予定


 異能倶楽部と言う組織の特性上、構成員の多くは学生である。

 それは噂程度ではあるが大衆にも広まるほどの周知の事実だった。

 だから、異能組織の存在を軽視している者や噂程度で語る学生からすれば元々チンピラ同然の学生が異能という力によって成りあがった、そんな程度の認識だった。


 構成員のほとんどは学生である。

 それは幹部に至るまで事実である。

 だが、そうではないのだ。


 そもそもの話、異能倶楽部の前身となったネクサスを作ったのは白津ツムギと言う少女だ。

 それも活動開始時期は中学生、その情報だけ見ればただの子供だった。

 だが、彼女の家まで見ればそうも言えなかった。

 大金持ち、そんな表現では生ぬるいような家庭に生まれた彼女はそもそもの地力が違ったのだ。


 初期のメンバーの集め方だって仲良しごっこの延長どころか、全国各地の異能所持者から秀でたものを選出する事から始まっている。

 後にボスとしてその地位につくリオの語った『居場所がない人』と言うのを前提条件としながらも確実に強力な人材を集めた。

 資金面での問題だって彼女の“おこづかい”で賄われるほどである。

 なんの後ろ盾もない不良集団が集まったのとは話が違った。


 だから、異能倶楽部の特徴である学生を中心とした組織構成と言うのも意図してのことだった。

 単純な話、学生と言う身分は最も疑われにくいと言う性質を持っている。

 さらに言えば、『居場所がない人』に原則限定しているために、運用がしやすかった。

 人生経験があまりなく、思考のコントロールがしやすい。

 そして、居場所のない彼ら彼女らにネクサスと言う居場所を提供して組織に依存させれば、暴走する可能性も抑えることが出来る。

 なによりも、そのひ弱な見た目から凶器さながらの異能を出せると言う条件まで付けば最高の人材と言えた。


 とは言え、他の組織がこの方法を採用するのは不可能と言っても良いほどのコストがかかり過ぎるのも難点だった。

 ひとえにボスであるリオを思うツムギの異常なまでの働きあって成立している状態であった。

 

