第30話 双子の帰還

《百六十一日目》



「ここが領都かぁ。」

 あたしは遠くに近付くにつれて圧倒されるように見えるようになった、ミルス領都の高い壁を眺めながら言った。

 サンクトレイル王都も壁に囲まれた都市だったが、ミルス領都は比べ物にならない位の高く頑丈そうな城壁に囲まれた、まさに要塞都市と言っても過言ではないような街だった。

「ようこそ! ミルス領都へ!」

 クレスがワザとらしく宣う。

「おにいちゃん。そういうのは後でいいから。無難に入ることを考えよ?」

 と、クレアが言うのも、まだ城門まで距離があるにも関わらず、重々しい雰囲気が伝わってくるからである。

 城門前には何人もの兵士たちが警戒している。城門上にも見張りの兵士が目を光らせていて、とっくにこちらは発見されているだろう。

 ほどなくして城門脇にある小門が開き、三騎の馬がこちらに向かって来た。

「やあ! 待たれい! この非常時にお客人か?」

 先頭の馬に騎乗した年配の鎧騎士が遠くから誰何した。

 これは・・・ いつものパターンだね。

「あっ! キースエンじゃないか! 出迎えご苦労!」

 クレスがノアールの上から兵士に声をかけた。どうやらこのワンパターンを自覚しているようだ。

「クレス様? それにクレア様まで。どういうことでしょうか?」

「話はあとだ! すぐにでも父上に目通りしたい。話は途中でシンジエンに訊いた。こちらはぼくたちをサンクトレイルから送り届けてくれた冒険者のシンさんとマシロさん。こちらは領都守護隊の隊長を務めてますキースエンです。」

 後半はあたしたちへの紹介だ。この一言であたしたちは不審者ではなくなる。考えてみれば不思議だ。

 キースエンは凄く何か訊きたそうだったが、クレスたちがすぐにでも父親に面会したい気持ちもよく分かるようだ。何も訊かずに城門に誘導し中に入った。城門を守護する兵たちからも物凄く注目と興味を浴びていたが、よく訓練が行き届いているようで、静かに目礼をする程度で通過できた。

「御館までわしが同行しましょう。先導しますのでついて来て下さい。」

 キースエンがそう言って先導してくれる。ちらちらとあたしたちの方を探るような視線を感じるが。そりゃ、このような厳戒態勢の中で子供二人を連れ帰ったとなれば、興味をひかない訳にはいかないでしょうね。

 そんな雰囲気の中、シンが感想を述べた。

「街の中は随分と人が多いんだな。王都よりも多いくらいだ。」

 街の中は人々が割と忙しなく行き交っている。時々こちらに気付いた人たちが何やら話をしているが、騒ぎになるほどじゃないみたいだ。

 シンから話してくれたので、キースエンも喰いついた。

「そうですな。今は非常時なので近隣の町からもかなりの人々が避難してきております。ざっと平時の二倍はいるでしょう。」

 あたしからも訊いてみた。

「それだけの人数を抱えていて、食料などは大丈夫なのですか?」

「ええ。潤沢とは言えないですが、ここミルスではこの事態は想定内でしてな。常に食料などの備蓄体制は整っております。まあ、それも限界はありますが。普段この通りでは出店などが沢山出て賑やかなものですよ。今はそれどころじゃないですが。ましてやドムトリニアのやつらがこのタイミングで仕掛けてくるとか。確かに食料面は心配ですな。」

 そうキースエンは答えてくれた。そしてこれにクレスが口を挟もうとした。

「あ。そのドムトリニアの件だが・・・ いや。何でもない。」

(あ~。思わず口を挟んだものの、説明するのが面倒になったのね。)

 あたしがチラッとクレスを見ると、目が合った。にっこり笑いかけると照れくさそうに頬を掻く。どうせ後ほど分かることだ。それに緊急性はない。

「父上の容態だが、怪我をされたと聞いた。シンジエンからは快方に向かっているとも。実際はどうなんだ?」

 クレスは咄嗟に話題を変えた。クレアもそちらは心配らしい。身を乗り出して聞き耳を立てている。

「はい。領主様は魔物の掃討作戦で深手を負われ、一時は命の危険さえあったと聞き及んでおります。その後、術師たちの懸命な努力で持ち直され、一時期意識が戻られたと聞き及んでますが、いまだ床にお伏せになった状態だと。」

