第10話 スラアンバー編~別れと出会い

《百日目》

 

「ぜったいぜったいまた来てね!」

 フラウたちに見送られながら、もみの木の頂亭を後にした。

 いいというのに、母親のフランナもあたしたちを見送るために、病床から起きだして来た。そこまで回復してきたなら問題ないだろう。

 あたしたちは手を振りながら、新しい思い出ができたその宿を見えなくなるまで振り返り振り返り歩いた。

「またいつか来ような。」

 シンがあたしの心情を汲み取って言ってくれた。

「うん。」

 少し涙ぐんでたのだろうか。変な声になった。

 街の東門に至ると、大勢の人たちが集まっていた。

「我らの英雄様方のご出立だ!」

「ありがとう! 何度でも礼を言うぜ!」

 今日出立することは昨日伝えてある。それにしても盛大な見送りだ。昨日の打ち上げより多くの人が集まっている。

「これ持っていきな。何かと役に立つだろうよ。」

 組合長のセルが、白と黒の綺麗な馬を二頭連れて来た。

「え? ボクは馬は・・・」

 あたしが言いかけたところでシンが割って入った。

「ありがたく頂くよ。助かる。」

「こちらこそだ。食料と雑貨も積めるだけ積んである。また帰って来たら寄ってくれよ! 〝ブルーフォートレス〟よ!」

 〝ブルーフォートレス〟とは、打ち上げで盛り上がった冒険者たちによって勝手につけられた、あたしたちのパーティ名である。あたしたちの活躍の場面で、押し寄せる魔物を弾き、寄せ付けない様が輝いて見えたそうで、名の由来らしい。かなり恥ずかしい名前なんじゃないかと思ったら、皆、超絶カッコいいという。シンも特段思うところはないみたい。あたしが変なのかな?

 あたしたちは馬を引いて、賑やかな見送りを後に草原に出て行った。

 見えなくなるまで、皆はこちらに手を振ってくれていた。

 あたしたちは、荷物を片方の馬に寄せて、タンデムで馬に乗ることにした。

「シンって、馬に乗れるんだ。意外。」

「そうか? 俺の国では普通だったがね。マシロも馬に乗れるようにしないとな。俺が教えてやるぞ?」

「うん。面白そうだね。それで、どっちに行く?」

「それなんだが、隣街のカンタールスツでもいいんだが、俺としてはより被害が大きいとされる国境の街に急行したいな。」

 それを聞いて、あたしは驚かなかった。心のどこかでシンはそういう判断をすると思ってた。

「けど、今まで通りには行かないと思うよ? 移動だけでも半月はかかるでしょ? 魔物の数も病人の数も段違いだと思うし。」

「それなんだが・・ 俺はマシロがいてくれるだけでなんとかなると思ってるんだ。弱い魔物はマシロが近づくだけで逃げていくしな。ある程度強くてもマシロのプロテクションがあれば、殆どこちらに攻撃が届かない。」

「ちょっ! なによ人を化け物みたいに! シンだって大概じゃない。剣技の癖に凄い範囲攻撃! あれやってたら簡単にアラレイドルの街を守れてたんじゃない?」

「それはどうだろう。恐らく魔物の死骸やら後片付けが大変だったんじゃないかな。そうしてる内に感染症が拡がるリスクが高いし。何より、知られると俺たちの今後の行動に支障が出ると思うね。」

