第6話 旅の準備とランクアップ
《九十日目》
『ピロン! スキル〝聖鎧〟のレベルが20になりました。上位スキル〝聖壁〟を獲得しました。聖女クラス27になりました。』
レベルは20がカンストの様だ。転生特典はクラス10で最後だったみたいで、以降出てきてない。まあ、この世の知識は十分すぎるほど詰め込まれた。
そろそろ冒険者ランクがDになる頃だ。スキルの〝記録〟と数理理解により意識しないでもわかる。
「お弁当持って来たんだ。そろそろ休憩しない?」
あたしはシンに声をかけた。
「やあ。ありがとう。マシロの弁当は旨くていつも楽しみだよ。」
シンの言葉に思わずにやける。天然のたらしだな。よそで発揮してないといいけど。
ここのところ鍛えているせいで、シンは益々男前になっていた。
街中では振り返って見られるレベルだ。
この世界の暦で一か月半、元の世界では三か月にあたるが、二人でひたすらレベル上げをしてきた。
しかし、途中で気付いたんだ。冒険者ランク上昇スピードが速いことを。これが転生チートだと気付くのは早かった。
おかしくない程度にクエストをこなしてコントロールした。それ以外は自重なしで鍛えたので、実力はランクAにも引けを取らないだろう。
ステータスボードを開いてみる。
名前 白鳥ゆり(如月ましろ)
性別 女
ジョブ・クラス 聖女・26
スキル・レベル 治癒・20、聖癒・1、清光・15、愛歌6、捜査・20、探査・1、概要・19、幻惑・15、清浄・20、聖浄・1、記録・9、聖鎧・20、聖壁・1、診療・8、調合・20、錬金・1、回復・15、収納・17、光照・9、剣術・20、剣技・5、生水・6、聖水・9、発火・6、盾術・3、回復・12
アビリティ 言語理解・表記理解、魔法理解、地理理解・歴史理解・経済理解・構成理解・数理理解・法典理解・芸術理解・ステータスボード
称号 異世界のたらしめ、歌のおねえさん、祓い巫女、伝説の掃除婦、変装の達人、天才マッサージ師、人気異世界料理人、スキルの導師、自己治療マスター、はにかみ女子、癒しの女神、自動書記人形、綺麗好き、エクソシスト、水先案内人、剣の修行者、防御マスター、水芸の探究者、火遊び魔、勇者の伴侶
色々増えてごちゃごちゃしている。スキルに関しては、聖女に関係無さそうなのも散見される。聖の字が付くのは聖女スキルだろう。名前は主観表示かな?
どうやら他のジョブスキルでも低位のものは取れる様だ。
組合では剣士を名乗っているので、剣技まで頑張って取得した。
盾術も取ったが、聖鎧の方が強力なので、フェイクとして使おうと思う。
そして、収納! あるんじゃないかと思いながらも期待せず、検索したら引っかかった。すごく嬉しかった。発現まで苦労したがやっとものにした。
称号は相変わらず突っ込みたくなるものが多い。称号ですら無いのもある。
(ん? 勇者の伴侶?)
思わず、手で隠そうと動いてしまった。
「ん? どうした? あ。熱があるんじゃないか?」
同じく自分のチェックをしていたシンがこちらを見た。恐らく顔が真っ赤だったろう。さっと手を伸ばし、頬に触れた。
素早い! さすが勇者だ。
「にゃああ! なんでもないなんともない! ちょっと川で顔あらってくるぅ!」
あたしは一目散に川に駆けた。
最近のあたしはどうもシンを意識しすぎだ。どうしよう。
♢ ♢ ♢
「おめでとうございます! ランクDに昇格です。 当ギルド歴代2位の速さです。凄いです!」
受付嬢よりお祝いの言葉をもらった。周りからもスゲー、とかおめでとう、とか言葉をもらう。
「ありがとう! ありがとう!」
あたしは満面の笑顔と大袈裟なアクションで皆にお礼を返す。こういうのは得意だ。
シンは苦笑しながら、側で見ている。
このひと月で、あたしたちは結構注目されていた。
受注クエストを厳選しているとは言え、高達成率で順調にクエストをこなし、ランクEには最速で到達した。しかも二人で。
二人パーティは確かに多くはない。普通は四、五人で構成される。
最初の頃は二人ともよく勧誘された。
『俺は、マシロ一筋だ。マシロ以外と組もうとは思わん。』
なんて、シンが言うものだから、要らぬ噂が立ってしまった。
『ボクもシンと二人がいいかな? すまないね子猫ちゃん達。』
あたしが女性パーティに誘われたときに言った言葉が決定打かな。
一部の少し腐った女子たちに、きゃあきゃあ言われるようになってから、注目度が高くなったように思う。
目の前の受付嬢もその一人で、目をキラキラさせている。
「すまないが、これを機会に、周りの街を見て回ってこようと思う。情報をもらえないだろうか。」
「え~? 帰ってきますよね?」
「もちろん。ボク達のホームはこの王都と思っているよ。」
そうあたしが答えると、受付嬢は安堵の顔で、あたしたちを応接テーブルの方へ誘った。
地図を広げて説明を始める。