「そ、そうなのか? シンジエンの様子ではもう少し良い状況なのかと思ったのだが。」

「それに関しては情報の伝わり方でしょう。同じ状態でも快方に向かっているという情報であれば士気も上がりましょうし。わしの方に来た情報が違う可能性もある。ですが、すぐに領主様には会えるでしょう。ご自分の目で確かめては?」

 キースエンはそう言うと、目の前に現れた領主館を見上げた。


        ♢ ♢ ♢


「たたた、大変でございます! クレス様とクレア様がお戻りになられましたっ!」

 館の門前で門衛とやり取りがあったあと、その門衛が脱兎の如く駆けて広い庭を横切り、館の扉を無作法に開けて報告した。

 そこからは館中、上や下への大騒ぎである。クレスとクレアはどこかに連れ去られ、あたしたちは広い居間に通され、お茶とお菓子が供されたままで放置された。

「やっぱ、クレスくんとクレアちゃんて、凄い良いところの子供だったんだねぇ。」

 あたしがお菓子を摘まみながら分かり切った感想を言うと、シンは隣で優雅にお茶を飲みながら言った。

「そうだな。領主の子息令嬢なんて、ピンキリだろうがここは大領主のようだね。察していたはいたが。それにしても大体貴族社会は訪問という行為全般に、前触れがあって然るべきだからな。この混乱ぶりは急な訪問に対する適応力は無いせいだろう。」

 あたしが暇だと思ったのか、シンの答えは状況の説明みたくなった。。

(なんで、シンがそんなこと知ってんだろ?)

「シン? 領主様の怪我ってどのくらいなんだろうね。命に別状はないみたいだけれど。」

「まあ。俺とマシロであれば、命に別状がなければどんな怪我でも治せる気がする。」

 シンはそう自信をのぞかせて言うと、あたしを見つめた。

(くっ! このイケメンめ・・・)

 あたしはドキドキしながら、シンを見つめ返していると、ドアが開いてメイドさんが入って来ようとし、一瞬動きを止めた。

 そのまま一礼をして去ろうとするメイド。

「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 あたしはメイドさんを大声で呼び止めた。

「失礼いたしました。お召替えをお持ちいたしました。お着換えの前に湯殿をご用意いたしましたので、旅のお疲れを癒してくださいませ。」

 再び部屋に入って来たメイドさんは、男物の部屋着を二着を持ってきた。

(まあ、そうでしょうね。さっきのこのメイドさんの反応からして、ここで変な誤解を生む前に、元に戻ろう。)

 あたしは男装を解いて女装する決意をした。あたしが女装というのは変な表現だが。と、その前に。

「ちょっと確認なんだけど、湯殿って広いやつ?」

「はい。当館の湯殿は十人くらい余裕で入れますのでごゆっくりお寛ぎ下さい。」

 やっぱり、懸念したことが当たった。危ない。

 訊くと、このメイドさん、クレスの指示で領主面会用の服の調達を頼まれたらしい。流石に領主様の御前に今の埃っぽい格好は許されないらしい。一応〝清浄〟は掛けてあるんだけど? 旅装を洗濯する間、一番体に合う服を身繕うとのこと。旅の汚れも落とすように言付かっているらしい。

