狼煙
今回の戦局で重要になるのはやはり情報であった。
いや、別に情報が重要であると言うのは至極当然の話でそれは今回に限った話ではない。
だが、特段に重要視されるのが今であった。
異能倶楽部と陽炎。
その二つの組織間での情報の差は圧倒的に陽炎が優位になっていた。
そもそも異能倶楽部自体六大組織と言うだけあって情報の秘匿は大げさと言えるほどにしている。
だが、それ以上に名が売れていることもあって少なくとも二つ名がついている幹部の異能は割れてしまっていた。
対して陽炎は未だにしっぽを掴ませようとしない。
異能倶楽部でもある程度の情報を得ようと試みたが、相手に取られたアドバンテージを覆せるほどのものではなかった。
そして最重要の情報は幹部の数だと異能倶楽部は考えていた。
幹部と幹部のぶつかり合いだ。
それを考えれば、それ以外の構成員は羽虫にも等しく考慮するまでもない。
単純に数少ない強い駒をどう動かすのかが命運を握っていた。
だから、一番異能倶楽部が欲しているのは陽炎の幹部級の人数。
少なくとも、存在自体は抑えていた門浦を始めとするメンバーは居るが、何人いるかわからなければ意味がなかった。
そして、その情報をツムギは遅ればせながら入手することに成功していた。
「ええ。助かったわ」
今現在すでに幹部は交戦に入っている。
だが、指揮役ということを踏まえても、彼女が直接動かないのは別におかしな話ではなかった。
そんな彼女は、どこかの一室でスマホを耳に充てていた。
「貴方の情報のおかげでどう手を打てばいいかわかったわ。ありがとう」
電話口の向こうに感謝の意を述べた彼女は通話を切って、耳から離した。
そして、薄く笑ってこう言った。
「陽炎の幹部級は七人」
奇しくもその数は異能倶楽部の幹部と同数であった。
◆
大変なことになった。
そんな風に思いながら、俺は移動をしていた。
先ほどの放送で犯罪などしていないただのクラブ活動に等しい異能倶楽部がまるで異能犯罪組織であるかのような情報が広まってしまった。
しかも、クラブに属する三人の顔と本名までさらされてしまう始末。
きっとネットでは誹謗中傷が絶えなく、実生活の支障は計り知れないだろう。
許せない。
そうは思うものの、誰がこんな悪質ないたずらをしたのかも俺には見当がつかない。
一瞬、六大組織?の皆を疑いそうになるが、確か放送では異能倶楽部の他にも六大組織の名前も出ていた。
自ら自分の首を絞めるような真似はしないだろうと考えていったん冷静になろうと心を落ち着ける。
一番考えられる可能性としては、俺が当初危険視していたように犯罪に巻き込まれてしまったという事。
異能倶楽部の皆が調子づいて何かをやらかしてしまった場合、ちょっかいを掛けて来る悪い人たちがいるのではないかと言う憶測だ。
もしそうでなくとも、六大組織の皆が、そう言うことをされてそのつながりで異能倶楽部にも飛び火したと言う可能性も考えられる。
彼らも彼らで、中二っぽい言動をしていたから、どこかで異能を使ってしまい……なんてこともないとは言えない。
とにかく、今はこの状況の解決策を考えることが最優先だろう。
でも、それを俺が出来るかと言われれば、今のところ否だろう。
先ほど言ったように、どこの誰がしたかも分からない。
だから、とにかくまずは連絡を取ろうとスマホをポケットから出してメッセージアプリを開いた。
でも、文字を打って送ろうとした時、なかなか読み込みが遅いことに気付いた。
「電波が悪いのかな」
これでは、メッセージ一つ遅れない。
皆の無事や様子を確認しようにもそれすらできない。
うーん、と頭を悩ませる。
どうしたものかと考えていると、一つ案を思いついた。
「そうだ。俺にはこれがある」
つい忘れてしまいがちではあるものの、俺には異能と言う力がある。
あれだけ恋焦がれた力だったけど手にした後、ふとした瞬間に意識の外にあると言うのは度し難いものである。
まあ、とにかく異能だって俺の身体機能だ。
使わない手はない。
俺は、異能の出力を上げて真上に出力した。
もちろん見た目は黒い電気だ。
意図としては、通信障害が起こっている今、皆が集合しやすいように俺の居場所を伝えたのだ。
みんなに見せたのは、あの黒い電気だ。
だから、変に見た目を変えることなく放出した。
便利なものである。
とは言え、使うのが俺であればそこまでいい案も思いつかないから、極めて方法は原始的なんだけど。
そのせいか、結局時間を少し開けてから不安でもう一発撃ってしまった。
一回目はともかくとして、二回もとなれば関係ない人も来てしまいそうだ。
◆
陽炎と異能倶楽部の抗争は当たり前のことではあるが、裏の世界でも周知のこととなっていた。
大々的に陽炎が異能倶楽部に名指しをして、事実上の宣戦布告を行ったのだ。
気付かないはずもなかった。
この情報は一気に共有されて中小の異能組織に駆け巡った。
現在、両組織の幹部同士がぶつかっている。
これは絶好の機会だった。
六大組織幹部と正面からやりあうことが出来るのは、どう考えたって同格のものでなければ無理だ。
通常、六大同盟の影響でそんなことは起こらない。
だが、今回は違った。
六大組織に名を連ねていないものの、それらの組織が脅威と認める組織、陽炎が正面からぶつかるのだ。
普段つくことが出来ない異能倶楽部の隙をつけるかもしれない。
そう思った。
そして、同じことを考えた異能組織は多くいた。
六大組織の一つを落とせば、その座に自分たちが座れる。
そうでなくても恩恵は計り知れない。
だから、それらの組織は対立するかに思えた。
利益の取り合いが獲物を前にして行われる。
だが、そうではなかった。
別に珍しい話でもなかった。異能倶楽部と言う組織を知っていれば、そんなことは起こらないと言う事は容易に想像がつくほどだ。
何故、六大組織はその地位を独占しているのか。
それをちゃんと理解していれば自然、その答えがでる。
簡単な話だ。
力。
圧倒的な力の上に彼らはその地位を得ているのだ。
それを椅子から引きづり落して自分が座る。
なら、一組織で抜け駆けしても勝てないことは明白だった。
よって答えは共謀。
二桁を超える中小組織全員で異能組織を引きづり落す。
そんな考えが皆の総意となった。
強大な敵がいれば今までバラバラだった組織達が手を取り合う。
そんな歴史で習うようなことが実際に起きていた。
各組織は選りすぐりの精鋭を集めた。
中途半端では意味がない。
幹部たちの交戦に対して他の下級の構成員を勘定に入れないで作戦を練るほどだ。
木っ端な者が行っても何になるわけでもない。
そして編成が完了して次は目標を、なんて考えていた時それは見えた。
「黒い稲妻」
誰かが呟いた。
誰が言ったかは分からない。
だが、そんなことはどうでもいい。
どうせ皆が同じものを想像していたのだから。
きっとあの先にいるのだ。
異能倶楽部のボスが。
幹部を横から襲うよりもよっぽど効率的で確実だ。
万全の状態でアレを叩けば道は開ける。
その場にいた皆はお互いの顔を見た。
今までにないほどに多くの異能組織がその場に集まっていた。
多種多様な人間が大勢いた。
だが一人のずれもなく、皆の顔には覚悟が浮かんでいた。
「俺たちの目的は異能倶楽部のボス、ルカの首だ!散々高みから見下ろしてきた奴らを引きづり落すぞ!!」
その声に、その場にいたもの全員が呼応した。
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