「王都サンクトレイルから一番近いのは、ここアラレイドルになります。歩いて約半日、朝早く出れば、夕方には着きます。次に近いのは、ここスラアンバーですね。アラレイドルからは歩いて一日半の場所にあって、中間地点に城塞村があります。ただ、お聞きになってると思いますが、半年前にサンクトレイル全域に避難勧告がでていて、どこも閑散としてますよ? あまり人は残ってないと思います。」
お聞きになってませんが? あたしは驚いてシンの顔を見た。
シンは小さく首を振って、知らないことを伝えて来た。
あたしは、当たり障りのない質問をして状況把握に努めた。
「あ~、すまないが、状況を詳しく把握しときたいものでね。皆はどこに避難してるんだい?」
「ここ、サンクトレイル王都と、第二の都市、エリサムートですね。両者ともここ半年で人口は約二倍になってますよ。」
いや。増えているとは思ってたけど。食堂や酒場でもそんな悲壮な感じの人はあまり見かけなかったし、気付かなかったな。
レベル上げに夢中だったからかな。そういえば、城門の外では旅人が多かったな。
あれこれ考えていると、シンが口を開いた。
「動けない者も沢山いるだろう。どうしてるんだ?」
「動けない人や、病気の人はそれぞれの街で、救護施設に集められてます。国から治癒師、薬師が派遣されてます。サンクトレイルは魔物スタンピードや、伝染病パンデミックに対して早めの対応が為されます。他の国ほど深刻にはならないと思います。」
「他国はどんな感じなんだ?」
「あまり知らされてませんが、組合に入ってきている情報では、かなり深刻です。例えばお隣、サンドレア国は既に人口の三割が犠牲になったと・・・」
「まじか・・」
「そんな感じですが、国内はまだ平静を保っております。やはり行かれますか?」
それにはあたしが答えた。
「ああ。行ってくるよ。帰ってきたときに状況を知らせる。」
♢ ♢ ♢
「そんなに深刻だったとはね。」
あたしたちはいつものベンチで並んで腰を下ろし予定を立てていた。
周りに人が少ないので、内緒話にはもってこいの場所だ。
「ああ。どうやら勇者と聖女の初仕事になりそうだ。協力してくれるかい?」
「シンがそう言うなら。医者として見過ごせないんでしょ?」
「そうだな。少しでも命を救いたい思いで医者になった身としてはね。俺の国も紛争が絶えなかったから、救える命があれば救いたい。」
そんな国の人だったんだ。今更のように知ったシンの一面に、ちょっとショックを受けていた。
(まだ、シンのことよく知らないんだなぁ・・・)
あまりプライベートなことは訊いちゃいけないと思って、これまで深く知ろうとしてなかった。シンも訊かないので、同じ気持ちかと思っていたが・・・
「あたしはね。歌を歌って物語を演じる、俳優だったんだ。もし、あたしの歌が役に立つなら歌うよ? 癒しスキルもあるみたいだし。」
「お!なんと! マシロがアクターだと? 本気で驚いた。いや。これまでもそれっぽいことしてたな。」
シンが驚いた顔で、あたしを見てくる。そこはアクトレスじゃない?
驚かされるのはあたしの方が遥かに多いので、少し溜飲を下げる。
「ここに召喚されたとき、まさに舞台の上だったんだよ。何が起きたか分からなくてね。持っていた模擬剣をそこにいた王様に突き付けた。」
あたしは思い出してくすっと笑った。
「よく無事だったな・・・ 考えてみたら俺もだが。ちょっと暴れたもんな・・」
「ふふ。あたしが男装の理由はそこ。男役だったんだよ。けど、それが良い方に転んでるみたいね。」
「そうか。それで・・ 納得だ。」
あたしはシンに思い切って訊いてみた。
「シン。あたしはあなたのことをもっと知りたい。長い旅になりそうだから、少しずつでも教えてくれないかな?」
シンは本日二度目の驚いた顔をあたしに向けた。
「もちろんだ。マシロのことも聞かせてくれ。俺もマシロのことを知りたい。」
言ってしまってなんだが、これは照れる。シンの顔が赤い。あたしの顔も真っ赤だろう。
しばらく見つめあって、どちらからともなくクスクスと笑いが出た。
「ねえ。やっぱり、あたしはこのまま男装がいいと思うの。勇者と聖女のジョブはこれまで通り絶対の秘密。」
「そうだな。そんなものがバレたら、きっと行動に制限が出て来る。これまで通り、マシロは剣士で、俺は治癒師。俺の医者としての能力はこの世界では限界がある。マシロはそこをサポートしてくれたら助かる。マシロの剣のサポートは任せてくれ。」
「うん。分かった。頼りにしてる。最初の街はやっぱりアラレイドルかな。初めて外に出るしね。」
「ああ。そこで様子を見てみよう。」
「よし! 明日から行動開始だ。じゃあ、食事に行こうか。何にする?」
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