身体測定


 学校が始まって早々に異能倶楽部の活動としてご飯を食べた俺だったが、翌日すぐにまた学校があると言うわけでもなく、家でゴロゴロしていた。

 元々友達がいたわけではないので特段珍しくもないのだが、最近少しずつ増えて来た人間関係の影響か一人でいるのもなんだか久しぶりな感じがした。


 暇さえあればツムギちゃんは休みの日でも家に来るので最近は一人の時間と言うのは減っていた。

 とは言え、彼女はずっと居座るわけではないし、俺自身一緒にいるのは楽しかったので別に迷惑していたなんてこともなかったのだが。


 それにしてもツムギちゃんが合鍵持っていた時は驚いた。

 本人によると俺がくれたらしいのだが、よくよく思い返してみれば俺自身寝ぼけていた時にオッケーと言ってしまった記憶があった。

 まあ、別に困るようなこともないのでそのままにしている。


 俺の身体が女体化したこともあるし、合鍵があろうとも彼女は律儀にインターホンを鳴らしてくれる。

 ツムギちゃんが鍵を使うのは俺がいないときに先に入って待っている時くらいだ。

 とは言え、俺は大抵家にいるのだが。

 遊んで遅れるにしても相手がツムギちゃんくらいしかいないわけだから、そりゃね。


 それより、いつもだったらツムギちゃんはこの時間に来るんだけど、一体用事って何なんだろうか。







 ◆


 現在、ツムギはリオに言った用事を済ませるためにとある場所へ足を向けていた。

 ネクサス改め異能倶楽部のアジトの一つである場所に存在する廊下、そしてその先に隔たる扉を見る。


 彼女が扉をくぐるとそこにはすでに六人の人影があった。

 異能倶楽部幹部の姿である。

 その中の一人が、声を上げた。


「今回はあのちびっこボスは居ないみたいだが、何で俺らを集めたんだ?」


「月一開催じゃなかったのか」とスカジャンを着た幹部の一人である男、梶野桐雅は続けた。


「口を慎みなさい。それに今回は緊急の用があるのよ」


 ツムギはそう言った。

 その言葉に皆が身構えた。

 その様子を見て話を続ける。


「昨日、六大同盟の集会があったことは知っているわね。そこで、陽炎の対処を異能倶楽部で受け持つことになった」


 簡潔にツムギは情報を共有した。

 本当はリオが可愛かっただのかっこよかっただのと集会の話をしたいところではあったのだが、やむなく断念した。

 今度他の美味しい店に連れてって上げようかなどと考えながら幹部たちの様子を伺った。


「別に反対はしないけど。どうしてそんなめんどくさいことに?」


 今度は別の者が口を開いた。

 テーブルにぐでーっと体重を掛けた少女は赤色のメッシュが混じる黒髪をいじった。

 名を二ツ神ふたつがみネッカと言い、その髪の色とは正反対にダルそうな雰囲気を醸し出していた。


 ネッカの質問にツムギは答えた。


「ボスであるリ、こほんっ……ルカが自ら集会に集まったボスたちに対して引き受けると言ったのよ」


 途中咳ばらいをしたツムギはそう言った。

 つまりボスの意向だと言う事。

 今までネクサスとして動いていた時は実質的には居なかったボスと言う存在。

 それ故に絶対的な命令をされることがなかった幹部たちにとっては、初の出来事とも言えた。

 なればこそ、はいそうですかと頷くこともなかった。

 いや、まずは疑うと言う至極当然のことをすると言えばいいか。


「陽炎ってのは、今までだってネクサスとしても情報を集めていた。でも、ウチの組織とは相性が悪いから様子見程度に抑えようって話じゃなかった?」


 ネッカは素朴な疑問をぶつけた。

 単純に今までとの方向性の違いに対しての疑問だった。

 それにツムギが答えようとして、いや、答えようとする前に他の者が答えた。


「大方力を見せつけようって話じゃないのか。安直過ぎる考えだが」

 

 眼鏡をかけた男はそう言った。

 彼も幹部であり名前は常澄昇利つねずみしょうりと言った。

 状況から考えれば、そうなるだろうと彼は考えていた。

 彼も言うように実に安直な話ではあるが、ルカが前回異能についての情報の多くを隠蔽したことを考えれば、幹部である自分達以上に外部の組織では情報を得られていないのだろうと推測出来た。

