第一話-3

「その制約とやらが問題なんじゃないのか」


 直前まで全く別のことを考えていたにしては、まあ機敏に切り返せた方だろう、と細川は自己評価した。制約が

一つだけ、と言われるより、複数あると言われた方が、現実的であり信ぴょう性はある。だが、風船魔人どもがその心理を逆手にとった上で細川を騙そうとしている可能性も、ないではない。


 結局、なんだかよく分からないものに選ばれて唐突に召喚された以上、細川としては、懐疑的にならざるを得ないのである。警戒して損をすることにはならないだろう。


「一応聞かせてもらおうか、その制約というやつを」


 鷹揚おうように頷いて、風船魔人が言うところによると、内容は以下のようなものであった。


 一つ、魔力を使用する際は、必ず大天使の傍でなくてはならない。ただし、魔力以外の力を使用する際は、この限りではない。


 一つ、魔力使用者は、魔力を自分の欲に使わなければならない。ただし、他の制約に抵触してはならない。また、大天使は空中浮遊と空間転移以外の魔術については、魔力使用者の指示を必要とする。


 一つ、魔力使用者は死亡し引き継ぐことで全体数を五人に合わせるため、魔術に触れたことのない第三者に魔力を与える行為は禁じる。


 一つ、魔力の使用において、生命の創造や操作は禁じる。


 ……大部分を細川は聞き流していたが、要点は捉えておいた。面倒くさそうな制約が付いたものだ。使わないという選択肢は禁じられていないので、しばらくは触れずに過ごしたいところだ。


「というか、大天使だと? 魔王の配下がか」


 どちらかというと魔族という呼称の方が適しているような気がするが、詮索しても始まらない。面倒なので、細川は追及を投げ出すことにした。


「一つ、確かめておく。魔力を自分の欲に使えと言っていたが、それはどの程度の話をしている?」


「他の制約に抵触しない範囲で、だ。その気があるのなら、世界を手中に収めても構わぬ」


「誰がそこまでするといったか。第一、あんなものを手に入れたところでどうするというのだ。憂さ晴らしに消し飛ばせばいいのか」


「それこそ好きにするがよい。お前を含め、五人の魔力使用者のいる世界を滅ぼすことが、何を意味するのかも分からんのならな」


 さすがにそこまでするつもりはないが、世界征服でも問題ないらしい。挑発するような風船魔人の発言に肩を竦め、細川は話を終わらせる。


「さあ元居た場所へ戻るがいい。大天使ラザムをお前とともに送る。後はラザムを頼ればいいだろう」


 そうして細川は自宅に帰されたのだが、先刻のやり取りが現実であったことは、ラザムがいることで確信した。どこまでも、尊大な風船魔人の顔が鼻に付いた。

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