第16話 パーティ!
《百八日目》
救護施設の人たちも、孤児院の子供たちもほぼ回復した様だ。
アラレイドルの経験からいくと、すごく回復が速い。どうやらシンとあたしのスキルが強化されているからみたい。
今日も往診に救護施設に行ったが、予後観察と栄養剤を配るだけで終わってしまった。
そろそろ旅立ってもいいだろう。その旨は組合長レドに伝えた。
非常に残念そうにしていたが、あたしたちの使命として理解しているようで、何度も何度も感謝の言葉を浴びせられた。相変わらずのテンションだ。
そんなタイミングで、シンディから招待を受けた。子供たちの快癒祝いとそのお礼だそうだ。孤児院でお食事会に誘われたのだった。
お別れを言わなくちゃと思っていたので、みんなでお邪魔することにした。
勿論手ぶらでは行かない。宿の調理場を借りて子供の好きそうなアラカルトを作り、手土産にした。調理はクレアが手伝ってくれた。料理に興味津々なクレアは、なかなか貪欲に知識を吸収している。
「いらっしゃ~い。待ってたわ!」
孤児院に着くと子供たちが纏わりついてるエプロン姿のシンディが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。せんせー、おねえちゃん!」
まだ数日の往診をしただけだが、子供たちとはすっかり仲良しになった。シンディとのフランクな付き合いを見て安心したのだろう。
孤児院に初めて訪れる、クレスとクレアを紹介した。二人は孤児院の子供たちの中に混じると年長側に入るが、初めての環境に少し緊張しているようだ。
「きれー。おうじさまとおひめさまみたい~。」
少し小さい子がクレスたちを見て言った。まあ。確かに、そんなオーラはあるよね。この兄妹は。
「いえいえ。私達はそんなたいそうな者ではありません。」
幼女に対して真面目に答えるクレスを見てあたしは少し噴き出した。
「ぷふふ。今日はお招きありがとうね。ほら! 少し料理も用意してきたんだよ? みんな一緒に食べようね。」
「わ~い!」
子供たちはすっかり元気だ。一昨昨日はあんなに衰弱していたとは思えない。シンディが一番心配していた子も普通な様子だ。
そんな子供たちのはしゃぎっぷりを慈愛の眼で眺めながら、シンディは言った。
「さあさ。奥に入って。みんなが手伝ってくれたから、ちょっとしたパーティよ。」
先日まで病室だった部屋が食堂に替えられて、テーブルに料理が並んでいた。幾つもの大皿に盛りつけられた料理は、各々が取り分けて食べるスタイルだ。それにあたしたちが作って来たアラカルトが加わる。
子供たちは見慣れないご馳走に大興奮だ。因みにあたしが作ったのは所謂ピクニック弁当なので手が込んでいる訳では無いのだが、どこの世界でも子供受けする料理は一緒なんだなあ~と思う。
ボア肉ハンバーグ、クック鳥の卵焼き、ソーセージ風肉の腸詰、シウマイみたいなの、合わせ肉団子、揚げポテト、・・エトセトラ。
あまりに受けがいいので、シンディにレシピをせがまれ、取り敢えずクレアに頼んでメモを渡してもらった。メモ魔のクレアに感謝。
楽しい食事会が過ぎると、元気になった子供たちは寝込んでいた時間を取り戻そうとするかのように、同世代のクレアとクレスに絡んで行った。
精神年齢高めの兄妹は、最初は戸惑っていたものの、次第に輪の中に入って一緒に遊んでいた。
クレアはその見た目からか、幼女たちに絡まれていたが、幼女たちは遊びから次第にクレア自身に興味を移していった。
「くれあちゃんって、おひめさまみたいね~。きれい~。」
「このおようふくもすてき。それにいいにおい~。」
何気に色々と触られたり、抱きしめられたりしている。
確かにクレアは身なりは良いし、綺麗なストレートの銀髪の立ち姿は、どこぞのお姫様と言っても過言ではない。いや。事実辺境お姫様だった。ふと、クレアがあたしに助けを求めるような感じで目が合った。
「ふふ。お姫様と言えば、ここに逸材がいるじゃない!」
「いつざい?」
「とってもお姫様が似合う人ってこと!」
あたしは、側にいたシンディの肩を捕まえて言った。
「な、何を言ってるんだい? いや。え?」
「さあ! みんな。院長先生の綺麗な姿を見てみたくない? 見たかったらあたしが変身させてあげる!」
「え~? せんせいがきれいになるわけないじゃん。」
「わたし見たい! 先生きれいだもん。おひめさま似合うと思う。」
