思う」
「そう、じゃあ二つ目、なんであなたはそんなにも冷静なの?」
「っ………」
確かに盲点だった。普通ならこういう状況になったらもっと慌てるか、錯乱してリューナにしがみついたりするもんだもんな。
やばい、ここでこの世界はゲームの世界だったってことを伝えるか?………いや無理、リューナに伝えられる自信がない。
「いや、まぁ生まれ持っての気質というかぁ?なんというかぁ?こういう状況に慣れていたというかぁ?」
「………意外と大変だったのね、そっちの世界でも」
………あれ、それでいいの?今の目を泳がせまくった言い逃れをそんなに簡単に信じちゃっていいの?
俺の認識が甘かったのかもしれない、ゲームの中で見たリューナはいつも大人びていてクールな印象があった気がしたけど、実際見てみるとなんか純粋というか、なんかわがままな子供みたいな………。
そういや今って原作始まる前だった、原作時点でリューナの年齢は確か19歳、そして今は原作の3年前だったはず、ということは今リューナは高校一年生と同じ年齢ということになる。
………なんかそう見たらちょっとかわいく見えてきたな、あのむかつく態度も。
「何にやついてるの?治療してあげないわよ」
「あーごめんごめん、治療をしてください」
近くにあった半壊した椅子に座って軽くお辞儀をする。
「………」
彼女は特に何も返すことなく俺の頭に触れる。するとほの暖かいものが俺の頭を包んでいく。
次第にずきずきした痛みが引いていき素晴らしいすっきり感が後追いでやってくる。あぁ本場の治療魔法ってこんなに気持ちいいんだ。
「ねぇなんで私が治療魔法を使えるって知ってたの?」
「んー?だって前はしゃいで壁に頭ぶつけて気絶してたロナに使ってたろ?」
「………見られてたのね」
「あぁ、案外優しいとこあるじゃん」
「……………そんな、違うわ、あんなの優しさじゃ」
明らかに歯切れが悪い、それに目もはちゃめちゃに泳いでる。
「とにかく、これであの時の借りは返したから」
「あの時?」
身に覚えがありすぎる、一体どの扉の件だろうか。
「違う、料理よ」
「あー、あれかーなんだあんなこと覚えてたのか」
「…………もういいわ」
むんつけたように頬を膨らませたリューナは憤りを隠せないまま腰に手を当てて俺を見下ろす。その後彼女は指を鳴らし、姿を消した。
「あ、そうだ!ありがとうな!リューナ!!」
これを言うのを忘れてた、聞こえてるといいが………。
「やっと開いた!無事か!」
激しい勢いで入ってきたのは、アーサーさん、ロナ、カリンさん、その他にも団員さんたちが大勢入って来た。いの一番に駆け込んだアーサーさん、が俺の肩を掴む。
「え、あ、俺は無事ですけど」
「そうか、よかったどうあがいても、扉が開かなくて困っていたんだ」
「アーサーさんでも開かなかったんですか?」
「あぁ情けない話だがな、私の蹴りでも意固地として開かなかった」
「…………まさかな」
「ん?何か知ってるのか?」
「いやなんでもないです」
「まぁなんだ君が無事でよかった」
アーサーさんの肩を掴む力がほんの少し強くなった気がした。
「ほんと死んでなくてよかったのです」
「まったくロナの言う通りだ、私が教えた筋トレが役に立ったのか?」
「かもしんないっすね」
それだけを言って笑う。リューナがまさか扉に魔法をかけて、強固にした後に治療を自分ですることで借りを返そうとしていたんじゃないか、………いやそれは助けてくれたリューナに失礼だよな。こんな考えは捨てて、無事原作通り無事だったことに安堵しよう。
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