第3話 女神?
サンシャインライズ、このゲームは鬱ゲーだ。原作では多くの鬱イベントが存在しており、中でも龍遭遇イベントではモブの死亡数およそ1億人、主要キャラも複数人死んでしまう。リューナもそのうちの一人だ。
彼女は世界最高峰の魔法使いであるものの、その実、人と関わることが極端に苦手だった。いや苦手というより面倒だったともいえるかもだけど。
そんな彼女が田舎町出身の主人公によってほだされていく、だが最後は主人公のことを好きになっていたがために主人公のことをかばい、命を落としてしまう。それが彼女の最後だった。
次の日
「ふわぁ」
案外屋根裏生活は悪くなくて、スマホもなければ娯楽らしい娯楽もないものだから就寝時間がくそ早くなって、質も向上したおかげで寝ざめがよすぎる。
板だと思ってたベッドも、気にならないくらいだった。腰も無事でよかった。
昨日は色んなことがありすぎてもう考えるのをやめた。今日だ、今日からちゃんと考えよう!!
と、そんな怠惰な思いを一切顔に出さずに清々しい顔で天窓を見上げる。顔を照らす日光に目を細める。
「こんなにも太陽が気持ちいいと感じる日があるとは」
ブラック企業に勤めてたときはこんなこと思ってなかったなぁ、ただただ太陽の暑すぎる光に嫌気がさしてただけだった。
「おはようございますです」
ノックもなしに無遠慮にドアを開けてきたロナは、開口早々食事が下に用意してあると言い放った。
「案内しますのでついてきてくださいです」
「あ、はい」
今日は気分がいいので特になんのいじりもすることなくおとなしくついていく。
こう見るとロナちゃんってかわいいな、抱きしめたくなってくるような愛らしさがある。ふーむ。
「なんです?」
っと、こんな思考ばれたら多分殺されるな、押し殺しとかないと。
「いやなんでもない、それより早くご飯を食べたいなぁ」
「あ、そうですか、超おいしいので期待してていいですよ」
「それは楽しみだ」
お腹のなる音が聞こえた。それは俺のでもありロナのでもあった。お互い顔を見合わせた後、気恥ずかしさからかそこから食堂まで特に会話をすることはなかった。
・
「ここに食事が用意してます」
「おー」
その世界は異世界であっても、どう見ても俺にとっての普通だった。ちょっと洋風な雰囲気はあるけど基本的には日本でもありそうな部屋だった。
まわりには食器棚らしきものが立ち並ぶ。その量はすさまじく多く、およそ10個ほどは棚が置かれていた。
そして食器棚の近くには冷蔵庫らしきものもあった。………多分魔道具の類だろうな。作ったのはリューナあたりだろうか。
そして両端にある食器棚に囲まれるは巨大な長テーブル。今は人がいないからさみしく見えるがここに人がうまればとてもにぎやかになるだろうことはわかった。
白を基調としたカバーをかけれられたテーブルはさながらドレスを着ているようだ。
そしてそんな豪華な装飾品たちに負けず劣らず魅力を放つものが手前に置いてある。
「わぁ、焼き魚だ」
「やはり知っていましたか、この料理は10年ほど前に転生してきた人間が作った料理になるのです、正直言って天才だと思うのです」
「だよなぁわかるぜその気持ちは」
やっぱ異世界であるここでも焼き魚のすばらしさは伝わるらしい。それが地味にうれしかったりする。隣に置いてある白米とみそ汁がメイン所をおぜん立てする。彼らのおかげで焼き魚が本来の輝きをし始めると言ってもいい。
「うわぁめちゃくちゃうまそー」
昨日は部屋の前にパンが置かれてただけだったもんなぁ、まじで腹が減っちゃってるんだよねぇ。いやパンもおいしかったけどさ、やっぱ足りない感は出ちゃうよね。
「じゃあ私はこれで失礼するのです」
「えーもう帰っちゃうのー?一緒に食べようよぉ」
「いやなのです、私は自分の部屋で食べる派なのです」
「まぁ嫌ならしょうがないかぁ」
「止めないんですね」
「止めないさ、人が嫌がりそうなことはあんまりしたくないたちでね」
それにロリを必死になって止めたら人としての何かが壊れてしまう気がしたからな。
「それにしては昨日は随分と私に突っかかって来たけど?」
「うわっ」
突然後ろから声を賭けられたかと思い、後ろを振り返るとそこには昨日会った女神がいた。