男の子は、日頃の口やかましいシンディのイメージから想像できないみたいだが、女の子はさすがに良く見ている。
「よ~し! あたしに任せて! シンディ。こっち来て? 部屋借りるね。」
「ちょっ! 何事? わけわかんないんだけど!」
「ふふ。これをやると子供たちが益々元気になるよ? あたしに任せなさい。」
子供の為とか言われたら、シンディは強く抵抗できなくなるのは思った通り。あたしは隣の部屋にシンディを連れ込んだ。
♢ ♢ ♢
先ずは〝収納〟内のあたしの衣装ストックからパーティ用ドレスを取り出す。赤髪に合う赤を基調としたものだ。
〝収納〟は〝保管〟とは別みたいで選択できる様だ。そういえば、他にも上位スキルを獲得しても、下位スキルはそのまま保有していて消えることはない。
「念のために用意していたものだけど、これあげるね? まだ袖を通してないよ? 今のところ着る機会も無いしね。シンディとはサイズはあまり変わらない感じだから、少しサイズを直すくらいでいいんじゃないかと思うの。」
「いやいや! こんなのあたいに似合うワケないって! それにこんな綺麗なの貰えないよぉ。」
言葉とは裏腹に、シンディはドレスから目を離せないでいる。思った通り、綺麗な物が好きな様だ。シンディには綺麗な格好をさせてみたいと前から思って機会をうかがってたんだ。それが今だ。あたしのテンションが上がる。
「ふふっ。任せなさい。こう見えて、あたしの前職はドレスアップアーティストでもあったのよ!」
「どれすあ・・? なに?」
この世界にない概念の言葉はそのまま発音されるみたい。ましてや今作った造語だし。
戸惑うシンディを前に、先ずは〝清浄〟の魔法で気持ちよくなってもらう。ばっさばっさの髪の毛も、綺麗に汚れを落とし、〝生水〟で生み出した水を霧状に付与し、丁寧にブラッシングすれば、うるおい豊かなストレート髪になった。赤い髪は光沢が出て見違えるようだ。
この世界の女性はほぼロングだ。シンディも例に漏れず、普段は腰まである髪をポニーテールしているが、髪をおろして自然に後ろに流すとそれだけでも印象が変わる。
「ちょっとカットしていいかな?」
あたしは気持ちよくボーっとしているシンディに訊いた。
「うん・・ どうにでもして・・」
あたしはハサミを取り出し、鼻歌交じりでササッとシンディのヘアスタイルを整えていく。〝愛歌〟効果で益々リラックスしているシンディを前に、再び全身に〝清浄〟。次いでメイクに移る。
(うふふ。やっぱり人に施す化粧とか楽しいなぁ。)
前の世界で培った技術が、ふとした機会で役に立つのは嬉しい。
シンディはあたしが見込んだ通り肌は綺麗だし、元が良いから少し手を加えただけですごく整った風貌に変わった。
(お~~。これは!)
予想通りではあったが、これほどとは。少し見惚れてしまった。
次はドレスだ。相変わらずボーっとしたシンディを立たせてドレスに着替えさせ、サイズ感を確認した。
思った通り、ほぼ同じサイズで少し腰回りを詰めればいいかな?
(待てよ? それって、シンディの方が細いってこと?)
あたしは地味にショックを受けながら、シンディにドレスを着せたままで、ササッと手直しした。
よし。完成だ。
「シンディ。とても綺麗よ? はい。これ靴ね。鏡出すから履いてて。」
あたしは赤い靴を出し、シンディに手渡した。まだ半分意識が飛んでるみたいだ。その間にシンから貰っ姿見を取り出す。シンディの前にドンと置きながらあたしは言った。
「どう? これがあたし流のお姫様というものよ!」
目の前に鏡を置かれ、自分の姿を映し出されたシンディは流石に正気に戻った様だ。
「え? 誰・・」
シンディは確認するようにドレスを触ったり、顔をぷにぷにしたり、髪を梳いてみたり。
「ええ~~? あたいなの? これ! ユーリ。どういう魔法よ!」
「正真正銘、シンディよ? ふふん。思った通りとても綺麗。さあ! 子供たちに披露しに行きましょ?」
あたしがシンディの手を引っ張ると、シンディは慌てて言った。
「ちょちょっ! 待って! 心の準備が。ちょっと恥ずかしいというか! いいの? 人前に出ていいの? これ。」
シンディは混乱しているようだ。
「何言ってるの? さあ。子供たちの度肝を抜いてやりましょう!」
♢ ♢ ♢
「さあ! お姫様できたよ!」
あたしはホールの扉をバーンと開けて言うと、子供たちがわ~いとこちらを注目した。
「いんちょうせんせーのおひめさま見たい~ はやく~」
(あれ?)