 あたしはそのクール系メイドさんに近付き耳打ちした。勿論あたしの正体をバラし、女性用の服を身繕ってもらうためだ。

 その内容を訊いてメイドさんは顔を真っ赤にして慌てふためいた。

「こ、これは! 大変失礼いたしましたっ! すっすぐにご用意いたします。部屋もそこの続き部屋をお使いください! お風呂も! お風呂は・・ ああ、どうしましょう!」

 クールビューティの慌てる様を見るのは、なかなか楽しい。それでも部屋の配慮を忘れないとは。できるメイドさんだ。お風呂は結局順番にしてもらった。

「マシロのその女性に対する扱いってどこで身に着けたんだい? 男の俺でも一生身に着く気がしないんだが?」

 振り返るとシンが呆れたように手を広げていた。

「へ? 何のこと? 服のことでお願いしただけじゃん。」

「あの娘、マシロが耳打ちした時点で真っ赤だったぞ? で、女装するのかい? あ、マシロに女装って変な話だな。」

「あはは! あたしと同じこと考えてる。けど、これはシンの為でもあるんだよ? 男色の噂なんか流されたくないでしょ?」

「うん? マシロはマシロじゃないか。男装でも女装でも俺の女神さまだよ。」

 また、そんな恥ずかしいことを言う。あたしは頬に血の気が上るのを感じた。

「そうじゃなく! と、とにかく! 暫くは〝ユーリ〟で行くわ。」

「ああ。それは素敵だな!」


        ♢ ♢ ♢


 それはそうと! 遂に発現しました! 〝虚像〟。クレスと同じスキルだ。けれどもクレスがこのスキルを得たことがとても嬉しそうだったので、あたしはバレるまで黙っていることにした。

 あたし的には自分の見た目を自由に変えられることが嬉しい。例えば髪の長さや色を自由にできるだけで変装の煩わしさから解放されるというもの。

 けど、あたしが男装してるときに男にしか見えなくなるって現象、何となく〝虚像〟に似てるんだよなぁ。しかもパッシブ! 今度女神さまに問いただそう。

 クールメイドさんが持ってきた服は、結構あたし好みの淡い草色を基調とした飾り気がないスリムなドレスだった。あたしはできるメイドの評価を一段階あげた。

 お風呂上がりのあたしは取り敢えず男物の部屋着を着ていたが、メイドさんがそのまま着替えを手伝おうとした。恐らくヘアメイクや化粧なんかもやるつもりだろう。あたしはそんな扱いに免疫が全くなかったので、自分でやることを主張した。

 しかし、相手はできるメイド。なかなか引かない。仕方ないのでまだ男装姿のあたしは必殺技を繰り出す。

「子猫ちゃん。そんなにボクの着替え姿を見たいのかい?」

 あごクイ付きのおまけだ。流石のクールメイドさんも顔を真っ赤にして退散していった。

 まあ。魔法による髪のアレンジとか見られたくなかったしね。

 ドレスがスリムだから、髪はボリューム出していいかな?