今日はどうやらセーラー服は着ていないようで、普通のワンピースのようなものを着ていた。腕にあるはずの袖はなくて、とても涼しそうだ。
あ、多分昨日なぜか俺に魔法で隠してたはずの猫耳を見られて恥ずかしくなったな?………やめよう、そんな悲しい考えは。
彼女は冷蔵庫らしき所から牛乳瓶のようなものを片手に持っていた。
備考:牛乳好き、かわいいもの好き。
「………リューナさん」
と、ロナは腰を低くして彼女に尋ねる。
「何?」
眉間にしわを寄せて聞き返す。その顔はそれ以上喋るなとでも言いたげなものだ。
「………なんでもないです」
………やっぱ冷たいな、リューナは好きではあるけど、友達とかにはしたくないタイプだな、まじで喋りづらそう。
「じゃあ私はこれで失礼するのです」
本当にここにいたくないのだろう、ロナはそそくさとこの場から去っていった。
「同じギルドの人同士でも仲良くできないんですか?」
「別に、私は邪険にしてるわけじゃないのだけど………」
少しだけ、ほんの少しだけ、リューナさんの顔が曇ったように見えた。眉をとんがらせて、俺の方を睨んでくる。
「いやぁあれは流石に人突き放す視線でしたよ?」
「別に、そんなの私が決めることでしょう?」
「いやいや、受け取り側が決めることですよ、そういうのは」
「うるさいわね」
でも彼女もこれではだめだって思ってるのか、居心地が悪そうにもじもじしている。
あ、そうだいいこと思いついた。
「………提案なんですけどあんたが人と話せるように俺が協力するんで、あなたは俺に魔法ってやつを教えてくれないですか?」
こうすれば主人公と出会う前に彼女のコミュ障も治せるし、俺も自衛の手段を手に入れることができる。
するとリューナは口をとんがらせて、明らかに不機嫌そうに口を開ける。
「何を言ってるの?そもそも魔法はとても高位な技術よ、たった一か月で何を覚えられるというのよ、あなたみたいなでくの坊にそんなのできるわけないでしょ?」
「………そんなに言わなくても」
「それに私にそういうの必要ないから」
ふいっと顔をそむけて彼女もまた部屋を出ていってしまった。空の牛乳瓶だけを俺の傍に置いたまま。
「………俺が片付けろということですか」
はぁとため息を吐いたあと、その逃がした運気をもう一度ため込むように焼き魚を口にする。
「あ、いただきます」
忘れていた掛け声を焼き魚を頬ばりながら口にする。これを言わないと落ち着かない気がするんだよねぇ。
………てかうま、何これほぼ日本にあった焼き魚と遜色ないぞ、この焼き魚の作り方を伝授した人は天才だな、完璧に再現されてるわ。
「ということはみそ汁も!」
ごくっと豪快に茶碗の中にあるみそ汁を流し込む。喉を通る生ぬるいみそ汁の感触が気持ちいい。これがいいんだよなみそ汁って。なんか体を包み込んでくれるような包容力があって。
「ごっつぁっんです」
手を合わせてきちんと礼をする、いやぁほんと食事がうまくて助かった。これさえあればなんか前向きに生きていける気がする。
………さて今後のことについて考えよう。
今後訪れるのは転生者を引き受けに来る冒険者協会たちによる強制送還だ。待遇は悪くないと言った、だが上の奴らの命令、主に貴族の奴らの命令には絶対に逆らえない。
そんでもってこの世界では転生者軍との戦争が横行しているし、転生者以外にも他の国から侵略されることもある。
そしてぇ?戦ってくれるような人材が欲しい今都合のいい命令通りに動いてくれる転生者という労働力がありますと。
それはつまり嫌々戦争に参加させられるということだ。それだけはごめんこうむりたい。せっかくこんな異世界に来たんだもうちょっと夢のあることをしたい。
そうすると強制送還されるであろう日にその場から逃げられるだけの実力はないとな。この世界には強くなる方法が二つある、一つはスキルという生まれながらの才能によるもの、そんでもう一つは魔法という神秘の技術だ。
この魔法は後天的に習得可能な技術だ、これから身に着けていくのは魔法がいい。
「だけど魔法を学ぶには魔導書がある図書館に行かないといけないんだよなぁ」
しかし図書館に行くとなればリューナと鉢合わせることになる。でもまぁ魔法を覚える方が先決だ。
「………気は進まないけど、図書館に行ってこの魔法のことについて知らないとな」