「それは分かってる。目立たないようにしなくちゃね。」

 組合で貰ったこの国の地図。ちょっと、略図っぽくて不安だが、これを覚えて地理理解に照らすと、なんと、地理理解の地図に地名が表示されるようになった。

 向かうのは隣国サンドレアとの国境の街パーラノア。連絡が途絶えて一月になるらしい。

「俺たちの力はまだそれほどでもないと思うが、できる限りのことはやっておきたい。」

 あたしはそれに頷いた。


        ♢ ♢ ♢


『ピロン! スキル〝乗馬〟を獲得しました。聖女クラス30になりました。』

 シンの後ろに乗ってるだけでスキルが得られた。これまでの経験から、きっかけさえあれば、簡単にスキルが手に入る。

 聖女と勇者は特別なのだろうか。

「シン? 〝乗馬〟スキルが入った。」

「ん? そんなスキルがあるのか? 俺は持ってないぞ?」

「え? そうなの? ちょっと待って。」

 あたしは〝乗馬〟を検索してみる。

『乗馬。馬を乗りこなすことができる。上位スキルに騎獣。乗騎できる獣を乗りこなすことができる。がある。』 

「何かわかったかい?」

「上位スキルに〝騎獣〟って、獣に乗れるようになるみたい。シンは馬に乗れるから、取れるとしたらそっちなんじゃないかな。剣士とか英雄のスキルかもね。」

「なるほどね。それはそれとして、スキルが手に入ったなら乗馬してみようか!」

「え? むりむりむり! いきなりはムリ!」

 あたしは抵抗した。突然の修行モードに心の準備ができてなかったのだ。シンの後という居心地のいい場所から追い出されて一人で馬に乗る? そう。別の意味でも抵抗したかった。

「大丈夫! 俺が手綱を引いてやろう。」

 シンは明らかに面白がっていた。そんなところが男の子だなって思う。

「無理だったら、また後に乗せてよね!」

「乗りこなせたら、今度は俺が後に乗せてもらうかな!」

「・・・ん?」

 あたしが前でのタンデム乗馬の様子を想像してみた。それはそれでアリかもしれない。ちょっと頑張ってみようと思った。

 荷物を半分に割って、シンの黒馬に乗せ換え、そしてシンに手伝ってもらって、もう一頭の白馬に登ってみた。まさに登るの表現が正しい。一人だとその高さに改めて顔が引きつる。

 シンがはじめは歩いて手綱を引いてくれた。

 やはりスキルを得たからだろうか。何となく馬の動きが分かり、体を合わせられる。

『ピロン! スキル〝乗馬〟レベル2になりました。』 

 シンは大丈夫と思ったのか、自分も馬に跨って、手綱を引いてくれた。スピードが上がった。

『ピロン! スキル〝乗馬〟レベル3になりました。』 

 レベルアップが速い。

「ほぅ。スキルの恩恵ってすごいな! もう一人でいけるんじゃないか?」

 そう言いながら、あたしと並走し、さり気なく手綱を渡して来た。あまりに自然なので、何をされたのか一瞬分からなかった。手綱を渡されてちょっとして気付く。

「ちょちょちょっ! ムリムリムリ! 何渡してんの! 鬼~!」

『ピロン! スキル〝乗馬〟レベル4になりました。』

 レベルが上がると、たった今まで感じていた恐怖がすぅっと引いていくのが感じられた。

 代わりに入って来たのが周りを見る余裕だ。まだ高さに慣れないが、通り過ぎていく風の音、大地の匂い、大気の温度が感じられる。

 歩いていた時や、シンの後ではわからなかった感覚だ。

『ピロン! スキル〝予感〟を獲得しました。聖女クラス31になりました。』

(ははっ! 初めての経験をすると、スキルラッシュになるなぁ。)

