違和感
前提条件として異能倶楽部は三か所にいる幹部に対して応援を送る、そして合流することが出来れば優位に立つことが出来る。
一方陽炎は、餌にした幹部に向かってくる他の幹部の足止め、欲を言えば排除することによって優位に立つことが出来る。
だから、この戦いは向かってきた異能組織幹部とそれを合流させないように途中で足止めした両者における交戦による勝敗を競う戦いであった。
直接的な勝利にならなくても組織の支柱である幹部を失った組織はそれだけ不利になる。
そう言った話だった。
だが、川原千佳の様に戦闘には適していないから、他の幹部が合流するということが原則であればそれでよかっただろうが、生憎餌も幹部なのだからそう単純なものではなかった。
まず三人の幹部は身動きが取れない。
それは是と言えるが、必ずしもと言うわけではなかった。
相互監視の中、幹部以外のその場にいる構成員は基本的に動けないと考えてよかったが、幹部は民間人の攻撃以外は制限されていなかった。
足を引っ張るものと言えば、陽炎が潜ませた構成員やその手の者だろう。
強力な異能を使用してくるが、それでも反撃は許されないとなれば厄介な相手だった。
だが、逆に言えばそれだけだった。
それさえ、無視出来れば制限などあってない様なものだった。
理力による身体能力強化をして切り抜けることは出来ないと言い切ることは出来ない。
少々時間が掛かっても六大組織幹部に不可能なはずがなかった。
だから、陽炎の幹部たちは同時に制限時間が設けられていたと言っても良いだろう。
餌として機能していた幹部が、最大の敵となる前に応援に来た幹部を倒す。それだけのことだ。
そして、
その結果、すんでのところで梶野桐雅は包囲を抜けて駆け付けた。
いや、実際には様子見をしていた為、早い段階では居たのだが。
まあ、それも隙を狙うためと言う事と、ユキナがリリーの異能を暴いてくれることを期待してのことだったのだが。
そしてその甲斐もあって、手札をすべて切らせて尚且つ異能によって足の指が消えており動きが鈍った所で仕留めることが出来たのだった。
◆
異能倶楽部幹部、箱波、陽炎幹部、門浦茂樹は向かい合っていた。
ビルの屋上、当然遮るものもなく風が靡いた。
瞬間、門浦は発砲した。
異能使い、それも六大組織の幹部となれば理力によって身体能力だけでなく防御力も底上げすることは可能だ。
だが、何も無敵と言うわけではない。
場合によっては、銃も受けられるなんてこともあるが今の箱波にはそれは不可能だった。
だが、対処できないと言うわけではない。
手のひらを広げて正面から銃弾を受けた。
貫通するかの思われた手のひらはまるで銃弾を掴むようにして握られていて、手の甲に穴が開いているなんてこともなかった。
そんな様子にわずかに門浦は目を見開いた。
「ヒヒッ。そりゃ、どういう手品だ?」
「何を言う。お前も良く知っているだろう。異能だよ」
こともなげに箱波は答えた。
この世界に身を置いて今更異能に驚くなとばかりの物言いだった。
そして一方の門浦は推測をしていた。
始めの写真の入れ替えは転がっている死体、あるいは第三者の異能と言う事でまずは良いだろう。
では、こいつの異能は吸収と放出と言ったところだろうか。
今の銃弾を止めた力は、威力の吸収、そして先ほどの地面をえぐった攻撃は放出。
確定などとは言い難いが、可能性としては考えられる。
そんな考えをしている間にも、箱波の攻撃は迫る。
門浦も理力を使い応戦する。
お互いに周辺を吹き飛ばすような攻撃はしない。
門浦自身、その手の異能ではないし、恐らく箱波も出来ないのだろう。
唯一警戒すべきなのは、先ほどの銃弾の威力を吸収している可能性だ。
「吸収・放出」の異能だと仮定して戦うのだとすれば、この時点で高威力の攻撃をしてこないあたりストックは一つまでと考えて良い。
あるいは、複数あるが吸収できる威力には上限があり、それ以上は扱えない。
でなければ、初手で不意を突いたのだから高威力のものを使っていただろう。
それに、受けた攻撃の蓄積による積み重ねの線もなしとみて良い。
通常の六大組織相当の幹部とやりあうことを想定したなら、強い能力ではあったのだろう。
だが、陽炎の幹部は何も出力の高い異能を出せると言った基準で構成されていない。
絡めての多い陽炎幹部は箱波にとって不利な相手に他ならない。