 そして今回の集会によって各組織のボスを見て判断したのだろう。

 どこまで情報を握らせて良いのかを。


 そんなこんなで話は続き。

 異能倶楽部の取りあえずの指針として陽炎の対処が上げられたのだった。

 ボスであるルカことリオがいない所で。







 ◆


 週も明けて学校が始まると身体測定があった。

 正直自分でも今の身長には気になるところがあったので少し楽しみなイベントだった。

 と言う事で、身長体重などなど測ったのだがそれより前に一つ頭を悩ませるイベントがあった。


 それは身体測定をするにあたっての更衣だった。

 今の俺の身体は女、つまり、女子更衣室に入ることとなる。

 俺に、女子更衣室に合法的に入れる状況で躊躇するような殊勝な考えはなかったはずなのだが、いざ、その扉を前にすると足を踏み留まってしまっていた。

 

「どうしたの?リオ君」


 俺の様子に気付いてかツムギちゃんは俺に声を掛けた。

 どうしたの?ではないだろう。

 そんなツッコミをしたくなったが、もしかしたら純粋無垢な彼女には邪な心などなく男である俺が良からぬ考えをする可能性があるだのと考えてすらいないのかもしれない。

 異能倶楽部の皆と関わっているのに何でこんなにまっすぐに育ったのだろうか。


「いや、なんというか。俺が入っていいのかなって」


 正直に話した。

 女体化云々の話を出さなければこれくらいの会話は人前でも出来る。

 だが、ツムギちゃんが何かを言う前に、後ろから来たユキナちゃんが俺の背中を押した。


「早く入ろ。遅れちゃうよ」

「え、うぉっとっと」


 抵抗むなしく俺は更衣室に押し込まれた。

 まあ、本気で拒否したわけでもなかったが。


 そう言えば中学は男子は教室で着替えてたな。

 水泳以外で更衣室を使うのは何気に初めてかもしれない。

 とは言え、感動することでもないので俺は荷物を置いて着替えを始めた。


 当たり前のように俺の両横にはツムギちゃんとユキナちゃんが陣取った。

 一瞬驚くが友達と一緒に更衣室に入って態々滅茶苦茶遠くに行くこともないか。

 中学までは一人で行動していたから、なんだか着替え中に囲まれると気になる。


 そんな俺とは違って二人はテキパキと脱いでいるが。

 そう言えば、俺の着替えに関してはツムギちゃんは見たことあるのだから特にアクションもないか。

 漫画とかだと女の子同士でデカいとかデカくないとかやっているのを見るが現実はそう甘くはない。


 横を向いたところでっっっっか!!???


 瞬時に俺は視線を前に戻した。

 すご。

 やばいな。

 人間てあそこまでなるんだ。


 俺のこのペタンコな胸とは違う。

 自分の胸を触りながらそうおもった。

 いやまあ、この愛らしい小さい体にでっかいたわわがついていても意味がないとは思うのだが。


「あれ~!リオちゃんもしかして大きいのが羨ましいの?」


 その時不意に声を掛けられた。

 ツムギちゃんでもユキナちゃんでもない。

 ギャルの人がそこにいた。

 本物のギャルの人だ。すげ~。

 しかも着替え途中。


 確か名前は、篠塚さんと言ったか。

 同じクラスの女の子だ。

 まあ、身体測定の関係上他クラスの子がいるはずもないのだが。


「え、えっと」

「ワタワタしてて可愛い!でも、やっぱり、リオちゃんは小さい方が良いと思うわよ」


 俺が上手く話せなくて困っていると彼女はそう言った。

 確かに小さい胸の良さも俺は知っている。その意見には同感だった。

 ギャルの人なのに優しい。これがオタクに優しいギャルって奴か。

 いや、俺がロリだからこその役得であるのだろう。


「あれ、おーい。リオちゃん?」


 俺が放心していたからか、ギャルの人こと篠塚さんは俺の前で手を振った。

 そこで我に返った俺は返事をしようとして、謎の圧力が顔面にかかった。

 なにこれ苦し、いや、やわらか、苦しい!


「リオ君困っているから」

「えー。お話もっとしたかったんだけどな~」


 俺は遅れてツムギちゃんに抱きかかえられていることに気付いた。

 なんだこれ凄い!


 ちなみに身長は136cmだった。

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