 なんだか久しぶりに落ち着いてするオシャレにテンションが上がってしまった。

「おーい、マシロ? いや今はユーリか。準備はできたか?」

 ドアのノックとシンの声。

「うん。丁度終わったところ。入っていいよ?」

 ガチャリとドアが開いて、シンが入って来た。

 ドアの方に移動しかけていたあたしはシンの姿を見て固まってしまった。

 シンも後手にドアノブを掴んだまま固まっている。お見合い状態だ。

 シンのちゃんとした格好を見るのは初めてだ。お見舞いだから派手さはないものの、その素敵さに思わず見惚れてしまう。

「はぁ! 今日は一段と美しいな。女神アウラティアもびっくりだ!」

 その賞賛の声に意識を引き戻された。

「シン! 何言ってんの? 女神さまに聞かれたらどうするの! って、シンは女神さまの姿を知ってるの?」

 あたしは慌てて口を滑らせたがシンは気にしてない様子。

「いや。例えだよ。街中に綺麗な彫像もあるしね。」

 なんだ。びっくりした。一瞬シンが女神さまと面識あるのかと思っちゃった。

 すると、突然シンがあたしの目の前で片膝ついて、あたしの手を取り、その甲に口づける仕草をした。

「レディーにはこうするって習った。」

 あまりのことにあたしは再び固まる。すると、半開きになったドアの前で物を落とす音が聞こえた。

 見ると、あのクールメイドさんが顔を真っ赤にして、潤んだ目で口を両手で押さえたまま固まっている。

「あ、ありがとうございましたっ! 眼福・・・ じゃなく、失礼いたしましたっ! お迎えに伺いました。」

 メイドさんが両手をわたわたとさせている。はじめのクールな印象はどこへやら。

 シンとあたしはお互いに顔を見合わせ笑ってしまった。どこか緊張していたのだろう。何だかほっとした感じだ。


        ♢ ♢ ♢


 今更ながらクール顔を装ったメイドさんに案内され、とあるドアの前、クレスとクレアが待っていた。

 二人にはあたしたちのきちんとした姿を見て、褒めちぎってもらった。

「あなたたちも素敵よ?」

 二人ともきちんとした格好をすると公子、公女然とした雰囲気が増す。

「ありがとうございます。けれど残念ながら父上はここ三日ほど目を覚まさないらしく、この姿も見て頂けないかと。」

 クレスが少し項垂れた様子で言った。

「とにかく、拝謁賜ろう。どのようなご様子か伺いたい。」

 シンが言うと、クレスが頷き、扉を開くよう側に立つ護衛士に指示した。

 中に入ると広い寝室に、天蓋付きの大きなベッド、家宰と思しき男性と何人かのメイドさんが控えており、治癒師と思しき年配の男性がベッドの上の領主、サレドを見守っていた。

 先に先導するように部屋に入ったクレスとクレアは家宰に視線を送ると静かに頷かれたので、ベッドに駆けつけ父親の様子を伺った。

 余程心配だったのだろう。静かに呼吸をしている父親の顔色を見、一先ず安心な様子だったので、クレアは思わず涙を零し、クレスは安堵の顔を見せていた。ここで大騒ぎをしないところが二人の成長ぶりを垣間見る様だ。何となく家宰も驚いた表情を見せている。

 少し落ち着いたところで、あたしたちは改めてクレスから紹介された。

部屋の中の皆とは初対面だ。

 はじめに家宰らしい男が口を開いた。

「当家の家宰を務めております、フライセスと申します。クレス様、クレア様を連れ帰って頂いたことに主に代わって深く御礼申し上げます。お二人はお医者様?と薬師様と言うことですので、主様を是非とも診て頂きたくお願いいたします。アルマン様ご説明願えますかな?」

 するとベッドの側に控えていた治癒師が近づいて来た。結構大柄な男だ。戦士と言っても通じるような。

「ミルスの専属治癒師を務めているアルマンだ。医者、ということは治癒師ではないんだね? すまないが医者というジョブに馴染みが無くってな。治癒師とどう違うのかね?」

 治癒師の男がシンに挨拶の握手を求めてくる。シンより頭一つ大きい。

 シンは握手を返しながらも首を傾げた。

「え? 医者は馴染みが無いのか? これまでの町でも医者で通してきたが、そんな指摘は無かったぞ? なあ、ユーリ。」

 あたしに振られたので黙って頷いたが、視線をクレスに遣った。

 クレスがその意図を読み取って説明してくれた。

「ああ、それはぼくも思いました。初めはサンクトレイル独自の職業かと思ってたんですけれど、シンさんの仕事ぶりを見て治癒師とは違うとハッキリと言えます。医者は魔法を使わないのが特徴ですね。そこが大きな違いかな?」

 それを聞きながらアルマンはあたしにも握手を求めてくる。ニカっと笑う顔は凡そ医療従事者とは思えない。それにしてもデカいなぁ。

「それでどうやって病人や怪我人を治すんだい? 魔法なしで?」

「それは俺が説明しよう。と言っても俺の独自解釈だが。俺の治療方法は人が元々持っている回復力や自然治癒能力をサポートするやり方だ。それには病の原因や、傷の元を特定し、自分で回復できる状態まで嵩上げするんだ。例えば傷を負った状態で放っておくといつまでも治らないが、予め傷を塞いでおくと治りが速いだろう? 風邪を引いたなら熱を下げる方法を指示するし、状態によって環境を整える工夫をする。それが医者の役割だ。」