「なかなかサマになってきたぞ? どうだい? 気持ちいいだろう!」

 あたしはついさっきまで騒いでいたのが恥ずかしくなって、そっぽをを向いて言った。

「うん。ありがと。どうやら乗れるようになった・・・鬼教官のおかげだな!」

 そう言うと、あたしは照れ隠しに駆け足のスピードを上げた。シンが言うようにとても気持ちがいい。

「ははは。俄然楽しくなってきたな!」

 シンが子供のようにはしゃいでいる。それを見てあたしも楽しくなってきた。

 風が耳の側を通り過ぎる。空気の微妙な変化も感じられる。

『ピロン! スキル〝予感〟レベル2になりました。』

『ピロン! スキル〝乗馬〟レベル5になりました。』


        ♢ ♢ ♢


 その日は、思いのほかはしゃいで馬を走らせたため、次の目的地である、スラアンバーの街に通じる途中の小さな町二つを抜いて、夕方には三つ目の町、クーヤミに着いた。

 小さな町は避難が完了していて、人っ子一人いない。魔物も何度か侵入したらしく、城壁の一部が崩壊していた。

 あたしたちは城門を潜って町中に入り、取り敢えず泊まれそうなところを探しているとシンが言った。

「何かいるな。俺の〝サーチ〟スキルに引っかかった。」

 シンのスキル名って、時々英語が混じる。〝サーチ〟を検索すると〝探知〟だった。翻訳のバグだろうか。まあ。不自由してないからいいか。

〝探知〟のスキルはあたしの所には現れてない。似たような〝捜査・探査〟があるからだろうか。ただ、常時発動できるところが羨ましい。

「どこ?」

「街の中央辺りだ。他には反応なし。」

 すかさずあたしは〝探査〟をかけた。

「うん。いるね。人みたい。二人。」

 シンはあからさまにホッとして、あたしに微笑みかけた。

「行ってみるか。」

「あ、その前に。暗くなる前に壁、補修して行こう?」

「ああ。そうだな。ありがとう。忘れるとこだった。」

 あたしたちは、城壁を一周して、壊れた壁部分をシンのスキル〝土壁〟を重ねて補修して行った。小さい町なのでそう時間はかからず終わった。

「これで取り敢えず安心して寝られるね!」

「避難済みの町の施設は自由に使っていいという話だったな。後で宿を探すとして・・・ さっきの人は全く動いてないな。怪我とかしてないといいが。」

「気を付けて行ってみよう。どんな人か分からないからね。」

 あたしたちは反応のあった、町の中心部にやって来た。どうやら教会の中らしい。

 慎重に扉を開けた。礼拝堂の様だ。人の気配はない。

「お~い! 誰かいるのか?」

 あたしはびっくりしてシンの思わずシンの顔を覗いた。どんな相手かも分からないのに、時々シンは大胆だ。

 その呼びかけに反応するように、微かな物音が奥の方で聞こえた。

 あたしたちは奥の方へ進んで行くと、壁際に扉があった。シンが慎重にそこを開けた。

 そこは小さな部屋で何もなかった。

「おかしいなぁ。反応はここからなんだが。」

 あたしは部屋の中を見渡すと、微かな違和感を感じた。

(これはあれだ。あたしの〝幻惑〟に似た魔法の気配がする。)

「シン。この中に風をおこして?」

 シンはあたしのその言葉に察したようで、頷くとすぐに威力を調節した〝旋風〟のスキルを使った。抑えたとは言え、攻撃スキルだ。結構な風量が小さな部屋に渦巻いた。

「きゃああ!」

「うわああ!」

 二つの悲鳴があげられ、風が収まった後には二つの子供の人影があった。部屋の隅っこで庇いあうように小さくなっていた。

「すまない。乱暴して。怪我はないかい?」

 あたしはなるべくフレンドリーな様子で、二人に近づいて行った。

 二人はそこそこ身なりの良い、男の子と女の子だ。凄くかわいらしい。目を見開いてこちらを警戒している。すると、女の子が声をあげた。

「・・・おにいちゃん。この人たちは大丈夫。」

 その声で、二人は緊張を解き、一気に弛緩した。

「おい! 大丈夫か?」

 シンが駆け寄り、二人を抱き起して手早く診察した。意識はある様だ。

 あたしも後から〝回復〟をかけながら様子を見た。

 暫くすると二人とも落ち着いて来たようで、ひとこと言った。

「おなかすいた・・・」

 金髪の男の子は年の頃十二、三くらいか。銀髪の女の子は八、九歳というところ。それぞれを背負って教会を出、適当な宿を探して入り込んだ。

 あたしは二人を休ませている間に厨房を借り、〝収納〟から食材を出し、消化の良いスープを手早く作って、二人の元に持って行った。

「ありがとう。お兄さん。」

 男の子が礼を言った。お兄さん呼ばわりされたあたしは、慣れているはずなのに何故か複雑な気持ちになった。

 二人は、凄い勢いでスープを飲んだ。それを見てあたしが訊ねた。

「どういたしまして。いったいどのくらい食べてなかったんだい?」

「三日くらい?」

 男の子が答えると、女の子も頷いている。それを見てシンが言った。

「そのくらいなら、もう少し食べても大丈夫だろう。若いしな!」

 シンは自分の袋から出すふりをして、〝収納〟内の保存食を取り出した。あたしが作ったお弁当だ。〝収納〟内は無菌なので、多少の保存が利く。因みに上位スキルの〝保管〟は時間経過が無い。さっさと取得したい。