「もう二度と来ないで」と言われた手前、行ったら殺されそうだけど、まぁ彼女の読書の邪魔をしなきゃ何も言われないはず。
「っと、とりあえず食器片づけなきゃな」
皿を下地にして茶碗を重ねていく。そして締めといわんばかりに空の牛乳瓶を置いて、その食器の塊をキッチンらしきところまでもっていく。
「うーん洗った方がいいのか、でも勝手に物使ったら人によっては怒られたりするもんなぁ、やめとくか」
「そのような雑務は我々メイドが承ります」
するとキッチンの奥の方からクロステーブルを首にかけたような女性が一人そこに立っていた。
これが”メイド”さんか、昨日アーサーさんに必要なことがあればメイドに言えって言われたけどいえるわけないんだよなぁ、そんな豪胆な人間ならブラック企業なんてとっくのとうにやめている。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします?」
どこまでもよそよそしく、腰を低くするのが相手にお願いするときのコツだ。
「はい、完璧に仕事を遂行してみせます、この命を賭けてでも」
「いや、皿洗いにそんな意気込みで挑む人あんまいないっすよ」
「そうですか、ではなるべく意気込まないで、最低限頑張りますね」
「中間はないんすか」
「ふふっ、あなたは面白い人ですね、安心して下さい普通に仕事をしますよ」
メイドさんは口に指をあてていたずらっぽくくすっと笑う。
「私の名前はメイル、よろしくお願いします柊様」
服の裾をつまみ、上品に礼をした。その動作はあまりに綺麗でつい見とれてしまった。
「あ、あぁよろしくメイルさん」
「まぁ、”さん”だなんて、メイルで大丈夫ですよ」
「じゃあよろしくねメイル」
それだけを言い残して俺はキッチンを去った。
中々しゃべりやすい人だったな、ここで出会った人達の中で断トツかもしれん。
じゃあお言葉に甘えて、図書館に行くとしますか。
そう思い立ち、俺は昨日リューナに二度と来ないでと言われていたのにも関わらず図書館に足を運んだ。
「さて………」
そびえ立つ木製の扉が昨日より高くなっているように見えた。
「いざ尋常にっ!」
がちゃっとドアノブに手をかける。だが何度こねくり回してもドアノブはまるで反応せず、頑強な扉はその心を開いてはくれなかった。
「忘れてた」
状況は昨日とまったく同じだった。圧倒的な心理的壁の前に思わず膝をつきたい気分だ。そこまで俺のこと嫌いになってしまったのか。
「どうした?」
「アーサーさん」
廊下の奥からやってきたのは昨日とは違う甲冑を身にまとっていて、とても長い赤い髪は甲冑を避けるように垂れ下がっている。黒スーツじゃなくても似合うんだな、やっぱ美人が着ればなんでもよく見えるということなのだろうか。
「いやなんか図書館が開かなくて」
「ふむ………」
そして俺の隣に来て、同じようにドアノブを何度もひねる。だが結果は同じでまるでドアは開こうとしてくれない。
「あーなるほど、はぁ、リューナのやつ子供じみたことしやがって」
小さくため息を吐いた後額に手を当てた。
「これって魔法によるものですよね、解く方法あるんです?」
「リューナは高位の魔法使いだからな、解くのは難しいだろう、ていうかよくわかったな魔法だと」
「それは勘ってやつです、それよりどうやっても無理なんですかねこの扉を開けるのは」
「まぁ魔法を解くのが難しいってだけでドアが開けないってことはないよ」
「え、そっれてどういう」
”ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!”
意味、と続く言葉を俺が言う前に鼓膜を破れるほどの破裂音が襲った。卒倒するような衝撃に俺は危うく意識を失いかけたが、すんでのところで左足を支えにして持ちこたえる。
「これで中に入ることができるぞ」
遠くに聞こえるアーサーさんの声を聞いてふらつく足を動かす。やばこのままじゃ倒れる。
近くにあるはずだった扉に寄りかかろうとしたとき、そこにあったものはもうなかった。
「何をしてるんだ、そこに扉はもうないぞ」
「………………」
この人やりやがった、ここあなたの家なんですよね、そんな乱雑に家を壊しちゃっていいんですか?