門浦はそう確信した。
「ヒヒッ!」
箱波によって攻撃が仕掛けられる中、門浦は銃を向けた。
そして撃つのではなく、死角からナイフを滑り込ませた。
箱波はそれを避ける。
恐らく衝撃を吸収できたとしても、鋭利な刃物は弱点であるのだろう。
そして此処で異能を発動する。
その瞬間門浦が消えた。
幻術の類ではない。
明確に姿を消した。
そして、箱波の背後に姿を現した。
「ヒヒッ!終わりだっ!」
拳銃はすでに箱波の頭に向けられていた。
まだ箱波は振り向いていない。
その隙を与えることなく門浦は引き金を引いた。
「どーんっ!?」
だが、寸でのところで箱波によって銃が逸らされる。
そして地面に打たれた弾丸は跳弾した。
そんなことには構わず二人はお互いを睨みつけた。
「知ってるに決まっているだろう。お前の異能くらい。陰に潜り移動する。それが分かっていれば大した異能ではない」
「ヒヒッ。どうかな」
門浦はそう言って下にそらされた銃を陰に向かって撃った。
そしてワープでもするかのように撃った影とは別の場所から弾丸は飛び出す。
箱波はたまらず体を捻り回避する。
門浦の異能は、影と影の間を移動できる異能。
影に潜る際に攻撃されるなどで発動が中断されてしまうと言った制限もある力だが、弾丸を通過させることも可能だった。
無論代償は払う事となり、口から血を吐くがその程度安いものだ。
奥の手と言うべきこれを使うときは勝つことが前提であるのだから。
今度こそ、箱波の頭に拳銃を向けた。
そして構わず引き金を引いた。
「どーん…………ヒヒッ!?」
引き金を引いているのに弾が出ない。
引き金をもう一度引く。
やはり、出ない。
弾切れなんかじゃない。
装弾数は五。そしてまだ一つ残っている。
勘違いでも何でもなく、重さで分かる。
それなのに、何故?
「終わりだな」
混乱する頭で何故か門浦と同じくニューナンブM60を持った箱波が意識が途絶える前に見た光景だった。
血を流して倒れた門浦を箱波は見下ろした。
そして屈むと彼の手から銃を回収した。
「流石にこれを放置するわけには行かないな」
そして「もう一つ」と思い出したように彼の懐から写真を抜き出した。
元々、箱波の写真と入れ替えるように潜まされた偽物の写真。
部下の一人の写真と同じ格好をさせて撮ったものだ。
そしてその顔は転がっている死体と同じものだった。
「データじゃなくて現物を持っていたから入れ替えたが。……態々、ここまでしたのだから、気付いても良かっただろうに」
最後まで異能を暴けなかっただろう男を見てそう言った。
そして回収した偽物の写真の裏面には「異能倶楽部幹部、箱波」とペンで書かれていた。
箱波は立ち上がって振り返ると、人影が二つ出て来た。
「行くぞ」
部下だろうその人影にそう短く言うと、箱波は歩き出した。
それについていく部下の顔を見れば、偽物の写真に写る顔と片方の部下の顔は一緒であった。
そして、転がっていた死体はだんだんと蒸発でもするかのように煙が巻いていた。
◆
ユキナ及び桐雅と箱波──昇利が、陽炎幹部であるリリーそして門浦を撃破した。
そして同時刻、餌として名前を晒されていた水ノ上凛也によって更に瀬古口、隅木両名も地に伏していた。
残る幹部は三人。
ツムギが手に入れた情報によってそれは分かっていた。
ボスを入れても四人。
終わりが近い。
だが、それと同時にすでに敵と交戦した異能倶楽部幹部は違和感を持っていた。
それは敵の強さから来るものだ。
無論幹部と言うだけあって強い。
並みの異能組織とは思えないほどに。
だが、六大組織に喧嘩を売るほど強いかと聞かれれば、首を横に振る。
有象無象の中では群を抜いて強いだろう。
それも六大組織の幹部と戦いと呼べるほどのことが出来るくらいには。
ただ、やはり正面からぶつかろうなどと思えるレベルではない。
周囲のモニターで大胆に宣戦布告をしてことを大きくして、他の組織が介入したところで弱体化を望んでいたとは思えない。
今だに、態々散々隠してきた自分たちの正体を裏の世界までか、表で大々的にさらしたのかも分からない。
「本当の目的は何だ?」
水ノ上凛也はすでに伸びきり床に倒れこむ二人になど目もくれずにビルの屋上から遠くを見てそう言った。
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