 シンが説明すると納得いかないのか、アルマンが首を傾げる。

「なるほど。だが、治癒魔法を使った方が速いんじゃないのか?」

 あたしの手を握ったままアルマンが言う。そろそろ放してくれないかなぁ。

 そう思っているとさり気なくシンがアルマンを部屋にある椅子に誘導してくれた。あたしは握手から解放されてホッとした。

 シンがアルマンの向かいに座る。

「俺も治癒師の治療は何度か見たが、大体が回復か解毒の二択じゃないのか? 治らない病や傷も多かったろう。」

 シンの言葉にアルマンが顎を撫でる。

「確かにそうだが、治らなけりゃ更に強力な魔法をかける。これの繰り返しだな。つまり何かい? 治らない時の原因特定が得意ってことかい?」

 それに対し、シンは頷いた。

「まあ、医者としての治療法はそれが肝だからな。」

 それを聞いたアルマンが身を乗り出してくる。

「あい分かった。実は相談がある。ご領主様なんだが、ここ三日ほど目覚めない。できる限りのことはやって、状態も安定してきたんだが。相変わらず熱は下がらないし、このままでは衰弱する一方でな。原因が分からないのは皆も不安だ。一つ診てはくれないか。」

 専属治癒師と言うから優秀なんだろうが、変に偉ぶってないし、見た目に反して謙虚だ。

 シンもその態度に好感を持ったようだ。

「了解した。俺は医者だがこのユーリは優秀な薬師だ。治癒を加速することができる。言うなれば二人合わせて強力な治癒師の様なことができるってことさ。」

 急にあたしの方に話が振られたので、びっくりしてあたしは思わず頷いた。


        ♢ ♢ ♢


 先程のアルマンとのやり取りは部屋の皆を納得させる手間を省かせることに役立ったようだ。

 家宰が率先してシンとあたしをサレドの元に案内し、診療の態勢を整えてくれた。そしてアルマン以外には退出を願った。

 シンは先ず、サレドの傷の具合を診た。傷は塞がっているが肩口から反対の脇腹まで大きな傷が見られた。脈を診ると弱々しい。明らかに衰弱しているようだ。

「傷は化膿も抑えられているし問題なさそうだ。解毒も済んでいるようだし。この状態で目が覚めないということは何かと戦っているんだろうな。ならばユーリ。栄養剤とアレを。」

 あたしはいつも通り、あたしの作った生成水を綿に染み込ませてサレドの口元から流し込んだ。浄化魔法と一緒に。

 恐らくは高濃度の魔素に侵されているのだろう。横紋斑病の穢れと似たものだと思う。

 暫くすると、サレドに反応があった。僅かだが表情を動かしたのだ。

「おっ! 主様に反応が!」

 アルマンが身を乗り出す。

「多分、高濃度の魔獣の魔素が体内に残っていたんだろう。人の体内にある魔素と質が違うために抵抗しているのだと思う。これは解毒魔法じゃ効かないから、この栄養剤をユーリがやった様に定期的に流し込んでくれ。徐々に回復してくると思う。」

 シンが言うとアルマンが訊いて来た。

「解毒魔法が効かないか・・・ だが、この栄養剤とは?」

「ユーリの作った薬だよ。異質な魔素を中和する働きと、弱った体に栄養を補給する働きがある。ここに来るまでに横紋斑病の患者を回復させてきた実績がある。」

 それを聞いてアルマンは驚いた。

「横紋斑病をか! それは画期的だぞ! 横紋斑病はここミルスの風土病みたいなものだからな。すまん。暫く滞在して確認してもらって良いか? 疑うつもりは無いんだが、力をもう少し借りたい。」

「元よりそのつもりだ。ミルスを正常に戻さないといけないしな。」

 アルマンはシンの言葉が今一理解できてなかった様だが礼を言った。

「ありがとう。恩に着る。」

 それから、あたしは栄養剤を数本、アルマンに預け部屋を出た。

 ドアの外ではクレスとクレアをはじめ、家宰とメイドたちも心配そうな顔で待機していた。

「いつもの通りよ? 問題ない。」

 あたしが双子に向かって囁くと、二人は安心したように笑った。

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