「おいリューナ、扉に魔法を使うな、彼が入ってこれないだろう」
「まったく、なんであなたはもっと優しい対応することができないのかしら」
明らかに不機嫌そうに眉をひそめている女神。
「それを私に求めるのはお角違いというやつだろう」
「脳まで筋肉に犯されたのかしら、牛乳を摂取することを進めるわ」
「あんな高価なものそうそう口にできるわけがないだろ、うちに置いてあるのだって数少ないんだから」
「………………」
するとリューナは口を滑らせたと口に手を当てた。それは誰がどう見ても彼女自身が牛乳を飲んだ証拠であり、現に俺はその現場を見ている。
「おまっ、まさか飲んじゃったのかぁ?また」
「仕方ないじゃない、地球制の牛乳はおいしいのだから」
「前もそうやって飲んでたろ!お前がたくさん飲むせいで下のやつらが手をつけられなくなってるんだぞ!」
「あら好都合」
「………………えー」
あまりにもあっさりとした最低な言動にアーサーさんは言葉を失った。いや、横暴だろこれもう。
「ねぇ、そんなことよりなぜその人をここに入れようとしたの?扉を蹴り破ってまで」
「………それは、まぁ人情というやつだろうな」
「……甘いわね、そんなんでよく団長が務まるものだわ」
「いやはや、こればっかりは何も言い返せないな、まぁそれはそれとして牛乳の件は後でじっくりと話させてもらうとしよう」
「そんな酷なことってあるのかしら」
「お前はもっと酷なことをしてるんだ、きっちり反省してもらうぞ」
むんつけたように口をとんがらせたリューナは今一度本に視線を戻す。その背中はどこか丸まっている気がした。
「じゃあ好きに調べものをするといい」
「あ、はい」
俺の肩にポンと手を置いてからアーサーさんは俺に微笑みかけてくれた。うん、超ホワイト企業の上司にしか見えない。俺の職場にいた上司なんて部下が困っているところを見て見ぬふりするようなやつらばっかりだったからなぁ。
「じゃあ私は少し出かけるとしよう」
………出かける、言葉として濁してはいるがその身なりから並々ならないことは予想できる。多分モンスター退治とかかな?冒険者協会っていうのがあるくらいだし、依頼とか出されたんだろうか。
アーサーさんは颯爽とその場から立ち去った。
だがその去り際の顔はとても息苦しそうに見えた。
「ねぇ、あなたに一つ頼み事をしたいのだけど」
立ち呆けていた俺に話しかけてきたのは当然女神………だったのだがそう思えなくなってきている。もう既にこいつめんどくさいな、という感情にシフトし始めている。
やはりゲームのキャラクターはゲームであるからこその良さがあることがわかった。最強の魔法使いとて別に話しやすいわけではないということだ。まぁそれはゲームでもわかってたけど、対面すると感じ方が違う。
「え、いやだけど」
もう敬語を使わなくてもいいや。
「あらそう、なら別にいいわあなたが魔法を覚えなくてもいいっていうなら」
「………ほんとに魔法を教えてくれるのかよぉ」
「私は嘘をつかないわ、神サトルに誓って」
「誰だよサトルって」
「さぁ?」
「適当言いやがって」
「まぁということでドアの修復は頼んだわ、1週間後までに修復できてなかったら処刑だから」
「…………極悪人じゃん」
「何?今殺されたいの?」
「それはごめんだ、頼まれた通りドアは直しておくさ、血反吐が出るくらい頑張ってな」
「そうあなたが快く引き受けてくれてうれしいわ、それじゃ私は部屋にこもるから」
ぱたんっと展開されていた本を閉じて彼女は立ち上がる、その流れのまま
「あんたは手伝わないんだな」
行動には示さない言論による精一杯の抵抗をして見せる。
「………じゃあ仕方ないから情けないあなたにこれを貸してあげる」
彼女が渋々ポケットから取り出したのはペットボトルの先っぽにシャーペンがついているような形をしたものだった。
「それは?」
「超瞬間接着剤、これを破片に塗ると瞬時にくっつき傷跡すら綺麗さっぱり元通りよ」
まるでどこかの通販番組のような見事な商品紹介をしてくれた、表情筋はまるで動いていなかったが。
「なるほど、それを使えば効率よく扉を修復できるってことか、んじゃあそれを早く貸してくれ」
「………」
下投げで空中に投げ出されたその瞬間接着剤はものの見事に俺の手元にフィットした。
「じゃあ頑張って」
流し目で俺を睨みつけた後彼女はこの場を去っていった。
「はぁ、そんなのやってられるかよ」
瞬間接着剤を机の上に置いて仕切りなおす。
「さて、資料集め、資料集めっとちゃんと魔法使えるようになんないとな」
瞬間接着剤から目を離して立ち並ぶ本棚に向けて一歩を踏み出す。
何かが心に根を張った。
二歩目を踏み出す。
その根が足にまとわりつく。
三歩目を踏み出したときにはもう振り返っていた。
「くっ、頼まれごとってのはなんでこうも投げ出すことができないもんかね」
俺は自分の口で一度でも決めたことは最後までやり遂げないといけない性格なのを思い出した。
「はぁ難儀だ」
ぺた、ぺた、と無限に等しい瓦礫に瞬間接着剤をつけていった。
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