見ると隣にいたはずのシンディがいない。土壇場で奥に引っ込んだ様だ。どこが恥ずかしいんだろうか。
あたしは扉の陰にいたシンディの肩を捕まえ、壁に手を当ててて言った。所謂壁ドンだ。
「シンディ。君はとても魅力的だ。自信を持て。さっきの鏡の中の自分を思い出し給え。君が望むなら世界中の賞賛が得られるだろう。大丈夫。ボクが保証してあげるよ。」
久々に男役モードでシンディをけしかけた。あたしの経験では、緊張した女の子に対してはこれがすごく効果的で、一瞬で落ち着くのだ。何故だろう。
今のあたしの格好でどうかと思ったが、シンディは胸の前で手を組み合わせ、あたしを見返して来た。どうやら落ち着いた様だ。
「わかったわ。行きましょう。」
何故かあたしと腕を組む形で、シンディがホールに登場すると、それまで騒がしかった場が、シーンと静まり返った。
ふふん。みんなびっくりしただろう。
「改めて! シンディ姫の登場よ!」
あたしが言うと、子供たちのどよめきが起こり、次第に歓声へと繋がった。クレスとクレアも目を丸くしている。
「いんちょーせんせいすごいすごい! ほんもののおひめさまみたい!」
「とっても綺麗! いつもそんなにしてたらいいのに!」
「わたし知ってた! 先生がキレイなの。」
女の子にはとても好評で、男の子はと言えば、目を白黒させたり、顔を赤くして固まってたり。疑わしい目つきでじーっと見つめたり。
「あの院長先生が? え~? 本物?」
「あ~ だっこ!」
小さい男の子がシンディに近寄り、シンディにだっこのお願いをし、満面の笑みでシンディがそれに応えたとたん、大騒ぎになった。
「あ~ ずるい! わたしも~」
釣られて先程まで固まっていた男の子たちもシンディの周りに集まって来た。
「ふふっ。シンディ、人気者だね!」
あたしが言うと、シンディは顔を赤らめて言った。
「何もかもユーリのおかげ。こんな元気な子供たちの顔を見られるのが、とっても嬉しい。」
♢ ♢ ♢
楽しい時間が過ぎ、子供たちを寝かしつけた後、あたしたちは静かにお茶をしていた。
「今日はお招きありがとうね。とっても楽しかった。」
クレスとクレアも寛いで頷いている。
「わたしも同年代の子供たちと遊ぶというのは新鮮で。とても楽しかった、です。」
クレアが嬉しそうに言った。それを見てシンディが目を細める。
「クレス君、クレアちゃん、ありがとう。みんなも凄く楽しそうだった。こんなご時世に、増してや数日前まで絶望感でいっぱいだったとは思えないほど。本当に皆さんには感謝しても仕切れないくらい。」
あたしとシンは黙ってその感謝を頷いて受け取った。そして、シンが口を開いた。
「俺たちは、明日ここを立とうと思う。次の患者が待っているだろうからね。」
一瞬、シンディは固まり、呼吸を整えて言った。
「そうだね。みんなは旅の途中だもんね。理解はしてたけど、その時が来ると思うと寂しいもんだね。たった数日間だったけど、みんなとのことは一生忘れられない思い出だよ。」
シンディが寂しそうな顔で言うと、愁いを帯びた様子がその美女っぷりに拍車をかけ、クレアとクレスが目を丸くして固まっていた。
「もう、その姿で過ごしたら? 冒険者で稼がなくても、黙ってても支援者が現れると思うなぁ。」
あたしが茶化して言うと、シンディがあたしの手を握って返した。
「いや。あたいが目指すところはさっき決まったの。つまり、あなたよ? ユーリ。」
「へ? あたし?」
「そう! この格好でみんなの前に出るのが恥ずかしくって、その時あたいを励ましてくれたじゃない? あれ、カッコよかったなぁ。そう。あたいの理想。あれを目指すの。」
「え~ そうなんだ? まあ。あたしもカッコいいとか思ってやってるんで、褒められると嬉しいけど。」
「今度会った時は違うあたいを見せるよ。またこの街に寄ってね。」
「うん。必ず。」
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