「おいしい!」

 二人はそう言ってくれて、さっさと平らげてしまった。


        ♢ ♢ ♢


「改めて。俺はシン。こちらはマシロ。北に向けて旅をしている。君たちは子供二人でどうしてこんなところにいるんだい?」

 それには男の子が答えた。

「名乗りもせず失礼しました。僕はクレス。こっちが双子の妹のクレア。救けていただいて有難うございました。」

「えっ! 双子なの?」

 あたしが思わず素っ頓狂な声をあげたのでクレスが驚いた顔をした。しまった! 素がでてしまった。するとクレアが言った。

「大丈夫だよおにいちゃん。このひと女の人だよ?」

「え? わ、わかるの?」

 今度はあたしが驚く番だ。最近、全然バレないんで変な自信をつけてきたところだった。この子もフラウと同じでスキル持ちなんだろうか。思わずシンを見ると深く頷いた。

「僕たちは全然似てないね、とはよく言われます。けど、確かに同じ時を同じ場所で過ごしました。ただ、妹の方は成長が遅いようで。」

『ピロン! スキル〝概要〟のレベルが20になりました。スキル〝鑑定〟を獲得しました。聖女クラス32になりました。』

 ちょっと顔が引きつったかもしれない。思わずクレアの背格好を測ってしまった様だ。

「幾つになるの?」

「十二です。」

「え~? 随分としっかりしてるね。ところで、どうしてあんなところに隠れていたのか教えてくれる?」

 クレスはクレアの顔を見、頷くのを確認して、訥々と話し始めた。


        ♢ ♢ ♢


 クレスとクレアは、お隣サンドレア国から、サンクトレイル王都の学園に留学中だったこと。

 数か月前にサンクトレイル国内で避難指示が出されたことで、初めて〝大海嘯〟が起きていることを知り、国の家族が心配でなんとか帰ろうとしていたことを語った。

 〝大海嘯〟は初めて聞く言葉だったので、脳内検索をかけたところ、今起きているパンデミックやスタンピードを含む何百年かおきに起こる現象のことだった。前の世界では海から来る災害のことだが、ここではそう翻訳された。そんな言葉を知っているこの子たちは、良いところの子供だろう。

 シンが言葉を挟んだ。

「しかし無茶するなぁ。大人たちは止めなかったのかい?」

「勿論、止められましたが、しばらく前から、国からの手紙も途絶え、どうしても帰らなくちゃと思うようになって。クレアも同じ気持ちで。妹と二人なら何とかなると思って。王都を抜け出して・・・ 」

 これまでの苦労を思い出したのか、思わず涙ぐんでいるクレスだった。

「どうしても家族に会いたかったんだね。」

 あたしはクレスに近づいて頭を撫でた。そこからはクレアが話を引き継いだ。

「王都を抜け出して、徒歩で国に向かってたんですが、この町に辿り着いたところで、食料が尽き、町の人が残して行ったものを漁りながら計画を練り直していたところ魔物が町に入って来たんです。三日前の夜にはたくさん入ってきて、必死であの教会に隠れて。それからは怖くて外に出られなくなって・・・ そんな時にあなた方に助けられたんです。命の恩人です。本当にありがとうございました。」

 見た目八歳ぐらいのクレアの話す様子は妙に大人びていて、十二歳どころじゃないギャップを感じた。正直、あのフラウより幼い見た目なのだ。この世界の幼女はみんなしっかりしているのだろうか。あ、この子は幼女じゃないか。ん? 幼女って何歳以下だ? あたしはちょっと混乱気味だ。

 今度はクレスが口を開いた。必死な様子だ。

「あの! さっき北を目指して旅をしている、と仰いました。僕たちも連れて行ってもらえませんか! どうか。お願いします!」

 それに対してシンは慎重だった。

「この旅は結構危険なものになると思うんだ。俺たちもここに来るまでにスタンピードに遭遇したしね。しかし、子供二人で良くここまで来たね。正直、よく無事でいられたと思う。ちょっと考えさせてくれ。取り敢えず今日はよく休むことだ。」

 クレスはおとなしく、はい、と答えた。聞き分けのいい子だ。なのに王都を飛び出すなんて、よっぽどのことなのだろう。

「さあ? 二人はだいぶ汚れてるね。綺麗にしてあげるからこっちにおいで?」

 汚れてると言われて、クレアがすごく恥ずかしそうな表情をした。何をされるのかとクレスが怪訝な顔をする。ここは同じ女性の誼でクレアから綺麗にしてあげよう。

 その場で綺麗にしてもいいのだが、女の子が綺麗になるのは個室が良いのだ。クレアを別室に連れて行き、丁寧に〝清浄〟をかけて行く。 クレアは始めはびっくりしていたが、そのうち気持ち良くなってきたのだろう。すごいすごい! と言って喜んでいた。最後に軽く香りづけをしてあげる。