 ただ、実際のところ本人たちは六大組織の異能倶楽部の構成員であると知らないものも多い。

 組織に依存させて教育を施すにしても所詮は末端。

 情報が漏れる可能性も多くあった。

 だから、架空の組織を作ることでそれを隠れ蓑にして活動を行っていた。

 本人たちは、違う組織に属しているつもりであっても、その実、異能倶楽部の一員であることも少なくない。


 まあ、そうした要因もあってか、時には『居場所がない人』以外でもバイトとして仕事を依頼することもあった。

 基本的に足がつくのですることは少ないが、それでも時と場合によっては有効な手段であることは確かだった。


 と、ここまで前置きをしたのにも理由があった。

 話はリオが幸か不幸か勘違いが重なり引き受けることになった陽炎という組織の話に移る。


 陽炎と言う組織は突如として現れ、まるで最初期のネクサスを彷彿とさせるような急成長を見せる組織だった。

 そして、六大組織のすべてがすでに脅威であると考え情報収集に移っている組織でもあった。

 それは、執拗に六大組織にちょっかいを出していることも含まれての事であったが、それでもその他の有象無象から頭一つ抜けていると言う事には変わりなかった。


 そして、幹部間の話し合いでは、すでに異能倶楽部とは相性が悪いため様子見に徹すると言う方針のもとに対応を取ろうと考えられていた組織だった。


 それはなぜか。

 理由は、異能倶楽部最大の特徴である学生を主とした構成員と言う状況を生かしきることが出来ない為であった。

 と言うのも、陽炎と言う組織は、全くと言っていいほど表に顔を出さない様な組織だった。

 資金調達のため、表と何かしらのつながりのある組織も多い中珍しい組織であった。


 そのため、放棄されたアジトこそ掴んでいるが、本拠地や重要な施設の場所も全くの不明と言っても過言ではない様な状態で恐らく人目につくような場所にはない可能性が高い。

 市街地を利用した学生を主とした諜報や奇襲作戦は取りづらかった。

 せっかくの学生と言う立場も普段学生が出入りしない様な場所であれば浮いてしまう。

 それ故に相性が悪いと判断されていた。






 ◆


 学校にもそろそろ慣れて来た俺は、昼休みになってカフェテリアに繰り出していた。

 券売機で注文するものを決めて受け取った後、席に着く。

 当然、いつも一緒に行動しているツムギちゃんとユキナちゃんも一緒だ。


 俺は早速注文したうどんを食べ始める。

 温かいのを注文したから冷めては意味がない。


「ズルズルズルっ」


 おいしい。

 正直ラーメンを食べようとして売り切れていたのでやむなく選んだうどんであったが、とても美味しかった。

 いつもラーメンを狙ってここに来るのだが大抵売り切れている。

 まあ、ここの利用者の数を見ればそれも仕方ないと納得せざるを得ないのだが。

 年度初めと言うこともあってか、入ったばかりの一年生の多くがここを使っているので落ち着くまで時間が掛かるだろう。


 ではなぜそんな状況で、ここに来てすぐに座れたのかという疑問も出ると思うのだが。

 実はここ場所取りが禁止のなのだ。

 これが珍しいかどうかはさておいて、レジャー施設のフードコートと言えば大抵が込んでいてまずは席を取っておかないと座れないような状態だ。

 このカフェテリアと言うか食堂はそう言ったことが必要がなく、さらに場所取りがないと言う事は注文をして受け取り次第座ることになるため、スムーズにそう言ったことが行われるのだ。

 正直、幼少のころ家族と出かけたことくらいしかない俺の経験からすればとても画期的なことに思えた。

 まあ、とは言えルールはあくまでルールであるため、それを守ることが出来るここの生徒たちにも感謝だが。

 

 複数ある券売機の内の中には上の階まで行列が出来ているところもあるくらいであるが、テーブルは適度に空席があるためこの方式の素晴らしさを知った。


「そういえば、リオ君」

「ん?」


 俺が麺を啜っていると同じテーブルに座るツムギちゃんが話しかけてくる。

 何だろうと思って首を傾げれば、彼女は言葉を続けた。


「前回の集会の時の話なんだけど」


 集会の時の話?

 いや、集会のことはもちろん忘れていない。

 中華料理店ではおいしい思い出がある。


「それがどうかした?」

「うん。その話をクラブの皆にしたんだけど」


 もしかして、皆も行きたいとか?

 そう言えば、ツムギちゃんとユキナちゃんは一応代表同士の話し合いと言う事なのか、律儀に後ろに立っていたから食べれなかったはずだ。

 そんなことに今まで気付かなかった俺は自分を恥じた。


 そして、彼女の言わんとすることは分かった。

 ご飯を一緒に食べに行った時の話を組織幹部の皆に話したのだろう。

 そしてその結果、今度は異能倶楽部の皆でご飯を食べに行こうと言う話になった。

 そう言う事だろう。


「いつやるかってことだよね」

「うん」


 俺が確認を取るとツムギちゃんは頷いた。


「皆の準備は?」

「いつでも大丈夫だよ。ね、ユキナちゃん」

「うん!」


 なるほど、あとは俺が時間を決める。

 そんなとこかな。

 普通話を進める中で候補日とか出てくるような気もするけど、皆ボスと言う事で俺に気を使ってくれたのだろうか。

 まあ、俺に合わせてくれるなら別に文句もないので俺が決めさせてもらおう。

 それで万が一時間が合わない人がいれば調整すればいい。


 そう考えていた時、ちょうど予鈴がなった。

 とりあえずうどんを片付けてしまおう。


「じゃあ、日時は追って連絡するよ」


 なんだかちょっとわくわくしてきた。

 全く見ず知らずの人がいた前回とは違って同じクラブ活動をする者同士の食事会。

 前回よりも楽しくなる気がする。

 まあ、懸念すべきは、ユキナちゃん以外の人とはまともに話したことがないくらいだけど、あの一回目にあった時から何度もツムギちゃんを伝ってボスになってほしいと打診が来るくらいだ、きっと歓迎してくれるだろう。

 ちゃんと日時まで決めてしまいたかったが、それは彼女に言った通り後でしよ。


 それにしても、昼休みがもう少し長ければなんて思う日が来るとは。

 友達がいなかったときは、誰とも話していなくともおかしくない授業時間こそが一番楽な時間だったのだ。

 勉強が平均よりも、というか大分できない俺がそんな状態だったのだから、驚くなと言う方が無理があった。


 まあ、とにかく、俺の高校生活はなんだかんだ言って充実していた。

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