「おにいちゃん! マシロさんすごい! おにいちゃんもやってもらって? きっと気に入るから。」

「だろう? マシロは凄いんだ。俺も後でお願いするよ。」

 シンが怪訝な顔をするクレスを横目に見ながらフォローを入れた。

 クレスが無言で頷くと、あたしはその場で〝清浄〟をかけた。男の子は場所なんぞ選ばないだろう。たぶん。

 クレスも最初は驚いた顔をしていたが、次第にリラックスした表情になった。

「こんな。こんな魔法は初めて見ました。すごく気持ちいいです。ありがとうございます。」

「ふふ。レアな魔法だからね。できれば黙ってて欲しいかな。」

 完全に隠したい訳ではないが、色々とトラブルを避けるためには、あまり知られたくない。

「はい! 分かりました。人には言いません。」

 クレスがビシッとして行った。クレアも深く頷く。自分たちもレアスキル持ちらしいから気持ちがわかるのだろう。

「それじゃあ、ゆっくりお休み。また明日話をしよう。」

 シンがそう言うと、二人は神妙に頷いた。


        ♢ ♢ ♢


「クレスのスキルは〝静寂〟、クレアは〝霊感〟ってやつだな。」

「視たの?」

「まあね。必要だと思ったからね。」

 適当な部屋をとって二人きりになると、シンが、双子の兄妹のスキルの正体を言ってきた。

 言うまでもなく、〝静寂〟はあたしの持つ〝幻惑〟の上位スキルで、対象の姿が察知されなくなるものだった。ただ、あたしたちがやった様にスキルで察知することは可能の様だ。

 〝霊感〟については、

『霊感。対象の本質を感じ取ることができる。上位スキルとして霊視。対象の本質を視ることができる。がある。』

 魔法理解にはそうある。それだけでは〝鑑定〟と似たようなスキルに見える。まあ。検索内容は概要しか記されてないので、詳細は違うのかも。

 クレアがあたしの正体を知ったのはそれによるのだろう。

 あたしはシンに問いたいことがあった。

「あの子たちを連れて行くことを保留したのはなぜ?」

「うん。見たところ、あの兄妹はその歳相応以上の賢さを持ち合わせているようだ。なのに二人だけでこの旅を強行したことに違和感があってね。無謀なのは気付いてたと思うんだ。俺たちが保護したことで、少し余裕ができたろう。二、三日ゆっくり考えてもらって、またどうしたいか訊いてみよう。俺たちが納得できるなら連れて行ってもいいと思っているよ。」

「はぁ。なるほど。ここからの旅は厳しいものになるかもだもんね。あの子たちを危ない目に合わせるわけにはいかないもんね・・・」

「もし、王都に返す方がいいと判断したら、次の街スラアンバーで王都行きの隊商なり、避難民なりを探して預けよう。」

「うん。そうね・・・ところでね。シンに話したいことがあるんだ。」

 思わずあたしは、すこし顔をこわばらせて言ったので、シンは顔に緊張を走らせた。

「な、なんだ? 急に改まって。」

「えっと・・あのね? さっきあたし〝鑑定〟取ったんだ。」

「おう! おめでとう! マシロずっと欲しがってたもんな!」

「そ、それでね? あたし言ったじゃない。〝鑑定〟取れたら・・み、見せあいっこしようって。あれさ。保留にしてくれない? あたし恥ずかしくなっちゃって・・・」

 あたしは、顔から火が吹き出そうだ。それを見たシンは優しく言った。

「ああ。そうだな。ものによっては人に見られるのは恥ずかしいよな。

特に称号ってやつ。悪意を感じるやつもあるからな。」

「そう! それ。あまり見られたくないかな。」

 あたしが恥ずかしがっているのは、〝見せあいっこ〟の部分なのだが、称号の部分も恥ずかしい。

「ねえ。あたしはまだ使ってないけど、〝鑑定〟でどこまで視えるの?」

「俺はまだレベル2だから人に対してはスキル名が視えるだけだね。レベルが上がると色んなものが視えてくるんだろうが。称号もね。もの探しには便利なスキルだから、マシロにはあっという間に抜かれるだろうね。薬草鑑定とか役に立つと思う。」

「そっか。それは楽しみだな。それにしても称号って何なのだろうね。視えてなくって良かった。」

「それには同意だ。ふふ。覗くなよ? マシロ?」

「覗かないよ! シンこそね! 乙女のプライバシーなんだからね!」

「ははは! わかったわかった。」

 あたしの恥ずかしさは、その笑い声で吹き飛ばされた。

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